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手玉にとられた? シャープ

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 3月末、シャープが台湾の鴻海精密工業に正式に買収されるとわかったとき、救済にかかわってきた日本側関係者は肩を落とした。シャープが鴻海に手玉をとられるようにして買いたたかれる結果となったからだ。「鴻海は全く信用できない」と怨嗟の声があがったものだ。

 シャープ再建を巡っては、国が9割超を出資しトヨタ自動車など民間26社が設立した投資ファンド産業革新機構」と、台湾の鴻海精密工業との間で激しい綱引きがあった。日本の産業界としては東芝の白物家電事業と統合するなど、民族資本の下で再建したい思惑があった。これに対し、鴻海は当初シャープには得するようにみえる再建案を呈示し気を引いたのである。この両者の綱引きにシャープ経営陣は揺れに揺れ、結局鴻海案に乗ったのだ。しかし鴻海側は、革新機構が手を引くと当初の提案から次々と条件を変更し、シャープ取締役会でもかなり異論が出たという。経営者がぶれない〝哲学〟をもち、腹を決めて対処しないと後味の悪い買収劇になってしまう典型にもみえた。

 革新機構側の提案ははっきりしていた。目的は弱体化した日本電機産業をシャープや東芝の白物家電などと統合再編し再生することだった。その代わりシャープ現経営陣は退任し、得意の液晶事業や他の事業事業毎に他社との提携を考える。一方、資金面では3000億円規模の出資と2000億円の融資枠を設定するというものだった。

 これに対し鴻海側は当初、最大7000億円規模の拠出をし、シャープ経営陣も続投させ、液晶事業やその他部門も当面現状維持とし、シャープブランドを残す。銀行の負担については鴻海は基本的に求めないが、機構側は3000億円規模の債権放棄を要求していた。一見、機構側の提案はきびしいようにみえたが、資金面ではさほど遜色はなかった。シャープ経営陣は両者の提案に何度も揺れ、結局鴻海を選んだ。しかし最終決断した後に鴻海側は「不都合な情報(偶発債務)を隠していたのではないか」と、精査が終わるまで買収を先送りしたいと揺さぶりをかけ、「在庫、資産、保険、契約書、人員、売掛金などあらゆるものを調べた」という。結局鴻海の出資額は、3888億円と1000億円近く減額される結果となってしまった。

 さらに、シャープ社長らも退陣することになり、技術などは鴻海側で取り込むことになったようだ。

 海外資本の下で再建することは悪いことではない。ただ、もっていた本来の技術やモノづくり精神、将来展望があるのか──すべての軸がなくなり名前だけ残っても本当の再生とはいえないだろう。
【財界 2016年5月10日 春季特大号 第422回】

※画像: Wikimedia Commons

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