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右派の流れが渦巻く世界 ~ヨーロッパは分断を抑止できるのか!?~

スタッフです。3月7日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

本内容は放送時点のものですが、状況が変わった事象については注釈を付記しておりますので、合わせて参照ください。

テーマ:ルペン氏の「新フランス革命」は、トランプ現象を生み出すか?

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【ヨーロッパは選挙イヤー】
今年はヨーロッパでオランダの総選挙(3月15日終了)、ドイツの州議会選挙(3月26日終了)があり、さらにフランスでは大統領選(4月・5月)、ドイツの総選挙(9月24日)と続き、大きな変化が起こりそうだ。そこで本日はフランス大統領選を取り上げてみたい。

フランス大統領選は4月に第1回投票が行われ、ここで50%以上を獲得できない場合は第1回投票結果の上位2人で決選投票が行われることになる。決戦投票の結果は今後のヨーロッパの行き先を決めるともいわれているが、今のところ候補者は4人。

【さまざまなスキャンダルも浮上】
世論調査のトップは何と極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首で25%を獲得。国民戦線は今回の候補者の父ジャン・マリー・ル・ペンが創設した政党。二位以下は以下の通り。(※)
・2位:中道・独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相(24%でルペン氏に1%差)
・3位:中道右派共和党の右派統一候補、フランソワ・フィヨン氏(21%)
・4位:中道左派・与党社会党のブノワ・アモン前国民教育相(16%)
上記のとおり激戦が続いている状況。

しかしながら、ここにきて各候補にスキャンダラスな話が浮上している。
・ルペン氏:秘書がEUの欧州議会で、秘書の勤務実態がないのに約30万ユーロ(3500万円)の給与を受給。さらに、過激派組織ISの残虐な行為の写真をツイッターに投稿したことが議会で問題視され、訴追の可能性も。
・マクロン氏:不倫疑惑
・フィヨン氏:妻や家族が秘書給与などの名目で1億円近くを議会から受給していた「政治とカネ」の疑惑。こちらは深刻でフランス検察当局が正式に捜査開始
(3月28日付のロイターによるとフィヨン元首相の妻ペネロプ夫人が議員秘書として給与を不正に受け取っていたとされる問題で、予審判事は3月28日に夫人に対する予審を開始。フィヨン氏自身もこの2週間前に予審の聴取を受けている。)

今回の選挙戦は、候補者が揃いも揃ってスキャンダルな状況。そんな中でルペン氏に光を当ててみたいが、ルペン氏に対する注目度は非常に高い。現在EUはドイツとフランスがリードしているが、もし極右といわれるルペン氏がフランス大統領になった場合、「EUはいったいどうなるのか」、「メルケル氏とうまくやっていけるのか」という問題をはらんでおり、そういう意味からも台風の目になってきたと考えていい。

【極右政党「国民戦線」とは】
ルペン党首率いる国民戦線とは、先に述べたが1972年に現在のルペン党首の父であるジャン・マリー・ルペン氏が創設した政党。ジャン・マリー・ルペン氏は極右で、パリ大学在学中にフランス軍に志願。27歳で議員に当選し、アルジェリア戦争には議員を休職して参加。1958年にアルジェリア独立に反対し大統領選挙に立候補するも敗れ、この選挙戦期間中にトラブルにより左目を失明した。その後も右翼活動を続け、1972年の国民戦線の結成にこぎつけ党首となった。

国民戦線はフランスのナショナリズムを唱え、保護貿易を主張したほか、移民反対、妊娠中絶反対、治安強化、ユーロ離脱などの政策を主張。主な支持層は、失業者、若者、肉体労働者である。

自由、平等、博愛精神にも疑問を投げかけ、湾岸戦争ではイラクフセイン大統領(当時)と直接交渉。これによって、フランス人の人質55人を解放するなど、激しい言動で知られる。そのため、人気もあったが、批判もあった。

