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中国〝三反運動〟で思わぬ客 再び日本のブランド品が脚光

 中国のぜいたく禁止、腐敗撲滅宣言で中国国内はピリピリしているようだ。「高級時計はしない」「高級レストランには行かない」「外車で出かけない」──などの雰囲気が高級幹部の間では暗黙の了解になっているらしい。

 高級時計をしていると写真にとられたり、TV映像に映ったりしてネットで告発される。高級レストランの前に高級車が止まって待っていると車のナンバーがネット上に告知され、所有者の情報を集めて人物を特定されたりするようだ。習近平政権は「ぜいたく反対」「腐敗反対」「官僚主義反対」の〝三反運動〟を展開し、「虎もハエも捕まえる」方針を掲げている。

 その結果、習政権1年で「大トラを引っ張れ」の号令の下、大臣級で約20人が逮捕されたり事情聴取を受けたと報じられている。大物では薄熙来重慶書記夫妻が有名だが、元常務委員の周永康氏も事情聴取を受け、その部下達数人は拘束されたと噂されている。中国ではトップの常務委員まで登り詰めた人は捕縛しないという申し合わせがあるとされていただけに、周永康氏の取り調べは高級官僚たちを震え上がらせたようだ。大物以外となると、高級官僚、国営企業幹部、地方官僚などを含めると逮捕、取り調べの人数は10万人を超えるとされる。

 三反運動実施の背景には国民大衆の不満がある。高級幹部、官僚と農工民の間で貧富の二極化が激しく、不満のハケ口としてますます暴動が多発、ネット上の告発も増大してしばし炎上する事態がおきているからだ。こうした影響からブランド好きの富裕層はブランド品の買物を控えはじめ、中国からブランド店が撤退しはじめている。一時は独ヒューゴ・ボス(130)、伊グッチ(60)ルイ・ヴィトン(50)エルメス(20)など東京以上にブランド店進出が目立ち2013年に開業した店は約100店舗に上るが、前年比ではマイナス37%という。

 だが中国人がブランドを嫌いになったわけではない。週1回、香港などにまとめ買いしにいく「代購(代理購入)」商売も出ているほどだ。95年の中国人のブランド消費は全世界でわずか1%だったが、13年はアメリカ人の22%を超えトップの29%に。中国ブランド市場の成長率は2011年まで約30%だった。それが13年はわずか2%に縮小した。

 この倹約令、三反運動で案外トクをしているのは日本かもしれない。中国国内で買えないので、ニセ物をつかまされる心配のない日本への富裕層観光客がまたふえており、2014年に入るとほぼ尖閣事件以前に戻ったようだ。またブランド品を持ち帰ると目立つので、日本でマンションを購入、そこに保管する中国人もふえているという。

 一方、富裕層以外の中間層の来日もふえており、ビジネスホテルに泊まり、100円ショップなどの「メイドイン・ジャパン」の製品が人気らしい。タイ、マレーシア、インドネシアの観光客もふえており、ようやく観光日本が陽の目をみるようになってきた。【財界 2014年3月25日号 371回】

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