言いたい放題のトランプ外交
7月11日からベルギーで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議でトランプ大統領は、相変わらず言いたい放題でEUとの溝を深めている。
今回のNATO協議では、「EUの防衛負担はアメリカに比べ少ない。加盟国の国防支出をGDPの2%に増やすよう前倒しすべきだ」と提案。一度は折合いがつかなかったが、トランプ大統領は再度早期増額を迫り、緊急会合で合意したと語った。しかしマクロン仏大統領やコンテ伊首相は「合意はなかった」と話しており理解が食い違っている。この席でトランプ大統領は「アメリカはNATOにカネを払いすぎている。同盟国はGDPの4%を国防費に回すべきだ。」と語ったともいわれている。
■”ドイツはロシアの捕虜だ”と批判
このほかにもトランプ氏は「WTO(世界貿易機関)はアメリカを傷つけるために設立された。経済大国の中国がWTOでは経済発展途上国扱いになっているのも問題だ」と批判。さらにドイツを「ロシアの捕虜だ」と述べ、ドイツのGDPに占める国防費の低さ(1.24%)を攻めて「アメリカは3.50%も供出している」と不満をぶつけた。
NATOは第二次大戦後の冷戦時に旧ソ連圏と対抗するために創設した軍事同盟で本部はベルギーのブリュッセルにあり旧ソ連圏に属していたチョコやバルト3国など29カ国が加盟している集団安全保障体制で、加盟国が武力攻撃を受けた時は、全加盟国への攻撃とみなし反撃することになっている。2010年に決めた新戦略ではテロやミサイルなどの攻撃も新たな脅威とし、ミサイル防衛システムの開発に力を入れている。
NATOは戦後一貫してアメリカが中心的任務を担い、民主主義と自由競争、人権外交を柱とし、ソ連を軸とする旧共産圏と対峙してきた。90年代以降はこれに地球環境を破壊する温暖化問題や核拡散阻止も大きな理念的柱として位置づけてきた。
■戦後秩序を無視するトランプ
ところが、トランプ大統領が登場してからNATOや自由圏諸国が重視してきたそれらの理念をアメリカ自らが無視、あるいは軽視し始めてきた。アジア太平洋の自由貿易を広げようとしてきたTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱し、環境協定のパリ協定も軽視。NATOの中心的存在であるドイツやフランスを批判する一方で、ロシアのプーチン大統領に近づくなど、これまで西側諸国が大事にしてきた価値原則を軽視し、EU諸国との協調にまでヒビを入れつつあるのが実情だ。
こうしたトランプの方針にアメリカの富裕層やエリート層は懸念を示しているが、約40%の白人大衆層は固い支持にまわっており、世界だけでなくアメリカにも分断の亀裂が広がっているといえる。
日本の安倍首相は、アメリカと一枚岩の関係を保つことが日本にとって有利とみているようだが、日本の対米貿易赤字減らし、アメリカ製武器の購入要請など、戦後の価値観、秩序の変化を急速に変化させるトランプ大統領の“アメリカ第一主義”“理念より取引(ディール)に重きを置くトランプ外交”に不安と警戒を感ずる国民も増えつつある。戦後の日米外交、日本の外交方針は大きな変化の岐路に立たされているように見える。と同時に東南アジアやこのところ強気な中国でさえも本音ではとまどいがあるのではなかろうか。
【Japan In-depth 2018年7月22日】
画像:NATOオフィシャルサイトより