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無気味なトルコの動き オスマン帝国の復活もくろむ!?

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 トルコが再び中東と世界の波乱要因になってきた。軍の一部がエルドアン大統領に反発してクーデター未遂事件を起こしてからこの7月で1年となった。クーデターは押さえ込んだものの、大統領の弾圧と強権が加速し、シリア北部に侵攻したり、大統領権限集中の改憲が可決されている。その一方で、反政府デモが日増しに激しさを増してトルコは分断状況を呈してきた。欧州諸国もトルコの強権政治に批判を強めている。

 トルコは第一次大戦後、オスマントルコ帝国の打倒とその後に続くトルコ共和国建国のトルコ革命で近代化を成し遂げた。その指導者が近代トルコの父といわれるケマル・アタチュルクで1918年から22年まで繰り広げられた。かつてのオスマントルコは、小侯国から伸びてきたイスラム国だったが、やがて17世紀には東西はアゼルバイジャンから北アフリカのモロッコ、南北はイエメン、ハンガリーチェコスロバキアウクライナに至る広大な版図を築いた。

 しかし第一次大戦で敗北すると、列強の占領下におかれ、植民地となりかけるが独立運動が起こり、1923年にイスラム世界で初となる共和制を宣言、オスマン王朝を追放し西洋化を目指す。その中心的指導者がケマル・アタチュルクだった。国土は北の黒海、南のエーゲ海と地中海をまたぐボスポラス海峡ダーダネルス海峡などによって隔てられ、ヨーロッパと中東、中央アジアをつなぐ要衝に位置する。国土は日本の約2倍で、人口は約8000万人の大国で、大半はイスラム教徒。イスタンブールアンカラが大都市だ。

 経済は世界17位(GDPは8574億ドル)で軽工業、商業、農業、鉱物資源で成り立つが1990年代から経済は低調だった。インフレと巨額債務に苦しみ、ドイツなどへ出稼ぎにゆく労働者が多いことで知られた。2000年代になって経済はやや持ち直してきた。2003年から現在大統領を務めるエルドアンが首相となり強権的手法でイスラム化を進める統治を行ない存在感が増した。

 さらに2007年の憲法改正大統領制に移行。エルドアンは2014年に大統領に当選し、2017年の改正で大統領権限を一段と強化して今日に至っている。2016年のクーデター未遂事件は、こうしたエルドアン政権の強権策に反発して発生している。軍はトルコのイスラム化に反対し、世俗主義政教分離の西洋化)を掲げており、トルコ内では農村部はイスラム派、都市部は世俗派が多いとされる。エルドアン政権はクーデター事件未遂後、5万人以上の民間人、ジャーナリストらを逮捕し、15万人以上の公務員、軍兵士と幹部、警察官、官僚、司法関係者を逮捕した。NATOの加盟国でEU加盟を目指しているが、最近はその強権政治を巡ってEUとの対立も激化している。

 トルコのもう一つの厄介な問題がトルコ領内のクルド族の独立の動きと難民の規制だ。クルド族はトルコ、イラン、イラクなどに住み、その数は2500万~3000万人で国家を持たない一つの最大の民族といわれる。なかでもトルコには1500万人以上がいるとされ、過激集団イスラム国との闘いで功績をあげ、その勢いにのってクルド国家成立を目指している。ただ、クルド族を抱えるトルコ、イラン、イラクは国家成立に反対しており、中東各国では厄介な民族問題となっている。

 また中東各国から難民がEUに渡っているが、トルコは欧州への難民を規制し始めた。2016年に中東、アフリカから欧州に渡った難民は約38万人だが過去最大の104万人(2015年)に比べると約7割も減少した。その最大の原因はトルコが規制強化に乗り出したためといわれる。

 トルコは20世紀初めまでオスマン帝国を築いた大国だったが第一次大戦を機に国力、領土とも減少した。しかしトルコ民族には、かつてのオスマン帝国への郷愁があり、特にエルドアン政権は、その強権を武器に“新オスマン主義”を目指しているとされる。このことが中東各国やヨーロッパ諸国との火種となって最近くすぶり出し、中東の新たな波乱要因となりつつあるのだ。

 

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