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ゴーン問題の本番は釈放後に?

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 ルノー日産自動車のゴーン会長が逮捕され刑務所に拘留中の11月29日、日産自動車三菱自動車のトップと仏ルノーの最高責任者(CEO)代理の三者が会った。三社連合の今後の運営方針について初めて協議し「引き続き提携の取組みに全力を尽くす」ことで合意したという。しかしゴーンは日産株を45%持つルノーの会長であり、仏政府もルノー株を15%所有しルノーの将来に重大な関心を寄せている。肝心のルノーの主役たちが不在の中で三者が抽象的な合意を発表して果たして意味を持つのだろうか。

 世界に衝撃を与えた逮捕から半月余過ぎたが三社連合の主役だったゴーン会長の生の声はまだ聞こえてこない。一日の接見時間が弁護士付きで15分とあっては本心が聞こえるはずはあるまい。しかも突然の逮捕の背景には日産側の周到な根回しや役員らとの司法取引があったというから、いまなおルノー会長のゴーン不在のままで三者会談を開いてもルノー側が方針を出せるはずはないのだ。

 本当のゴーン・ルノー会長と日産との戦いはゴーンが釈放された後のことになろう。その時はルノー株を15%持つ仏政府も一緒になって提携問題だけでなく拘留中の扱いなどについても問題にしてこよう。自白主義中心で拘留期間の長い日本の警察と証拠主義を重視する欧米司法の相違や、家族の接見を認めない日本の司法の特異性などを言い立て、国際世論は日本の司法、裁判制度の国際法にまで及んでくるかもしれない。

 私は2010年に行なわれた法務省主催の司法制度の在り方検討会議の委員となり、検察庁や警察、裁判所などの元トップのほか学者、有識者たちと数ヶ月にわたり議論したことがある。当時の問題意識は日本の司法制度はほとんど明治以来のままで、現代の国際司法とかなりかけ離れすぎているのではないかという点が大きな論点だった、もっと司法のあり方に透明性をもたらし、可視化を導入すべきという点が議論の焦点だった。

 ただ、そこでは全面的な可視化を一挙に実施するとなれば“自白の証拠能力が弱いとみなされ立件がしにくくなる”といった意見や、先進国の司法制度と比べると透明性に欠け検察優位になりすぎている――など、日本の司法制度のあり方について各界の分野の専門家から様々な意見が出されていた。結局、法務省はその後“一部を可視化する”といった改革案などを出し今日に至っている。

 日産はルノーの支援によって再建されたが、ここ数年はゴーンの独裁的経営手法や日産の技術がルノー側へ流れることにかなり不満があったという。このためゴーンの私欲に絡んだ取引などについて日本の司法当局と取引し、突然の逮捕に至ったと見る向きが強い。

 多分、日本政府としては事を荒立てたくない。今のところ両政府間では表面的に大人の対応をしているが、15%のルノー株を持つ仏政府と逮捕後もルノー会長の任を解かれていないゴーンの出方は決して甘くはないだろう。経営的再建を果たした日産の自信過剰が国際政治を揺るがす事件をもたらしたと見えるが、本心では釈放後のゴーンの出方に戦々恐々だろう。

 ゴーンは取り調べに対し容疑を全面的に否定している。日本政府は「民事の事案に政府が口出すべきではない」と静観の構えだが、仏政府は高い失業率に頭を痛めている時でもあり、ルノーとゴーン救済に力を入れてきそうだ。
【電気新聞 2018年12月19日】

※なお、昨日(12月20日)の報道では東京地裁決定東京地方裁判所が同日付で日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者らに対する東京地検特捜部の勾留延長申請を却下しておりましたが、東京地検特捜部は本日(21日)、ゴーン容疑者を会社法の特別背任容疑で再逮捕し、ゴーン容疑者に対する勾留および取調べが続くことになりました。

画像:ノルウェーを訪れたゴーン氏(Flickr / Norsk Elbilforening)

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