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くすぶる沖縄〝独立〟論

 最近、〝琉球独立論〟という小論やニュースをよく見かけるようになった。琉球とは、日本に編入される前の「沖縄」のことである。仕掛けているのは、尖閣諸島の領有権を主張する中国とみられるが、沖縄の人の中にも「琉球の独立」という言葉に心動かされる人もいるようだ。沖縄は、かつて「琉球王国」と呼ばれた。中国と日本に挟まれた小さな島ながら独立国として存在していた。ただ小さな島々の小国であったため、中国(当時の清朝など)と今の鹿児島の雄藩薩摩藩朝貢貿易をしながら存続してきたのである。

 

 琉球王国の成立は1429年。アジア諸国との貿易で生きる海洋国家だった。しかし、17世紀に薩摩藩との戦いに敗れ、薩摩の支配下に入ることになる。ただ、一方で中国の影響も強く受け、中国への朝貢貿易も行っており、1300年代の琉球王国成立前に明へ使者を送っていた。日本の江戸幕府が明治時代に入った1872年に琉球は明治政府に組み入れられ、琉球王国から琉球藩となり、さらに1879年に明治政府は琉球王国の居域だった首里城に乗り込んで「沖縄県」とする。いわゆる廃藩置県の一環とみなすことができよう。琉球側では、最初に薩摩藩に、二度目は明治政府に支配されたことになり〝琉球処分〟とも呼んでいる。

 

 沖縄の悲劇はその後も続き、太平洋戦争では日本の唯一の〝本土決戦〟の舞台となり、多くの沖縄県民が犠牲となった。なかでも有名になったのがアメリカ軍が沖縄上陸をはかった太平洋戦争末期の沖縄戦で〝ひめゆり学徒隊〟として駆り出された女学生らが集団自決した事件だ。太平洋戦争では、海上戦の敗北や爆撃機から原爆、爆弾を落とされ空襲を受けた地域は全国各地にあるが、日本国内で地上戦を行ったのは結局沖縄だけだった。

 

 沖縄の苦しみはその後も続き、1951年にサンフランシスコ条約で日本が独立したものの、沖縄の米軍占領は1972年まで続いた。そして日本にある米軍基地の75%が沖縄に集中しているのが実情なのだ。こうした沖縄の悲劇的な歴史が続いているため、実はつねに沖縄では独立論がくすぶっているとみられる。

 

 とくに最近は、国際社会でも各国で地域の独立運動論がさかんだ。イギリスのスコットランド、ベルギーのフランドル地方、カナダのケベック州、スペインのバスク地方などヨーロッパの中では言語や民族、地域の誇りなどもあって独立論争がつねに話題になっている。ヨーロッパ以外では中東の三カ国にまたがるクルド民族の統合や中国のチベットウイグル、さらにアジア各国や中南米などにもあちこちで独立運動の火種が多い。

 

 世界は90年の冷戦崩壊で旧ソ連圏の中央アジア、ユーラシアなどで独立が続き、旧ユーゴスラビアも戦争の歴史を重ね、数カ国に分かれた。しかし一方で経済的理由からEU欧州連合)が創設されたり、TPPなど共同体形成の動きも盛んだ。沖縄独立論を歴史から直視し、本土の都合や安保論だけで基地問題を論じていると尖閣だけではすまない問題に発展しないとも限らないのである。【財界 2013年6月25日号 第353回】

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