時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

レガシーはハードよりハートで!!

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 2020年の東京五輪についてまわる言葉は「レガシー(legacy)」だ。1964年のオリンピックはいくつかのレガシー(遺産)を残し、今日も語り継がれているものが少なくない。新幹線、首都高速道路、国立競技場など目に見えるハードのものが多く、当時は高度成長期への入口にあたり、オリンピックの大義名分は日本のインフラを整備するには格好の〝ご印籠〟だった。

 2020年の東京五輪も財政難の時期ながら、将来へのレガシーをつくる都合のよい旗印となっている。立候補時(13年)の招致計画では7340億円の予算が、招致が決まった途端、各組織やスポーツ団体が予算を積み上げ、結局3兆円以上にふくらんだ。

 財政難の折りに”3兆円は多すぎるだろう”という常識論が高まり、”コンパクトで質素な五輪”という世論が高まった。しかし、各委員会、スポーツ団体とも多くは無視。競技団体理事は「議論を重ね作りあげてきたのに、思いつきで一気に壊すことはしないで欲しい。コスト削減は必要だが譲れないものがある」「競技団体に意見を聞くこともなく噂話で聞いたことを元にしているようで不信感がある」──など不満たらたらで、団体の抵抗が強い。

 すべての流れが変わったのは、小池百合子都知事の登場からだ。オリンピックの主催権は開催都市にあるため、その意見は無視できない。無駄のないコンパクトな五輪、情報をすべて公開、都民・アスリートファーストなどの原則をかかげ、それぞれの組織・団体に切り込み、都に調査チームを作って中間報告を行い、東京都の下で一元管理すると述べたので各組織が慌て出した。開催費用の総額が判明しないのは、国と大会組織委員会、主催の都庁がそれぞれに予算を試算し、横の連絡がないからだと指摘。全体予算の上限を決め全体ビジョンを打ち出す司令塔がなくいくらかかるかについて誰も計算していない。まるで社長や財務部長がいない事業だ、と批判した。

 大会組織委員会のトップは森喜朗元首相、日本JOCトップは竹田恒和会長、国の五輪担当相は丸川珠代議員だ。これらの組織と生身のトップを小池知事はどう治めてゆくのか。築地魚市場の移転、持論の電柱の地中埋め立てなど多くの課題を抱えながらどうさばいてゆくのか──。

 ただ、東京五輪後の候補地選びでは、ローマ市が降りるなど、カネのかかるオリンピックは市民に不評になりつつある。リオ五輪の活躍選手パレードには80万人の都民が見物に集まったというがその熱気は4年後まで続くのか。レガシーはハードだけではない。おもてなしの原則に立ち返るなどカネのかからない国民の心と真夏の開催時期を変え秋晴れでレガシーを作ったらどうか。

【財界 2016年11月15日号 435号】

※画像はWikimedia commons 1964年東京オリンピック開会式

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