時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

外交に新しい風?

  この一ヵ月余で世界の風景は変わることになるのだろうか。

 
 まずシリアだ。オバマ米大統領が90日の期限付きで無人の戦闘機、ミサイルでアサド体制を倒すと脅した。リビアのカダフィ、イラクのフセイン、アルカイダビンラディンを倒したようにトップを殺害するか、追い込めば通常の戦闘より短期間で成功すると踏んだのだろう。しかし同盟国のイギリスが降り、アメリカ議会も消積極で、オバマは振りあげた拳の始末に、困惑したに違いない。

 

 しかしそこへロシアがシリアの化学兵器廃棄、査察などの仲介案を出した。オバマはその案にさらに条件を上乗せすることで国連安保理決議に持ち込み、拳の下ろしどころを何とか見つけたようだ。ただ化学兵器の禁止にはシリアも合意したものの、内戦は下手をすればさらに泥沼に陥るかもしれない。しかし化学兵器の禁止と廃棄にシリアが本当に参加してくれば、オバマは土壇場で得点をあげたとみられよう。とくに安保理常任理事国5ヵ国が全員一致で支持となった点に安堵したはずだ。

 

 次にイランだ。新大統領で保守穏健派のロハニ師は、ニューヨークの国連総会に出席し、演説後にオバマ大統領と電話で協議した。またケリー米国務長官とザリフ・イラン外相も直接対話を行ない、イランとの核協議を10月に開始することで合意した。アメリカとイランの首脳同士が会談を行なったのは1979年のイラン革命、国交断絶以来初めてのことだ。

 

 この中でイランは「核兵器を決して開発しない」と明言、アメリカ側は「イランが義務を果たせば平和的核エネルギー利用の権利を尊重する」とし、核問題の早期解決で一致したという。イラン側は「3ヵ月で解決できる」と言い、ロハニ師はオバマ大統領に英語で「よい日をお過ごし下さい」と述べ、オバマ大統領はペルシャ語で「さようなら」と言って電話を切ったとされる。そのイランが歩み寄ってきたのはロハニ師の登場とイラン制裁による物価上昇、モノ不足、自由の風への要求など、国民の不満がロハニ師の発言と行動を後押ししているからだろう。

 

 イランはシリア反政府軍を支援、最近はイスラエルとの緊張関係増大からホルムズ海峡の封鎖、石油危機再燃まで予測する向きもあっただけに、アッと驚く展開である。

 

 もちろんイランは、シリア以上にしたたかなのでこちらもアメリカの思惑通り進むかどうかはわからない。だが、もし中東が落ち着いてくれば、ゴマ塩髪が目立っていたオバマの頭もまた黒く戻るかもしれない。対イラン制裁解除のカードをいつ、どのように使って妥協点を探るかだろう。世界統治の力が弱体化したとみられていたオバマ・アメリカにとってグリップを握り直す好機が訪れたわけだ。

 

 一方、日中間も互いに名指しで尖閣問題に触れることを避け、安倍首相は「いつも対話のドアは開かれている」と言い、中国も王毅外相が国連演説で「すぐ解決できないなら棚上げしてもよい」と話合いに意欲を示した。後はあまり面子にこだわらずどちらかが先に行動に移すことだ。アジアでも話合いによる外交課題解決と関係改善を進められれば、世界全体に新たな外交の潮流を作り出すきっかけとなり、久しぶりに国連の場が良い舞台を作ったといえよう。

 

 世界はいま、どこも不況で国内課題に手一杯だ。かつては大不況や対立があると、外へ進出して解決をはかる傾向にあった。その中で世界の警察官の役割を担っていたのがアメリカだった。だがそのアメリカにも厭戦)(えんせん)気分が充満し、地域のために血を流すことに国民が嫌気をさしている。各国はますますらの高度政治判断、バランス感覚と国民の成熟が求められている。【電気新聞 2013年10月11日】