【世界に拡散するISISの脅威】〜及び腰の米、解決への道のり遠く〜
イスラム過激派組織「イスラム国(ISIS)」は、勢力を伸ばしているのか。衰退し力を失いつつあるのか――日々の報道を見ていると、一時的な地域拠点の奪い合いで勝ったり負けたりしているが、全体状況については依然よく把握されていない。
気になるのはISISの主戦場であるイラク、シリアの戦闘状況、陣取り合戦だけでなく、最近はISIS過激派の絡みで旧イスラム過激派もISISと一体となったり、独自に戦闘を行なったりして世界全体にイスラム過激派の動きが拡散して各国で恐怖感を引き起こしていることだ。
イラク、シリアにまたがる本決戦場では一時ISISの劣勢が伝えられたが、最近また勢力範囲を盛り返していると言われている。これに業を煮やしアメリカ軍は遂に数十人の突撃部隊を編成し、指導者級幹部のいる場所を諜報などによって見つけ出し、急襲していくつかは成功したと発表している。しかしこれはアメリカの地上軍派遣とは全く違い、アル・カイダのビンラディン殺害の時と同じく、相手方のトップを倒すことで組織の崩壊を狙う作戦といえる。これに対し、ISIS側も先日、本物かどうかわからないが指導者のバグダディ師は健在だというビデオメッセージを出して対抗している。
こうしたイラク・シリアの本土との戦いとは別にISISの犯行とみられるテロ事件が世界各地に散発し、一般人まで巻き込まれている事件が相次いでいることが不気味だ。日本人が巻き込まれたのはチュニジアの首都チュニスで博物館を襲撃した事件だ。外国人19人を含む22人が死亡、うち日本人は3人死亡、3人負傷した。
このほかクルド系とみられるイラク国内のヤジーディ教徒5000人がISISに拉致され、虐殺や奴隷扱い、身代金支払いなどが行われているといわれる。また3月にはイエメンのモスクで自爆テロが発生、少なくとも142人が死亡、351人以上が重軽傷を負ったとされ、ISISの分派が犯行関与の声明をネット上に出している。
一方で、先進国の国籍を持つイスラム教徒が、パリでテロ事件を起こしたり、ヨーロッパ各地で散発的な事件を繰り返しているし、外国人イスラム教徒2~3万人がトルコ経由などでISIS入りしているともいう。また中国のイスラム教徒ウイグル族などがISISと連携する動きをみせ、すでに数百人規模がISISで活動しているとみられている。中国の共産党当局は「300人以上がマレーシア経由で第三国に向かいイラク、シリアでISISに参加している」(孟宏偉公安次官・読売新聞)と語ったという。アジアのイスラム教徒は中国ウイグル地区、広西チワン族自治区などから、マレーシア、インドネシアなどを通ったり、中央アジア経由でISIS入りしているようだ。
いまやISIS国のテロ組織の広がりは中東だけでなく欧米、アジア、旧ユーゴスラビアなどに広がり人や武器のルートになっている。
さらに厄介なことは、イラン(シーア派)と欧米の核協議の動きも中東情勢を複雑にしていることだろう。アメリカはイランの核開発を穏やかに抑え込もうと目論んでいるが、スンニ派中心の湾岸諸国は納得せず、対イランのアラブ連合に動きだしている。中東のお目付け役だったアメリカが手を引き始めてから中東の政治情勢はますます流動的になっている。地上部隊を出してISISを崩壊する気のないアメリカは「落ち着くまで2~3年はかかる」と述べているが、はたして収まることはあり得るのか。ISISは100年以上前の国境のない中東時代、砂漠の民時代に戻そうとしているともみられ、まだまだ解決までの道のりは遠そうだ。
70年代の中東戦争、イラン革命時期までの中東はワシントン(アメリカ)、テヘラン(パーレビ・イラン国王)、リヤド(サウジアラビア)枢軸が中東を抑えているといわれ盤石だったが、わずか40年で様変わりし、世界の火種、文化遺産の危機にもみまわれている。もし世界の大空港ハブに成長した湾岸のドバイがテロの標的になったりしたら世界は一挙に大混乱となろう。
(お知らせ)6月22日(月)午後6時半からNPO日本ウズベキスタン協会主催によるトークショー「中央アジアとイスラーム」を東京外語大学大学院 小松久男特任教授と行ないます。場所は東京日比谷の日本プレスセンター9F。会費は1000円。
詳しくは日本ウズベキスタン協会へ。
【Japan In-depth 2015年5月21日掲載】