中国・制服トップも拘束 昨年の幹部処分は4万人?
中国の腐敗・汚職追及の手は、遂に人民解放軍のトップにまで及んできた。6月30日に行われた中国共産党中央政治局の会議で習近平総書記(軍事委員会主席)が、徐才厚・前党中央軍事委員会副主席の党籍を剥奪すると発表したのだ。
新華社通信などによると、部下を不正に昇進させる見返りに多額のワイロを受け取ったとされる。「軍は党の政治任務を執行する武装集団であって、その集団に腐敗分子が身を隠す場所があってはならない。罪状は重く、及ぼす影響も悪質である」ときびしく糾弾し、今後検察当局が刑事事件としても捜査、立件すると伝えている。徐氏は末期がんで療養中だったが、すでにことし3月に党中央規律検査委員会に連行されていたといわれ、妻と娘も拘束されたという。
徐氏は1943年、満州に生まれ63年に人民解放軍に入隊、71年に共産党員となっている。80年代半ばまでは主として吉林省など中国北東部の陸軍に勤務していたが、徐々に頭角を現わし90年代に入ると軍中央の階段を登り始める。その後、党中央委員会、軍事委員会の委員となり胡錦濤前国家主席が軍事委員会の主席に選出されると同時に副主席に就任、制服組のトップとなった。その間に部下だった谷俊山元中将らによる軍用地の不正売買(総額約3300億円)から賄賂を受け取った模様で自宅から金塊や高級品などが押収されたと報じられている。
徐氏は江沢民元国家主席との縁が深かった。上海閥で軍との関係がそれほど強くなかった江沢民元主席が軍に影響力を及ぼす時に協力したようで、その縁で徐氏も軍や党内で異例の出世をした。制服組トップの上将(大将)となり、8年間も軍事委員副主席の座について胡錦濤政権時代も軍と党にニラミを効かせていたとされる。谷被告の件でも軍事委に告発があったものの受けつけず、胡錦濤主席もバックにいる江沢民元主席の意向に逆らえず放置された状態になっていたという。胡前主席は退任する時、すべての役職から離れ江沢民氏を道連れにしたことから習近平主席は党・軍・政治・公安の全権を握って軍高官の腐敗にまで追及できるようになったわけだ。
現在、党内には軍の腐敗を取り締まる中央軍事委規律検査委と国防・軍隊改革指導グループも設立され両トップに習近平氏が就任。軍部内からの告発も歓迎し軍改革に乗り出す意向を示している。実はこれらの委員会の調査・摘発で徐氏は賄賂として100万元(約1700万円)の預金が使えるキャッシュカード800枚を押収され、軍のポスト売買(100万元以上)にも関与していたとされる。軍機関紙などによると2013年の1年間に約4万人の幹部が処分されたともいわれる。
気になるのは、こうした軍に対する腐敗・汚職の追及、網紀粛清が、中国の海洋進出、特に尖閣、西沙諸島付近などにおける海軍や空軍の挑発的行為などとどんな関係にあるか、ということだ。陸軍の腐敗追及の陰で海軍、空軍が力を伸ばし、冒険主義に走り近隣国と不測の事態をおこすようなことは願い下げたい。
【財界 2014年8月5日号 第380回】