時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

「国際主義」に戻るバイデン大統領 -分断回復には長い時間も-

84年7月にサンフランシスコで行われた民主党大会 嶌信彦撮影

84年7月にサンフランシスコで行われた民主党大会 嶌信彦撮影

 1月20日アメリカの新しい大統領に民主党ジョー・バイデン氏が就任する。

 「分断ではなく結束をめざす大統領になることを誓う。アメリカを赤い州(トランプ支持の中西部)と青い州(バイデン支持の東部、西海岸中心)に分けてみるのではなく、合衆国としてみる大統領となる。アメリカの品位を回復し、民主主義を守り、この国の人種的平等を成し遂げ、すべての人に公平な機会を与える国にすることを誓う」と第一声を述べ、「我々の仕事は新型コロナを制御することから始まる」と宣言した。

 アメリカの第46代大統領になるバイデン氏は、就任の時に78歳2ヵ月目となり史上最高齢の大統領となる。もしバイデン氏が死亡したり、辞任した場合は憲法の定めにより副大統領が昇格する。その副大統領に指名されているのは、カマラ・ハリス女史だ。ジャマイカ系の父とインド系の母を持つ移民二世の女性、アジア系、アフリカ系上院議員で56歳。

 「私は女性として最初の副大統領になるが、最後にはならない。なぜならここは可能性のある国だということを全ての少女が目の当たりにしたからだ」と述べると、会場から大歓声が上がり目に涙を浮かべる女性もいたという。ハリス氏はカリフォルニア大に入り社会改革を目指して検察官となり、「次のオバマになるかもしれない」と早くも4年後の有力な大統領候補との声が出ている。

 バイデン氏は東部ペンシルベニア州の炭鉱町で生まれ、労働者層の家庭で育った。ロースクールを出て共和党系の弁護士事務所で働くが、共和党ニクソン元大統領を嫌い民主党に入り、30歳の時に民主党上院議員に当選する。以来、上院議員として外交委員長や司法委員長などを務め、オバマ政権で副大統領職につき、政界では44年の議員歴を持つ国政通として知られてきた。

 ただ家庭的には不幸が重なっている。議員就任直前に大学在学中に恋をした最初の妻ネイリアさんが交通事故で長女ナオミさんと共に死亡。2人の息子も重傷を負った。また副大統領在職中には長男のボー・バイデン氏(当時46歳)が脳腫瘍で亡くなっている。ボー氏はデラウェア州司法長官を務めるなどバイデン氏と同じ政治の道を歩んでいた最愛の息子だった。現在の妻ジルさんとは77年に再婚している。

 バイデン氏は、トランプ大統領とは異なり国際協調路線を進め、同盟国との関係を重視する安保外交、通商路線に戻る方針だ。人権や気候変動にも理解を示し、トランプ政権が離脱を表明したパリ協定や世界保健機構(WHO)に復帰すると明言。イランとの国際的核合意にも戻る予定とみられる。中国との関係については「重大な競争相手」とみなす考えは変わらないものの、トランプ政権が行ったような制裁関税の報復合戦は行わない模様だ。対日政策に関しては“アジア政策でカギとなるのは日本だ”としているが、防衛負担の増加を求めてくる姿勢は変わらないとみられている。

 国際主義で多様化に理解があり、人権や環境問題にも関心の強い中流出身のバイデン氏の大統領就任には、トランプ大統領の考え、方針に戸惑っていた欧州諸国や日本にとっては歓迎だろう。ただ、バイデン氏の就任でかつてのアメリカに戻るかといえば、必ずしもそうはならないとみる人が多い。トランプ政権のように“アメリカ第一主義”になることはないにしても、今のアメリカにはもはや“世界の警察官”になる力はないだろうし、国内産業の保護を重視する姿勢には変わりはないとみられているからだ。またバイデン氏が勝利したとはいえ、トランプ氏もバイデン氏に迫る7000万票台の支持を獲得しており、早急にアメリカ社会の分断が埋まるとみる人も少ない。

その意味では、中国が急速に台頭してきている今日の国際情勢の下では、世界各国の分担の割合が強まっていく可能性の方が強いのではないだろうか。
TSR情報 2021年1月12日】


【参考情報】
・バイデン氏は政権移行に関して幅広い支持を得たが、共和党の根強い懐疑論が広がっている ポスト-ABC世論調査
(Biden wins wide approval for handling of transition, but persistent GOP skepticism on issues will cloud the opening of his presidency, Post-ABC poll finds)1月17日 ワシントンポスト電子版
 ワシントンポストとABCニュースは共同で行った世論調査を17日に発表した。バイデン次期大統領の政権移行方法への支持は67%、不支持は25%だった。歴代の大統領就任直前の支持率と比較すると、トランプ大統領の40%を大幅に上回ったものの、オバマ前大統領(80%)、ブッシュ(子)元大統領(72%)、クリントン元大統領(81%)には及ばなかった。
 内容はトランプ大統領ツイッター凍結に関する設問など多岐にわたり、1月10~13日に無作為に抽出された1002人の大人に対し電話調査を実施した。 

調査の全容は以下を参照ください
 https://wapo.st/35Suv3F
時事通信が伝えた日本語ニュースは以下を参照ください。
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021011800175&g=int

 Facebook

 嶌信彦メールマガジン

 嶌信彦メールマガジン

書籍情報
日本人の覚悟

日本人の覚悟―成熟経済を超える

(実業之日本社)
【著】嶌 信彦


日本の「世界商品」力

日本の『世界商品』力

(集英社新書)
【著】嶌 信彦

     
首脳外交

首脳外交-先進国サミットの裏面史

(文春新書)
【著】嶌 信彦


 
嶌信彦の一筆入魂

嶌信彦の一筆入魂

(財界研究所)
【著】嶌 信彦


ニュースキャスターたちの24時間

ニュースキャスターたちの24時間

(講談社)
【著】嶌 信彦
       

 日本ウズベキスタン協会