12月20日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~世界が震撼「二つの中国」問題~
スタッフです。
12月20日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。
テーマ:蒸し返される 二つの中国
【世界が震撼したトランプ氏の発言】
本日はトランプ氏と中国という話をしたい。トランプ氏は中国が主張する「一つの中国」に棹を刺した。70年代末から一つの中国という考え方が世界の常識として考えられてきたが、トランプ氏は「アメリカが”一つの中国”という考え方に縛られるのはおかしい」と発言し、世界に相当衝撃を与えたように思う。
事の発端は台湾の蔡英文総統に電話をしたことだ。このときは、トランプ氏がどのような考えかはっきりわからなかったので中国は看過していた。しかしながら、今回のトランプ氏の「一つの中国」発言は「中国の核心的利益」に触れる事であったため、中国は激しく反発した。そういう意味でもこの発言は世界を騒がせる発言であったといえる。
【一つの中国の始まり】
もともと1945年に国連を作るという話が浮上した際、その当時の中国は内戦状態にあった。ちなみに、当時の国連の代表は中華民国(台湾)だった。1949年に内戦が終結し、現在の共産党の中華人民共和国(中国)ができ、同年に蒋介石率いる国民党を台湾へ追いやった。その後も国連の代表は国民党(台湾)で、大陸を支配している中国共産党政府(中華人民共和国・中国)ではないねじれ状態が続いていた。
その後、中国は友好国であったアルバニアに働きかけ、アルバニアは1971年に国連の代表を国民党(台湾)から大陸を支配している中国共産党政府に変えようという「アルバニア決議案」を提出した。日本はアメリカなどと共に台湾派として反対したが、共産圏や欧州の国々は中国共産党を支持。中共(中国共産党)派が圧勝して台湾はメンツを潰され、国連からの脱退を表明した。その結果、台湾は中国に帰属する一つの地域であり、そこから「一つの中国」という認識になった。それをアメリカも世界もずっと守ってきたことである。
そこへ、トランプ氏の今回の発言だ。トランプ氏は、アメリカは中国の「重い関税や 「通貨切り下げ」で不当に苦しめられていると主張。さらに、「南シナ海での人工的な島の造成」や「北朝鮮の核開発問題への対応」についても批判。 中国政府が掲げる「一つのの中国」原則を堅持するのかは 中国の対応次第だと中国をけん制した。
【日本のこれまでの対応は?】
日本のこれまでの動きとしては、日本も中国と国交を結びたいという思いはあったものの、アメリカの動きがないので動けなかった。その後、ニクソン氏の1972年2月の訪中でアメリカが中国を認め、千載一遇のチャンス到来とばかりに日本も田中角栄氏が同年9月にアメリカより一足先に日中国交正常化を結んだ。
その間、日本国内では田中派、大平派は日中国交正常化に賛成。三木派、福田派や中曽根派は必ずしも賛成ではなく、親台派、親中派に別れた。その後、田中角栄氏は苦渋の選択を迫られ、日本は台湾と縁を切ることになった。それ以来「一つの中国」という考え方に触れる国はなかった。
【これまでのアメリカの動き】
アメリカは1979年に中国と国交正常化を結び、それ以来「一つの中国」ということを世界の常識としてきた。そんな中で、突如トランプ氏の「二つの中国容認」発言である。トランプ氏は、中国はアメリカに対して「輸出はするが投資をしていないではないか。アメリカの雇用問題を引き起こしている」と発言。これは日米摩擦の時の現象と同様で、日本はアメリカに対して輸出はするが、投資はしていないということだ。さらに、トランプ氏は北朝鮮問題への対処ができていないことなど、これらの問題が解決されない限り「二つの中国を容認する」と示唆した。
これは、中国がアメリカにもっと近づかない限り、台湾に近づくというある種の脅しで、本気でやろうという感じではないと思う。当初、トランプ氏が当選した際には「習近平は偉い人だ」「中国は偉大で重要な国家」などといっていたので中国は、トランプ氏の当選を歓迎していた。ところが突然、台湾の蔡英文総統に電話。その時は看過したが、その後中国の核心的利益に触れ、切り込んできた。トランプ氏は親中派の駐中大使起用するともいわれており、ロシアも親露派の駐露大使を同様に起用するといわれている。こういったところからもトランプ氏はビジネスマンとしての取引がうまいという感じがする。
【間に挟まれた日本はどうする!?】
相手の心理を揺さぶりながら、自分の交渉を有利に進めるという手法だが、果たしてこれは中国に通用するのか。中国は相当怒り、爆撃機を飛ばし、「中国側は事態の発展に注視している。いかなる人物や勢力による『一つの中国』の原則の破壊は中国の核心的な利益を損なうことにつながり、持ちあげた岩が自身の足に落下する結果しか生み出さない」と王毅外相は発言。
おそらくここで一番困るのは、間に挟まれた日本だろう。もしトランプ氏が日本に対して「二つの中国容認」を迫ってきた場合、40年近くも「一つの中国」としてやってきたことをどのように扱うのかという問題も出てくる。ここは日本にとっても非常に難しい問題である。
【日本外交の手腕を発揮できるか・・・】
日本は中国に対しても、トランプ氏に対してもあまりパイプがなく、非常に外交面でもやりづらい状況。三角大福中(三木、田中、大平、福田、中曽根)時代、台湾、中国にそれぞれ通じている人がいた。しかしながら現代の政治家には見当たらないのが、非常につらいところ。
今後の日本の針路としては、おいそれとアメリカにつくというわけにもいかない。東南アジアを中国に分断されていることから、東南アジアと日本が仲良くやりつつ、中国をいさめるといったことを考えていくのが日本の外交の主体性を表すように思う。安倍首相派手に外交を行なっているが、残念ながら成果が出ていないという批判も出始めている。そういう意味からももう少し足を地につけて近場を見てほしい。
画像:Wikimedia Commons 2014年3月30日の台湾の首都・台北市の「ひまわり学生」運動(中国と台湾がサービス貿易協定を結んだことに反対する)デモの様子。