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覚悟が見られない野党再生 世代交代を阻む比例復活

 今回の総選挙で一番みっともなかったのは、小選挙区で敗北しながら、比例で復活した議員たちだろう。特に民主党菅直人元首相は小選挙区で敗北、比例の惜敗率で最後の最後に助けられ投票日の翌日午前7時頃に救済された。比例復活の〝最後〟の人となったことでTVで注目していた人も多かったようだ。

 小選挙区で敗北しながら、比例で復活当選できる現在の選挙制度に「おかしい」と疑義を唱える人が圧倒的だ。「支持しない人を落としたのに、戻ってくるのは選挙制度だけでなく、政治に歪みを生じさせ有権者の後味を悪くさせて無関心層をふやすことになる」という意見が多い。

 小選挙区制では各党代表が1人だけ立候補し、政策や人物、党の方針を争うことが主旨のはずだ。だから小選挙区では勝者か、敗者しか出ないはずなのに同じ選挙区から小選挙区勝者と敗者ながら小選挙区と比例で重複立候補した人が当選するケースも出てくるのだ。激戦で惜敗し、その差がわずかな場合は比例で復活当選となるため、同じ選挙区で戦った与党・野党の候補者が2人とも当選するという現象がおきる選挙区も少なくない。また北海道1区では10万5918票を獲得した候補が小選挙区で敗れ、北海道ブロックの惜敗率は91・00%で落選。他の10ブロックだったら復活当選になったという。逆に愛媛2区の維新の党候補は2万2677票で敗退したが維新の四国ブロックでは重複立候補が幸いして惜敗率が39・67%だったが当選している。

 重複立候補だと比例で救われる可能性もあり、その分〝覚悟〟が薄くなろう。大物候補の多くは重複が多いから、比例復活すると世代交代も遠のく。小選挙区当選者は金メダル、比例復活は銅などとされる差別的言い方もあるほどだ。

 野党の課題は〝再生・再建〟だが道は遠そうだ。いっそのこと民主党自民党に近いグループ、労組系グループ、リベラル派に分かれて理念・政策をはっきりさせて一から新党を作ったらどうか。今のままで妥協して代表や幹部を各グループから出していては再建の道は見えて来ない気がする。かつて「新党さきがけ」は自民党から若手ら十数人が飛び出し政界に衝撃と新鮮な風を送った。このさきがけショックから野党7党が日本新党細川護熙党首を首相に選び自民党体制に風穴をあけたのだ。志を一つにした〝覚悟〟が政界再編の嵐をつくったといえる。

 そのさきがけが鳩山党首時代に、労組グループや市民派グループ、保守グループなど様々の考えの人が集まり今日の民主党に生成発展した。確かに規模は大きくなり、政権もとったが、今回の選挙では軸がなく政界の隠語としていわれる〝馬ぐその川流れ〟の状況に陥ってしまっている。ここは、再び理念、政策の違う人がタモトを分かち一から出直すか、あるいは妥協を重ねて維新などとの合併をめざして数を追うか──正念場だろう。そして各政党は今後重複立候補をやめ、比例復活などという下心を捨てて、政治家として覚悟を決めてのぞむようにしたら国民も納得し、世代交代も進むだろう。【財界 2015年1月27日号 391回】

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