メルケル後の女性首脳たち
ヨーロッパの経済が急速に悪くなってきた。その最大の要因は機関車として欧州を引っ張ってきたドイツ経済が冷え込んできたからだ。
ドイツはベルリンの壁崩壊後、東西ドイツの再統一を果たし、メルケル氏が初の女性首相として2005年に就任した。東西ドイツ統一直後は遅れていた旧東独が大きな社会的負担となっていた。しかし、やがてシュレーダー首相、メルケル首相と続く間に〝欧州の盟主〟として存在感を発揮し始め、ドイツ経済はひとり勝ちといわれるほど好転していった。
特にメルケル政権時代の10年間は、ギリシャ危機ではギリシャのユーロ圏離脱を防いだり、ウクライナ危機ではロシアとの停戦協定をまとめ上げたほか、保育園の増設を進め共働き家庭を前提とした支援政策を決定。さらに福島原発事故を機に「脱原発」へとエネルギー政策を転換するなどしてリベラル層からも支持された。しかし、内戦の中東からの難民問題が発生し、ドイツやEUでの難民受入を宣言すると、徐々に支持率が低下。地方選での連敗により、遂に21年の任期満了後には政界を引退すると表明した。
このほかイギリスのEU離脱、東欧の右傾化なども重なり、ドイツとフランス中心のまとまりが一挙に崩れつつある。さらに米中貿易戦争は世界経済を不安定にし、欧州経済にも大きく影響し始めてきた。
これまで自由主義経済圏の価値観で世界をリードしてきたアメリカが「アメリカ第一」を唱え、中国との関係も悪化してきた時、米中の間に立って世界を取りまとめるのはEUで、特にドイツとフランスにその役割を期待する国が多かった。しかし中心的存在だったドイツ経済に異変が起きてきたため、一挙に世界不況の懸念が出始めてきたのだ。
ただ、欧州のリーダーの顔ぶれが欧州中央銀行総裁にフランスのクリスティーヌ・ラガルド前国際通貨基金専務理事、EUトップの欧州委員長にドイツのウルズラ・フォンデアライエン前国防相、国際通貨基金(IMF)専務理事にブルガリア出身のクリスタリーナ・ゲオルギエヴァ世界銀行CEOへと代わる。欧州を主導する重要ポストのトップ全てに女性が就任することになった。
ベルリンの壁崩壊後は、世界がグローバル化の道を歩んだ30年でもあった。グローバル主義は先進工業国や豊かな人々にとっては大きな福音となった。だが、貧しい国や人々にとっては格差を拡大させ、社会を不安定化に導く背景ともなっている。その混乱と格差がはっきり表れているのが最近のヨーロッパともいえる。欧州の新しい女性指導者たちはどんなヨーロッパを作り出そうとしていくのだろうか。
【財界 2020新年特大号】