時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

足元危うい和食ブーム

 先日、北海道で漁業関係者の全国大会に招かれ意外な事実を知って驚いた。

 

 まず第一に日本人の魚介類を食べる量は年々減少傾向にあるというのだ。“日本人の魚好き”は、世界の常識と思っていたが、世界全体では魚を食べる人がふえているのに、いまや日本人だけが減っている傾向にあるらしい。1世帯あたりの魚介類支出金額は1990年代前半は年間約13万円あったのに、昨年(2012年)は77千円。干物や加工品はほとんど変わっていないのに、生鮮魚介類がガタ落ちなのだ。

 

魚介類消費、高齢者も減

 日本は海に囲まれ、寒流と暖流がぶつかる地域にもあるため、魚の宝庫だし新鮮で旬の魚は日本人の大好物と思っていた。とくに私のように年をとってくると、肉食から魚食にどんどん変化し、同世代の友人、知人たちも「最近は肉を食べなくなったな」という声を聞いていた。少子高齢化時代に入っているので“当然の現象”と思っていたら、高齢者も干物や加工した魚は食べるが生鮮魚介類の消費額は落ちているという。

 

 理由は、生鮮魚介の収穫が落ちているからではない。家庭で生鮮魚介の料理をしなくなっているためらしい。その話をしていたら、若い主婦が「生鮮魚介を買って料理するのは手間がかかるし、食べ残しや骨の処理も大変なので、買う時は土、日に覚悟を決めないと買わない。一尾を三枚におろしていると時間がかかるので結局切身にする場合が多いわね」と裏事情を語っていた。

 

 

築地にひしめく外国人

 いま世界は和食ブームだ。しかし漁業者によると、出汁も昔のようにコンブや煮干しからとる人はまずおらず“ダシの素”といった製品ですます。多くの家庭では1世帯当たりの食料品にかける金額で一番多いのは、「外食と調理品なんです」という。そんな話を聞くと和食ブームの底も決して厚くないなと思う。しかもお惣菜屋でおかずを買ってすます時代になると、どこも同じような味になり、昔ながらの“家庭の味”も失われてしまいそうだ。

 

 子供たちは、魚は切身だと思い鯛や鯵の尾頭付きの姿を知らなくなってきたし、目玉がついていると気味悪がるともいう。結局、大人も子供も魚に接するのは回転寿司が一番多くなったんじゃないかな、と苦笑するのだ。

 築地の魚市場には今も外国人の観光客が多くマグロなどのさばきを見てどよめく。市場の周囲にある食堂の五割以上は外人客だともいう。いま北海道の漁師さんや浜のお母さんは学校や幼稚園に出かけて出前授業を行い魚に親しんでもらう努力を続けている。安倍首相は農業を成長戦略の柱にし、3.11後の漁業復興にも力を入れると述べている。ただ和食ブームに浮かれた発想だけでは先が短そうだ。【下野新聞 2013年6月6日掲載】

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