【党首を娘に譲るも除名に】
年齢を重ねたことから党首を譲ることにした際に娘に譲るのが妥当と考え、現党首のマリーヌ・ルペン氏に譲った。その後、この現党首のマリーヌ・ルペン氏が大統領候補に浮上したことで、父のジャン・マリー・ルペン氏の激しい行動、言動と同じ路線で行くことを良しとせず、父が主張してきた「反ユダヤ主義」などの政策については穏健な方向にシフトしている。さらに、党首に就任後、2015年に名誉党首だった父を過激な言動を理由に党から追放した。最近、躍進し人気が高まっている政党だ。

ソフト路線を打ち出し、父の追放については自ら「脱・悪魔化」と呼んでいる反面、極右政党の大部分は残っている。それは、今回の大統領選で打ち出している政策にも表れており、以下のようなトランプ大統領の政策とそっくりなところがみうけられる。
・(フランスにおける)EU離脱を問う国民投票の実施
・ユーロを離脱し、自国通貨「フランス・フラン」を再導入
・難民、移民の受け入れを大幅に削減する方針

【押し寄せる自国第一主義の波・・・】
実際、ルペン党首はトランプ大統領のイスラム教7カ国からアメリカへの入国を禁止する大統領令について称賛している。さらに、ルペン党首はNATOの指揮系統からの離脱や自由貿易協定などについても拒否すると言い始めている。まさにフランス第一主義で、フランスを中心として物事を考えようと強く訴えている。

もしルペン氏が勝利した場合に、アメリカ、フランスの二大大国で右派が揃い、世界からみると「極右が足を揃える」ことになる。その一方で、EUは中道左派のドイツ・メルケル首相が実権を握っており、その状況になった場合にドイツとフランスの仲が今後どうなっていくのかが憂慮される。

【分断傾向が強まるヨーロッパ】
来週はオランダの総選挙が行われるが、極右政党が第1党になる可能性が出てきた。(※2)秋にはドイツで総選挙が実施される。ドイツでも反移民、反難民政策を唱える「ドイツのための選択肢」という政党が躍進し、勢いが増しており、メルケル氏が苦戦を強いられている。現在、ヨーロッパでは分断の傾向が強まり、そういう意味からもフランスの大統領選挙の行方に注目が集まっている。よって、この結果は本当に大きな意味を持ってくるという感じがする。

今のところ接戦で、先も述べたとおり秘書の給与問題といった疑惑により有力二候補が検察の捜査を受ける可能性もある中で、先行きが不透明な状況だ。

【ヨーロッパの分断を防止できるのか!?】
世の中全体が極右の方向に向かっており、アメリカ、オランダ、ドイツ、フランスも例外ではなく、その方向に向かっている。これはいったいどういうことを意味しているのかを我々も考えておく必要があるだろう。この流れをどうやって止めるかは国民の選択にかかっている。国民がきちんと考え、投票するかどうかの比重は大きい。アメリカの選択をみるとあまり楽観もしていられないという気もするが、果たしてヨーロッパはどういう選択をするのかという点に今後も注目していきたい。

画像:マリーヌ・ルペン氏のオフィシャルサイト

参考情報
(※)ロイターは4月3日付で、調査会社Ifopフィデュシアルがフランス大統領選に関する世論調査を実施したと報じた。
4月23日に実施される第1回投票の得票率に関する結果は以下の通り
・中道系独立候補のマクロン前経済相:26%(変わらず)
・極右政党・国民戦線のルペン党首:25.5%(0.5%ポイント上昇)
・右派候補のフィヨン氏:17%(0.5%ポイント低下)
上位2名が争う5月7日の決選投票での得票率は、マクロン氏60%、ルペン氏40%で、マクロン氏が勝利する見込み。

(※2)3月15日に行われたオランダ総選挙では、マルク・ルッテ首相率いる自由民主国民党(VVD)が最多の33議席を獲得したことが判明した。欧州連合(EU)離脱を主張し、移民受け入れに反対する右派ゲルト・ウィルダース氏の自由党(PVV)は、20議席に留まった。

 
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