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小さな改革だけではダメ 菅政権2カ月の印象

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※本コラムは11月下旬に入稿しております。

 菅政権がスタートして2ヵ月が過ぎた。携帯料金の値下げ提案など生活に関係した改革方針がいくつか打ち出され、東南アジアにも出かけた。忙しく"やっている"感はあるものの、菅政権の思想や哲学、軸などはまだ見えてこない。

 安倍前政権は、保守思想を売りものにしていた。憲法改正を事ある毎に口にし、安保法制の実現に力を入れた。菅新首相は安倍政権下で7年半、官房長官として仕え、安倍路線を継承すると語っている。ただこれまでのところ打ち出されたのは日常生活に身近な提案だけで安倍路線の何を、どのように受け継ぐのか、実のところまだ見えていない。

 菅首相は、安倍政権が専ら外交に傾注している時、官房長官の立場から内政固めに力を入れていた。7年を越す長期の官房長官の在任で内政の隅々まで知り尽くし、各省庁の人脈、人事を把握した菅首相の権勢は、いまや及ぶ者がいないほど強くなっている。このため各省庁の官僚たちは戦々恐々の思いで菅政権の出方を見つめていよう。

 菅首相は、安倍政権時代の「未来投資会議」を廃止して菅氏肝入りの「成長戦略会議」を立ち上げた。地銀再編やデジタル庁の設置、ハンコの廃止、不妊治療への支援拡大、訪日外国人客の増加対策などを打ち上げているが、当面の焦点としては携帯電話料金の4割値下げし改革実現内閣を印象付けようとしている。さらに新型コロナ禍対策としてオンライン診療を原則恒久化することや遠隔教育などのための教育のデジタル化促進、書類の多い契約の電子化などの法改正も課題に上げた。またこの会議の委員には従来のような経団連企業のトップなどでなくITやベンチャー企業、現場の人物などを重視する方針という。

 日本の産業構造は、従来の鉄鋼、電力など"重厚長大"型からIT、流通、デジタルなど"軽薄短小"型に変化してきているが、政策や諮問委員会の担い手も新しい方向に変えようとしているようだ。

 ただ、身近な課題を重視し、国民に改革の成果を実感させようとする意図はわかるものの、菅内閣が国家の方向をどのように導いてゆこうとしているのか、その”国家軸”がまだはっきり見えてこない点は気になる。アメリカと中国の間で日本はどんな外交方針で進んでゆこうとするのか。長期的な社会保障制度改革や財政の健全化などをどうするのか。国際的な経済競争力が中流程度にまで低下してきた日本を再び最上位圏まで復帰させるには、どんな工夫が必要なのか──など、大きな構想力を持たずに小さな改革だけを積み重ねても"井の中の蛙"に終わってしまう危険が強いだろう。
【財界 2020年12月9日 第531回】


■参考情報
菅内閣 支持と不支持初めて逆転 世論調査 1月12日 NHK
 NHK世論調査によると、菅内閣を「支持する」と答えた人は40%、「支持しない」と答えた人は41%で、去年9月の菅内閣発足以降初めて支持と不支持が逆転。対象は2168人で、59%にあたる1278人から回答。新型コロナウイルスをめぐる政府のこれまでの対応について、「大いに評価する」が3%、「ある程度評価する」が35%、「あまり評価しない」が41%、「まったく評価しない」が17%。 

 複数社で世論調査を実施しているが、いずれも支持が41%代となっている。

 

画像:内閣官房ホームページ

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