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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

家族形態の変化~社会からの孤立をどう防ぐか~

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 ここ10~20年で日本の家族のあり方が大きく変化している。少子高齢化の急速な進展で親2人子供2人の4人家族が減少し、一人暮らしの高齢者や無職のままひきこもる中高年の増加などが目立ち始めて、かつての典型的な家族形態も変化している。家族の抱える問題が多様化、複雑化してきているのだ。介護、子育て、生活困窮だけでなく、社会から孤立する家族が増大しており、これからの社会福祉は家族の変容と社会との関係など幅広い視点から対応することが迫られている。

 私が小学校、中学校時代を過ごした1950~60年代の家族構成は子供3人の5人家族が多かった。私の家も両親に長男の私と妹2人の5人家族だった。今日の物の豊かさがまだ各家庭に及んでいない時代で、家族の大きな課題は衣・食・住をそろえること、特に日常的な食の充実だった。なかでも子供の食と栄養の問題は、日本全体の社会的課題で学校給食は大きな役割を果たしていたと思う。

 60年代半ばを過ぎ日本が高度経済成長の70年代の時代に入ると、家族の問題は徐々に変質し、それまでの衣・食・住という生活の基盤的問題から家族のあり方や隣・近所との関係、社会との付き合い方など、“生きる問題”から家族と社会生活の課題に比重が移っていった。たとえば女性が外で働くようになると、家族構成は子供3人から2人~1人が当たり前になり、標準世帯は親子5人から4人で数えるようになった。離婚が増えて親一人、子供一人の世帯が増えてきたし、女性が外で働くようになると子供を祖父母に預けたり、保育園や幼稚園で夕方まで預かってもらう家族も当たり前になってきた。

 また家族のひきこもりも重大な家庭問題になりつつある。子供のひきこもりだけでなく、最近は中高年の“8050問題”が表面化してきた。80歳代の親と、ひきこもってしまった50歳代の親子が社会や地域から孤立し、生活苦に陥る実態が増えてきたというのである。内閣府の調査によると、40~64歳の中高年のひきこもりは61万人を超えて、半数以上が5年以上の長期にわたり、20年以上の人が20%に及ぶという。全国に75ヵ所あるひきこもり相談所への相談件数はこの5年間で3倍に増えて2017年度は10万2000件を超した。80歳の親はいずれ病気や要介護状態となり子供の面倒をみられなくなるので中高年のひきこもり問題は極めて深刻だ。しかし、若い人のひきこもりを親だけにまかせ放置しておくと、いずれ“8050問題”に発展する可能性が強いので、中高年になる前に手を打たないと悲劇を引き起こしかねない。ひきこもったまま自立できなかった長男の先を案じ、思い余って刺殺してしまった元高級官僚の親の事件はまだ記憶に生々しい。

 ただ、今後の国民生活の大きな課題は、やはり高齢者の一人暮らし対策だろう。一人暮らしをする65歳以上の日本人高齢者は十数年後の2040年に896万3000人となり、15年より43.4%も増え、全世帯数に対する割合は17.7%に達する。東京だと116万7000人と人口の3割に上る。

 世帯数の推計は5年に一度実施されるが、2015年の国勢調査を使って40年までの世帯類型をみると、40年の全世帯数は5075万7000世帯で、そのうち一人暮らしが39.3%で最も多く、夫婦と子23.3%、夫婦のみ21.1%。ひとり親と子9.7%、その他6.6%となる。高齢者世帯主は2242万3000世帯で全世帯に占める割合は何と44.2%となる。45道府県で4割を超え、秋田や青森など10県では5割超となる。高齢者世帯のうち一人暮らしは40.0%に上る推計となっている。一人暮らしの高齢者は体の衰えや認知症などに伴う介護サービス、買い物や通院といった日常生活の支援への需要が高まってくる。15年の国勢調査で最も多いのは1840万の単身世帯で、全体の35%を占める。晩婚化や生涯独身の人も増えているのでさらに高齢者の一人暮らしが増える可能性が高い。大和総研によると、17年は「単身、無職」が最多になっており、全体の17%に上昇したとしている。この傾向が伸びると高齢者の一人暮らしは止まらず、5世帯のうち一世帯は「働いていない人の一人暮らし」が大きな比重を占めるという。

 こうした傾向を考えると、これからの社会では高齢者の一人暮らしに対する社会保障のあり方や生き甲斐への支援、コミュニティの活動などが大きな課題になってくるという。

TSR情報 2021年3月2日】

 

画像:ぱくたそ(”しーくん”さん、お出かけ中の家族連れと伸びる影の写真素材

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