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香港から深センへ?

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 雨傘から覆面へ――2014年の香港の民主化運動は“雨傘運動”と呼ばれた。79日間にわたって香港島中心の大通りを占拠した学生や市民の抗議活動で、中国政府が香港の行政区長官選挙に対し、民主派の候補を事実上排除する挙に出たことに反発した運動だった。香港警察が催涙弾などを使った弾圧をデモ隊が雨傘で防いだことからこの名がついた。約1000人が逮捕され、学生リーダーや知識人に実刑判決が出て、その後民主派の締め付けが強まっていた。

 これまでに100万人規模のデモが数回行なわれ交通網がマヒしたり、デモ隊に警察官の威嚇射撃が行なわれるなど、運動はますます過激化している。香港政府は14年の運動後、急進派の民主派候補を認めないなどしてきたが若者達が引き下がる様子はなく、逆に行政区長官が改正案審議の無期限延長や改正案の正式撤回を発表しても抗議活動はむしろ高まっている。5年前の運動は香港警察による強制排除で終結したが、10月1日の建国記念日デモでは学生が警察官に撃たれ重態に陥るなど、ますます荒れる気配だ。

 香港は旧石器時代から中国の一部として存在し、新石器時代青銅器時代の遺跡が発見されている。王朝時代に入ると秦朝の支配を受け、以後唐、明朝に支配され、1517年にはポルトガル人が来航した。清朝に入るとイギリス東インド会社がインドのアヘンを売りつけ1839年アヘン戦争が始まり、イギリスに割譲され97年6月末まで租借される。第二次大戦中は日本が統治するが、日本が敗戦すると再びイギリスの統治下に戻り97年まで金融都市、商業都市として発展した。社会主義中国が成立後は“一国二制度”の下で社会主義とは別に資本主義社会の窓口となり、特に金融センターとしてアジアの中心的存在になっている。

 今回の運動は、中国政府にとっても頭の痛い問題だ。天安門事件のように武力で鎮圧すれば国際的非難が大きくなることが目に見えている。特に現在は、アメリカとの間で貿易戦争が起きており、トランプ大統領は「もし香港で天安門事件のようなことが起これば米中貿易交渉は難しくなる」と宣言している。このため中国政府はまだ表面には出ず香港行政府に対応を任せているのが実情だ。

 さらに気がかりなのは、台湾問題にまで波及しかねないことだろう。社会主義体制にヒビが入ると懸念されれば中国政府は軍を動員させることもあり得る。また、中国政府は香港と隣接する広東省深センを香港に対抗する金融都市として発展させる方針を発表した。深センは昨年、域内総生産で香港を抜き、科学技術力や人口も上回っていると指摘しているのだ。
【財界 2019年秋季特大号 第506回】

※補足情報
・香港政府は10月23日、4カ月以上にわたって続く反政府デモの発端となった、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案を、正式に撤回した。しかし、デモ隊が掲げる5つの要求の1つに過ぎず、以下の残りの4つの要求はまだ残っているためデモが収束していない状況となっています。
 *抗議行動に対する「暴動」という言葉の使用取消し
 *逮捕されたデモ参加者全員への恩赦
 *デモ参加者に対する警察の暴力をめぐる独立調査
 *行政長官選挙での普通選挙の実施

・中国の習近平国家主席と香港政府トップの林鄭月娥行政長官は「中国国際輸入博覧会」出席の為、共に香港を訪れており、昨日(4日)予告なしに会談した。

中国国営新華社通信によると、習氏は習氏は林鄭氏への全面的な支持を表明。香港での衝突の鎮圧に努める林鄭氏を、習氏が称賛した。さらに「中国中央政府は林鄭氏に高度の信頼を寄せている。この暴動を止めること、そして秩序を回復することが、依然として香港で最も重要な任務だ」と述べたと報じられています。

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