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【「中国の夢」の大戦略絵図】~日本は断片だけをみるな~

習近平主席の居住、1日の日程などは極秘に包まれている。暗殺を警戒しているためで、実際に何度か企てられ失敗したという。その間に周永康元政治局常務委員、徐才厚軍事委員会副主席、薄照来元重慶書記など大物の政敵が次々と逮摘され権限を剥奪されている。党幹部、上級官僚、地方トップ、軍のトップ・幹部級、国営や民営企業のトップらで拘束、事情聴取を受けて失脚した人物は数百人に上るとされる。習近平はこうして権力基盤を着々と固めているものの、自身の命も常に狙われているのだ。
その習近平が描く「中国の夢」の具体的内容が「一帯一路」「アジアインフラ投資銀行」「東アジア共同体」「東南アジアの流通、交通路」「太平洋への海洋進出」「インド洋の制海権」「NATOに対抗する上海協力機構の拡大強化」――などだ。日本のメディアは、尖閣や南沙・西沙問題、アジアインフラ投資銀行など日本に関係した個別問題に焦点をあてて論じている傾向が強いが、押さえておくべきは「中国の夢」を20?30年かけても実現するという中国の一体的大戦略を理解した上で対応しなければ本質を見逃すことになる。

習近平の大戦略は、徐々に弱体化しているアメリカに代わり今後数十年以内に中国が世界の覇権を握りたいということにあろう。一帯一路は、ヨーロッパ、アフリカから中国までの陸路、海路(二つのシルクロード)を蘇らせることであり、そのためにインド洋に面する国々の港湾建設を援助し、大陸にシベリア鉄道と並ぶシルクロード鉄道の建設を考えている。その資金は中国だけではまかないきれないのでアジアインフラ投資銀行を創設、世界から資金を集めその決定権を握る。

米欧のNATOに対抗するためロシア、インド、パキスタン中央アジア諸国を交えた上海協力機構をつくり、経済圏としては東アジア共同体を2017年までにつくり、東南アジアの鉄道網建設を援助して中国、東南アジアを一体化させつつ、中東から入る原油をミャンマーに陸揚げして鉄道で運ぶ。また中国はもともと大陸の中で王朝を争ってきた陸の国であり陸軍中心の権力構造だった。しかし今後は、アジア・太平洋・インド洋などに進出するため海軍力を強化しつつあり、その基地として南沙・西沙諸島などに進出しているのだ。

いわば中国は、経済圏、制海権・制空権、流通・交通路、金融、上海協力機構を軸としたNATO対抗軸をつくること――などを一体的戦略として大きな戦略図を描いているとみることができよう。そうした中国とアメリカは今後どうつきあっていくのか。日本は日米にはさまれてどう動くのか。ロシアもまたアジア・太平洋に一枚加わろうとしているが日本は米・中との距離をどのように測りながらつきあうのか――単純な外交・安保戦略でのぞむと日本は間にはさまれオロオロすることになりかねない。
【Japan In-depth  2015年6月22日掲載】

 

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