中東の大国・エジプトが再び動乱の兆しをみせてきた。選挙で選ばれた大統領を軍の介入によって軟禁し、軍が推すマンスール氏を暫定大統領に据えた。これは完全に軍事クーデターだ。
中東では、2010年のチュニジア・ジャスミン革命の反独裁民主化運動が引き金となってベン・アリ大統領が退陣する。この民主化運動はエジプトやリビア、イエメン、シリアへと飛び火、最近はトルコでもエルドアン首相の独裁色の強まりに対して民主化デモが全国化している。エジプトは11年に約30年間続いたムバラク独裁政権が倒れ、国民参加の大統領選挙によってモルシ氏を新大統領に選んだ。それからまだ1年しか経っていないのに軍事クーデターがおきたのだ。
モルシ前大統領はイスラム原理主義色の強いエジプトの「ムスリム同胞団」の出身。モルシ氏は、就任当初はイスラム色を強く出すことはなく、民主的選挙によって選ばれた新体制がうまく機能するかにみえた。しかし、徐々にイスラム色が強く出始め、軍や反モルシ派(反ムスリム同胞団)への反発が強まっていた。
たとえば欧米的な文化・芸能活動に圧力が強まったり、モルシ大統領に期待された経済改革、失業率の改善もはかばかしくなかった。この1年で食料価格は1.5倍に高騰、ガソリン不足が目立つようになっていたといい、反モルシ派国民や軍の不満が高まっていたのである。
戦後のエジプトはナセル、サダト、ムバラクの3大統領が長期独裁政権を続けてきたが2人が暗殺され、ムバラクは革命法廷に引き出されるなど、血の匂いがまとわりついていた。今回は、その意味で初の民主的選挙で選ばれた大統領として欧米先進国の期待も大きかった。
ただ、かつてのエジプトは1970年代の中東戦争の後、宿敵イスラエルと友好条約を結びアラブ諸国の中では独自の存在を示していた。このためアメリカは軍事援助を強化し軍との関係を良好に保つことでイスラエルの安全を守ってきた。
しかし初の民主的選挙で選ばれたモルシ政権がイスラム色を強めることには、欧米諸国は懸念していた。アラブの民主化のモデルになればと期待していたのに、イスラム原理主義色の強いムスリム同胞国が政権中枢に入ってくると、アメリカなどの対中東政策の要が揺らぎ、再びイスラエルとの緊張が高まるからだ。
しかも〝世俗主義〟を貫いていた中東の大国トルコも独裁色とイスラム色が強まっていることも気になるところだ。トルコ、エジプトがイスラムに傾けば中東の政治風景は一変する。アメリカは、エジプトの軍のクーデターを〝民主化〟に反すると非難し軍事援助の縮減、停止を示唆しているが、中東全体の政治動向を考えた時、どのように軍・クーデターとの距離感をとりながら安定化を目ざすのか。
それにしても反独裁・民主化は歴史の流れとはいえ、民主政権になると政治・経済が不安定化する構図がどこの世界でもみられる。民主政権の下で政治が安定し、経済が成長してゆくモデルはできないものなのだろうか。【財界 2013年8月6日 第356回】