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〝天網行動〟の裏には?

 天網恢々、疎にして漏らさず──ということなのだろうか。天網とは老子の言葉。天が張りめぐらした網は、どんな小さな悪事も逃げることはできないという意味だ。習近平政権は、いま腐敗共産党幹部を国外まで追跡する〝天網行動〟を展開し始めた。汚職摘発を逃れて海外に潜伏する党幹部をどこまでも追いかけ、決して〝疎にして漏らす〟ことはしないというキャンペーンで、別命〝キツネ狩り作戦〟とも呼ばれているようだ。

 中国は共産党政権下で自由主義経済を進めてきたが、国営企業幹部の汚職、権力を使った住民の立ち退きなどの腐敗ぶりが目立ちすぎ習政権も危機感を抱いてきたのだ。

 中国の統計によると90年代以降、党幹部の1万8000人以上が約8000億元(15兆2000億円)を持ち出し海外に逃亡したと推測されている。逃亡先で多いのはアメリカ、カナダなどだが犯罪人引渡し条約を結んでいないので成果は今ひとつらしい。

 また中国の富豪たちの海外移住も急増している。アメリカやオーストラリア、カナダなどは、定められた金額を投資すれば永住権を与える制度があり、これを利用する富裕層がふえているわけだ。2013年の統計ではアメリカに永住権を獲得した中国人は6900人にのぼり、5年で19倍にふえたとされる。また途上国に工場などをつくれば国籍まで与える国も多く、最近では欧州でも中国の投資資金を呼び込む方法として似たような制度を作り始めている。中国富豪が外国に貯金しているのは有名だ。

 こうした天網行動で、もうひとつ注目したいのは中国軍部に対する腐敗撲滅運動だ。軍は聖域とされていたが、このところ軍幹部が逮捕、起訴、党籍剥奪、自殺者急増などが目立っている。軍事委員会前副主席(№2)の徐才厚上将は汚職で起訴され、海軍の馬発祥中将は飛降り自殺した。また馬事件に関連し現職少将も自殺、さらに南海艦隊の装備部長も飛び降り自殺したといわれる。公安トップだった周永康前常務委員が拘束され、そのグループとされていた蒋潔敏(閣僚級)、李東生(公安次官)、王永春(国有企業幹部)、冀文林(海南省副省長)、余剛(党中央政権委員)ら多数が巨額収賄で党籍剥奪などの処分をうけている。

 最近は幹部子弟、家族が海外留学したり、移住するのをみて帰国命令を出しているともいう。習近平氏がトップをつとめていた時代の福建省商工局長や公安局長も数年前に約19億円の汚職をしていたことがわかり海外に逃亡。妻を海外移住させ資産も海外移転させていた。

 習政権の厳しい取締まりは庶民には支持されているが、権力闘争は決着していないともみられ、習氏暗殺の試みもあったという。習政権は南シナ海への進出、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設、一帯一路(新シルクロード)構想への着工などで一見はなやかな外交をみせるが、国内経済の沈滞、一部金融機関の破綻など内情はきびしい。習政権も伸るか反るかの大勝負どころかもしれない。

【財界 2015年6月9日号】

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