時代を読む

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天安門とノルマンディー 歴史の重みと外交舞台を

 6月4日は天安門事件から25周年、7日はアメリカのノルマンディー上陸作戦から70年の記念日だった。両方とも過去のこととはいえ、歴史の重みが今に引き継がれていることを改めて実感される。

 天安門事件は、1989年6月に起きた。半年後に東独やハンガリーチェコポーランドルーマニアなどの旧ソ連邦下にいた国々が次々と自由化、民主化の市民革命を行い、旧ソ連邦の下で東欧各国の独裁的統治を行っていた首脳たちが相次いで放逐された。ルーマニアチャウシェスク大統領は89年末に隠れている所を引っ張り出され銃殺されている。この東欧革命の直後に強固を誇っていたかに見えた旧ソ連も崩壊した。このソ連の一連の崩壊劇をふり返ると、その半年前に力ずくで学生たちの民主化運動を抑え込んだ中国共産党の冷徹なリアリズムに改めて舌を巻く。

 中国ではその後も民主化、自由化の散発的な動きは根強く続いており、活動家の劉暁波氏にノーベル賞委員会は平和賞を贈ったが、中国は本人を拘束したまま出席すらさせなかった。今回の25周年にあたっても、当時中国首脳で学生たちの民主化運動に理解を示した胡耀邦総書記らの名誉回復や現在拘束中の活動家を解放することが期待されたが、一顧だにされなかった。習近平政権は腐敗、汚職には徹底取り締まりを行い国民の人気を得ているが、自由化・民主化、過激な宗教活動には国家の基盤を揺るがしかねないと弾圧をゆるめる気配がない。汚職・腐敗と対外的外交・海洋進出には強硬姿勢をとり国内の自由化・民主化は許さないという二面作戦で臨んでいる。

 一方、ノルマンディー上陸作戦の記念式典には思い出がある。1984年の40周年の際に、私はサミット(第10回、ロンドン)取材の途中でレーガン米大統領に同行して現地で式典を見たのだ。当時のアメリカはベトナム戦争の後遺症や双子の赤字(貿易、財政)など経済の弱体から立ち直りつつある時だった。そんな時期に、レーガンノルマンディーで上陸作戦に参加したアメリカの老兵や連合軍の仲間だった国々のサッチャー英首相、ミッテラン仏大統領らドイツ、イタリアを除いた欧州首脳を従えて「このノルマンディーから勇敢なアメリカ兵がヨーロッパを解放したのだ」と名演説を行い、その模様が全米に生中継されたのである。これを聞いた退役軍人は涙を流していたし、中継をみていたアメリカ人たちも〝再びアメリカの時代を築こう〟と奮いたった。

 今回の70周年式典は、ロシアを除いたG7サミットの後に行われた。G7ではロシアのウクライナクリミア半島接収に対し激しく批判した後だっただけに、式典に参加したプーチン大統領オバマ大統領らG7首脳との接触に注目が集まった。しかしフランスのオランド大統領が上手なお膳立てをし、ロシアとウクライナ、G7首脳との会談を継続することになった。まさに式典外交の成果であり、フランスの存在が目立った。はたして日本と中国・韓国の関係を仲介する国、人物が出てくるかどうか。歴史の舞台を軽んじてはなるまい。【財界 夏季特大号 第378回】

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