大相場は終盤へ? 気になる海外でつぶやかれる円安批判
「リーマン・ショック」以前の利益水準に迫る──。3月期決算の発表で、このところメディアは連日にぎわっている。と同時に安倍首相・黒田日銀総裁の〝アベクロミックス〟をはやす声が多い。懸念もあるのだが、いまケチをつけると折角の株高・円安効果を冷やしてしまうから批判派はダンマリを決め込んでいる。
たしかにことしに入ってから株と円の動きはすさまじい。一時は70円台だった円・ドル相場は安倍政権成立後ぐんぐんと円安基調を辿り、黒田日銀総裁が「デフレ脱却のためには何でもやる。それも一挙に大胆に打てる手はすべてドーンとやりたい」と実行してきたので5月の第二週末には1㌦=100円台を突破した。実に半年弱で25%の円安変化だ。
このおかげか、この3月期の上場企業の決算は決算発表のピーク時をこえた5月第二週で2割の増益。これは2008年3月期を100とすると売上高で96、経常利益では87の水準まで戻った計算になる。5年間続いていた円高・株安が終止符を打つ大相場になっているのである。
しかし喜んでばかりいられない実態もある。円安で輸入物価がジワジワ上昇し生活品に影響を与えていることだ。さらに燃料(LNG)などの高騰で輸出から輸入を差引いた貿易収支は6兆8947億円と過去最大の赤字。モノやサービスの取引状況も入れた経常収支はまだ4兆3000億円の黒字を保っているが、12年度は54.3%減と2年続けて大幅に減少。ピーク時の2007年度の24兆7220億円に比べると8割以上落ち込んでいるのだ。経常黒字の過去の最少は石油危機で原油高のあった90年度の5兆5778億円。円安・株高は大企業に好決算をもたらしているが、日本全体の「貿易で黒字を稼ぎ、足りない資源、農産物・原材料を買う加工貿易型ビジネスモデル」からみると危機をもたらしていることになる。金利上昇に伴う財政赤字拡大も気になる。
しかもうるおっているのは輸出型大企業が中心で、内需型企業や大企業の下請け、系列にはまだほとんど効果が及んでいない。また一般家庭も多少のボーナスアップは期待できるものの、給与の上昇は見込めないのが実態だ。今後、今の円安・株高効果が内需拡大にまで及べば〝アベクロミックス〟の狙いはピタリということになるが、大企業が内需生産を高める気配はあまり見られず、相変わらず人件費コストが安くて人口が多い中国、東南アジアなどの生産に主力を置く傾向は変わっていないのだ。
しかも日本の円安・株高はアベクロミックスの効果もあるが、主役となっているのは外国の投資ファンド、投機ファンドが中心。彼らはいま世界で有利な投資対象がないので数年間軽視されてきた日本に集中投資してサヤを稼いでいるのだ。アナリストたちは「この大相場は半年、円は105円、株は1万5000~7000円」と煽っているが、日本の投資家もバブル崩壊で塩漬けされていた株などを売っているにすぎない。やはりイノベーションを軸とした新しい成長のタネをみつけないとハシゴをはずされかねない。【財界 2013年6月11日号 第352回】