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活況景気は嬉しいが熟練人材に悩む企業

 12月中旬に発表された日銀の12月短観(全国企業短期経済観測調査)は、大企業の業況判断指数がプラス16、中小企業がプラス1と景況感は軒並よくなってきた。前回調査(9月)に比べ大企業は4ポイント、中小は10ポイントと大幅に改善している。新聞各紙はどこも一面で大きく取り扱い、メディアも心理面から応援しているようにみえる。

 

 たしかに大企業の役員たちの話はいつになくはずんでいる。

「素材、とくに建設関係は数年ぶりのフル操業で原材料の入手が困難になっている」

「ゼネコンは、いまや注文を断わるような状況だ。注文を受けても人手や原材料調達に見込みがつかないので、納期の約束ができないからだ。〝断わる営業〟なんて数十年ぶりか、という感じだ」

「物流も注文はあり過ぎるぐらいだが、トラックと人手が足りず応じきれない」

「消費税上げを見込んで、その前に買っておこうという駆け込み需要がすごい。とくに値の張る高級品や外車、ブランド物がまた売れだした」

 

 ──等々、どこもかしこもすごい鼻息だ。大企業はこれで4四半期連続プラスで200712月以来の高水準だ。大企業の好調からようやく中小企業にも注文が回り出し、製造業で6年ぶり、非製造業では何と2110ヵ月ぶりのプラスだという。好調の背景はいうまでもなく円安と株高、アメリカの景気回復にある。

 

 だがみんな手離しで喜んでいるわけではない。大企業は依然設備投資には慎重で「一過性かもしれないので必要最小限にとどめ、消費税上げ以降の様子をみてからまた考える」といい、中小企業は「賃金はむろんのことボーナスもどこまで出せるか」とまだまだ浮かない顔つきだ。結局、円安と株高でひと息つき、東日本大震災の復興需要が少し軌道に乗り始めたことが大きいようだ。「それと2020年の東京オリンピックも心理的にはプラス要因」というが、今の景気回復感がオリンピックまでもつかは不透明という。

 

 実は企業が本気で心配しているのは人手と人材の問題らしい。建設業では1997年の建設労働従事者は685万人だったが、リーマンショック前の2007年には550万人、12年には500万人となり、13年はさらに減少している。高齢化と3K(きつい、危険、汚い)仕事を嫌がる風潮がますます強くなっているためで、とくに原発関係は人集めが極めて難しいようだ。

 

 もうひとつは高齢化で熟練労働者がいなくなっていること。あちこち探しまわっているうちに高齢者施設から直接現場に来てもらうといったケースまであるという。「いま大きな建設の注文を受けるとオリンピック関連の受注ができなくなる心配もある」と言い、昔からよく言われた「人が余っている時は仕事がないし、仕事がある時は人が足りないというのは本当にその通りと実感している」と苦笑する。企業も国も中長期的な視点に立った人材育成とバランスを考える時代に入ってきたと思わなければなるまい。【財界 2014128日号 第367回】

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