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首脳から〝面〟の外交へ

 外務省は2015年度予算の概算要求で、中央アジアやアフリカ、中南米諸国に新しく15在外公館の開設を要求する方針という。安倍首相は〝地球外交〟をとなえて、すでに40カ国以上、百数十回の首脳会談を実施してきた。

 日本が現在、大使館を開設している国は139カ国で17年度までに150カ国にふやす計画だ。今回の対象は、資源などにより中央アジアで急速に成長しているトルクメニスタン、中国などがここ数年で大使館数や現地企業への参入を試みている西アフリカ諸国のリベリアなど。また中米カリブ海の島国バルバドス諸国にも創設し中米地域を補強したい狙いがある。

 安倍首相は、歴代内閣の中では驚異的な勢いで首脳外交を展開し、それなりの実績と評価をあげてきた。2020年の東京オリンピック招致に成功した要因のひとつにはこの安倍外交も大きな力になったといえる。しかし、中国や韓国、とくに中国は国一丸となってアフリカ外交をはじめ中東・中央アジア中南米などに力を入れ、企業や労働力も送り込んでここ数年のうちに日本をしのぐ存在感を持ち始めている。また韓国も歴史認識慰安婦問題で激しい対日批判キャンペーンを広げ、大使館、総領事館がチームを組んで先進国やアジア各国に"SEX・SLAVE"といった言葉をはやらせた。

 安倍首相が各国を回り、日本を売り込んでも、〝点〟の力の発揮にとどまっている。逆に中国や韓国は、それこそ現地大使館、総領事館が恒常的に総力戦を展開しているため、企業プロジェクトが中・韓にひっくり返されたケースもあるのだ。それはまるで黒と白を互いに裏返すオセロゲームのようにも見える。日本としては今後のマーケットとなるアフリカ、中東、中央アジア中南米などに大使館・領事館をきちんと置いて〝面〟の外交で巻き返すことが緊急課題になってきたといえる。

 ただ問題は大使館、領事館の数をふやすだけで外交力が強化されるか、という点だ。8月23日付の毎日新聞によるとアフリカ、中南米、中東3地域の在外公館では「定員割れ」が110人以上もあるという。アフリカではケニア、エチオピア、ナイジェリアなど28カ国、中東ではイラク、トルコ、サウジアラビアなど11カ国、中南米でもボリビア、ドミニカなど16カ国といった具合だ。大国でもアルゼンチン、ナイジェリア、トルコなど数カ国で定員割れという。大使館や領事館のない国には、近隣の大使館が2、3の国を兼務して管轄するケースもあったが、大使館が定員割れしていては出向くこともままなるまい。

 外務省を問わず企業でも海外駐在、とくに途上国勤務を嫌がる傾向が強く、成長マーケットに人を送り込めない悩みの解決が日本の大きな課題になっている。ある大手商社では「今後は海外青年協力隊などで働いてきた人材をどんどん採用してゆきたい。これまでの例をみても、若い時に途上国へ出て様々な業務、マネジメント、外国人とのつきあい、国際性などを身につけた人材がこれからの企業を担ってゆく」と指摘。〝面〟で勝つには〝個〟も強くなければならないのだ。【財界 2014年9月23日号 第383号】

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