米中貿易戦争からハイテク覇権の戦いに!
アメリカと中国がハイテク覇権を巡って激しく衝突し始めた。もともと中国がハイテクに力を入れ始めたのは2006年頃だ。ハイテク産業の育成政策として中国政府は“自主創新”を打ち出し、新たな産業政策の標語とした。
ハイテク基幹技術を国産化しようという運動で、政府の投資ファンドに補助金を投入し、アメリカの合弁企業から技術供与を受けたり、サイバー攻撃で技術を盗んだりしているとアメリカは警戒していた。実際、米司法省は14年に中国人民解放軍の将校5人を米国企業6社に対するサイバー攻撃で企業機密情報を盗んだとして起訴している。
■中国は「中国製造2025」で対抗
こうした事態を受け中国は、2015年に製造業強化計画「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」を発表した。それによると次世代IT(情報技術)、ロボット、新エネルギー自動車、AI(人工知能)、ドローン、ビッグデータなど10の産業を強化育成するとし、以下の通り計画している。
・第一段階:2025年までに製造業強国の仲間入りを目指す
・第二段階:2035年には世界の製造業強国の中位の水準となる
・第三段階:2049年には世界の製造業強国の先頭に立つ
上記の過程で2025年までに中間素材、部品、製造装置などの7割は中国国内で生産するという。
アメリカからみれば、この過程で中国が海外からハイテク技術を導入して追いつこうとしているようにみえるわけだ。このため、中国のハイテク企業ファーウェイ(華為技術)、ZTE(中興通訊)などから通話機器の調達や納入することを禁じている。アメリカの通信会社が中国の会社から通信機器を調達すると安全保障上で懸念が生ずると見ているからだ。
このためアメリカやトランプ大統領は知的財産権の侵害を理由に通商301条に基づき対中国制裁措置の発動を指示したほか、ZTEに対しては今年4月にイランや北朝鮮への制裁に違反したためアメリカ企業との取引を7年間禁ずるとしていたが、今月13日に制裁が解除された。
中国は最近AIやドローン、ビッグデータ、クラウドなどニューエコノミー分野で競争力を高めており、これらをあらゆるものがネットとつながるIoTの基盤になる高速大容量通信規格“5G”と結べば中国のハイテク競争力は一挙に高まると予想しているのだ。今後ますますハイテク覇権の争いが激化するとみる予想は、こうした現実が迫っているからだという。
■追加関税の応酬でも激化へ
一方、追加関税を相互にかけあう貿易戦争も激しさを増している。トランプ政権は10日に追加関税10%をかける6031品目、22兆円のリストを公表した。ハンドバッグや化粧品、帽子、水産品、野菜、果物などで「中国が報復すれば関税をかける」と脅している。今回は携帯電話やパソコンをはずし生活に身近な商品が多く、アメリカの有名化粧品などは中国人にとって高いものになる。生活品で締め上げようという狙いなのか。
また、中国は「国家と人民の利益を守るために中国は必要な反撃を行う」と受けて立つ構えだ。ただアメリカの関税対象は2500億ドルだが中国のアメリカからの輸入総額は1300億ドルと少ないので、これまでのように金額、税率ともアメリカと同じ報復をするわけにはいかないようで、ハリウッド映画の上映制限、アメリカ向け団体旅行の販売停止などを考えているという。
■損をするのは生産者、消費者?
今のところ今月6日に発動した第一段階の制裁関税はアメリカが自動車、産業用ロボット、半導体、医療用機器など818品目340億ドル。中国は自動車、大豆、牛肉、農水産物、ウィスキーなど545品目で340億ドルという。その後徐々に拡大するとし、輸入品全体に課すとしている。ただ関税発動では双方の生産者、消費者に多大の迷惑がかかるとし、問題解決にはつながらないとの声もあり、今後どう妥協するかが注目点だ。
【TSR情報 2018年7月30日】