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日本の基礎研究衰退 人材、支援資金、留学減少

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 日本で初めてノーベル賞を受賞したのは、1949年11月3日(文化の日)の湯川秀樹博士だ。日本が米軍(国連軍)の戦後占領期にあった時期である。まだ敗戦に打ちひしがれている時代だっただけに日本人にとっては、大いに溜飲を下げた受賞だった。私がまだ満7歳の頃で受賞対象となった「中間子理論」などはチンプンカンプンで全くわからなかったが、「日本人は頭がよく優れているんだ」と単純に喜んだものだ。世界の檜舞台で表彰される姿にメディアも興奮して報道していた。

 ノーベル賞はダイナマイトや様々な爆薬の開発、生産で巨万の富を築いたアルフレッド・ノーベルによって設立された。スウェーデン人のノーベルは兵器売買で富を築いたため、一部から“死の商人”と批判され気にしていたという。そのせいか、自分の死後は総資産の94%を寄付。その資産でノーベル財団が設立され、前年に人類に対し最大の貢献をした人物に賞金を授けるとした。

 ノーベル賞はノーベルが63歳で死去した1896年から準備され1900年にスウェーデンノーベル財団を設立、1901年に初めて授賞式が行なわれた。ノーベル賞の部門は物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞とされていたが1968年に新たに経済学賞が設けられた。ただしスウェーデン・アカデミーが賛同していないためノーベル賞の名前は使っていない。賞金は800万・スウェーデンクローナ(約8900万円)。これまでに個人の意思でノーベル賞を辞退した人物はジャン・ポール・サルトル(1964年文学賞)と、レ・ドゥク・ト(1973年平和賞)の2人とされている。

ノーベル賞受賞の常連になったが・・・
 1901年から2018年までの日本人のノーベル賞受賞者は物理学賞9人、化学賞7人、生理学・医学賞5人、文学賞2人、平和賞1人の計27人で非欧米諸国の中で最も多い。

2018年のノーベル生理学・医学賞には京大特別教授の本庶佑氏が選ばれた。本庶氏は受賞の会見で「日本は基礎研究に対し、もっと長期的展望に立って科学研究に支援すべきだ」と訴え、最近の日本の基礎研究の弱体化に警鐘を鳴らした。

事実、日本の基礎研究の危機は、様々な事例で指摘されている。
・世界の研究者に引用される影響力の高い論文の世界シェアは10年前の 4位から9位にまで落ちた(2017年)
・ 国際会議で講演に招待される日本人研究者が少なくなった
・ 科学技術予算は2018年に3兆8400億円だが2000年以降横バイが続いて いる。中国は16年に22兆4000億円と2000年に比べ約7倍となってい る。アメリカは予算額2位で2000年比1.2倍の14兆9000億円(17年)
・ 若い学生は博士課程に進まず、2003年をピークに博士課程への進学が 減り続けている。政府は博士号を取得して次のポストを目指す「ポスト・ドクター1万人支援計画」を打ち出したが、大学も企業も雇用に  消極的で高学歴となっても収入の少ない実情が続いている
・短期的な成果を求める風潮が強く、長期的な視野でじっくり研究に取 り組む傾向がどんどん薄れている

――等々、かつての“科学技術大国を目指す”という志や情熱が薄れ、支援も少ないのが実情なのだ。

 アメリカでは若い人たちの間からマイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブックなど次々と新しい企業が輩出され、社会を引っ張っているが、最近の日本にはそうした元気のある企業も生まれていない。明らかに日本の研究土壌は衰え、人材も伸び悩んでいるといえる。どこかで、しかも早急に手を打たないと中国や韓国に遅れをとる後進国になり下がってしまおう。
【Japan In-depth 2018年10月22日】

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