時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

世紀末な兆候を示すコロナ疫病 ─抑え込むまで1年以上か─

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 政府は3月26日の月例経済報告に合わせ国内の景気判断を「厳しい状況にある」と下方修正した。2013年7月以来続いてきた「回復基調にある」との表現を6年9ヵ月ぶりに削除した。戦後最長とみられていた景気拡大が終わり、日本の景気は後退局面に入っていることを宣言したのである。時はコロナショックの最中にあり、新型コロナ感染症の拡大が全ての原因であってこれまでの安倍内閣の経済政策である「アベノミクス」との関係には口を閉ざしている。

 

続きは、本日配信のメールマガジンまぐまぐ」”虫の目、鳥の目、歴史の目”にてご覧ください。(初月無料)

今回のテーマが新型コロナウイルス感染症拡大に関して記しておりますため、日々情報が変化しております。通常は毎月第二金曜日の定期配送となっておりますが、通常より先行して配信いたしましたのでご了承ください。



画像:為替レート・ehさんによる写真ACからの写真

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:ゴリラ研究の第一人者で京都大学総長の山極壽一氏 二夜目音源掲載

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スタッフからのお知らせです。

昨日のTBSラジオ 『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)はゴリラ研究の第一人者で京都大学総長の山極壽一氏をお迎えする二夜目の音源が掲載されました。

「大学はジャングルだ」という言葉の真意や、AIの発達により人間が生物であることを忘れるとどうなるか。ヴァーチャルな世界で脳をつなぎ合わせていく怖さなどについてお伺いしました。

音源はradikoにて日曜までお聞きいただけます。


前回はゴリラと対面するとなぜ気持ちが伝わるのか、その秘密は目など。40年余り野生のゴリラと付き合ってこられたからこそわかったこと、ゴリラから教えられたことや学んだことなどにつきお伺いしました。山極氏の師匠であるダイアン・フォッシー氏のエピソードもお話いただきました。

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山極氏が上梓された書籍の一部をご紹介いたします。合わせて参照ください。

次回は、トラベルミステリーの第一人者、作家の西村京太郎氏をお迎えする予定です。

日曜(27日 ) TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:ゴリラ研究の第一人者で京都大学総長の山極壽一氏 二夜目

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スタッフからのお知らせです。

日曜(27日)のTBSラジオ 『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)はゴリラ研究の第一人者で京都大学総長の山極壽一氏をお迎えする二夜目をお届けします。

「大学はジャングルだ」という言葉の真意や、AIの発達により人間が生物であることを忘れるとどうなるか。ヴァーチャルな世界で脳をつなぎ合わせていく怖さなどについてお伺いする予定です。

前回はゴリラと対面するとなぜ気持ちが伝わるのか、その秘密は目など。40年余り野生のゴリラと付き合ってこられたからこそわかったこと、ゴリラから教えられたことや学んだことなどにつきお伺いしました。山極氏の師匠であるダイアン・フォッシー氏のエピソードもお話いただいております。

音源は以下リンクより来週日曜までradikoにて配信中です。 

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山極氏が上梓された書籍の一部をご紹介いたします。合わせて参照ください。

評判悪い首相の独断

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 新型コロナ対策に対する安倍首相“独断”による臨時休校措置の評判がすこぶる悪い。首相が指示した3月2日から春休みまでの全国小・中・高校の臨時休校措置は「先手、先手でやるべきだ」という思いと首相主導の強いメッセージにこだわって全国一斉の休校要請を強行したものだが、官邸内や文科省内でも反対が強かった上、学校現場や国民生活にも混乱をきたしているからだ。

 安倍首相が周囲の反対を押し切ってまで臨時休校を強行した背景にはWHO(世界保健機構)が新型コロナウイルスによる肺炎の危険性評価で、2月28日に世界全体を「高い」から「非常に高い」へと引き上げ世界的流行を認定したことがあるようだ。このため各国で対策を強化し、イタリアなどでは休校を実施したという。

指導力強調し警告無視
 しかし安倍首相が一斉臨時休校を指示した背景は、文科省や学校関係者とじっくり相談した結果決めたわけでなく首相個人の独断で指示したフシが強い。実際、萩生田文科相や藤原誠文科省事務次官らは、一斉休校にいくつかの懸念を示し翻意を促したという。首相は「懸念はわかった」としながらも4時間後の会合で「最後は政治が全責任をもって判断すべきものと考え、今回の決断を下した」としている。どうやら首相の指導力を強調する強いメッセージにこだわる姿勢が周囲の警告を上回ったようだ。

 当初、コロナウイルスに対し首相の関心は特に強いものと感じられなかった。発生から1週間位はほとんど発言がなく、先頭に立って説明していたのはもっぱら加藤勝信厚生労働相だった。それが問題になり出してから、突然安倍首相が前面に出てきて小・中・高の一斉休校という独断指示に及んだのである。

■当初はコロナに関心薄い?
 それまでコロナ問題が大きくなりつつあったのに、対策は厚労省任せで、国はほとんど関与している様子は見られなかった。安倍首相の関心は“桜の会”や東京高検検事長の定年延長問題、内閣支持率の低下など国会世論対策に集中していたようで、コロナ問題についてはダイヤモンドプリンセス号などが発端になって大騒ぎとなっている時も際立った発言はなかったのである。

■コロナへの後手から焦り?
 それがコロナ問題の広がりが大きくなり死者が出たり、景気にまで影響が出始めてきた2月下旬になり、厚労省だけで手に負える問題でなくなってきたことがわかり官邸や他の省庁も事の重大性に気付き始めただ。こうして2月25日に政府が基本方針をまとめ「イベントの開催の必要性は再検討するように」「全国一律の要請はしない」「学校の臨時休校などの適切な実施を都道府県から実施者に要請する」などを決めた。

■周囲は独断に反対
 ところが2月26日になって、安倍首相が「スポーツ、文化などの大規模イベントは感染リスクがあるので今後2週間は中止、延期または規模縮小を要請する」と発表。さらに2月27日には「全国の小・中・高、特別支援学校について来週3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請する」と1ヵ月の一斉休校を指示した。この指示にあたって菅官房長官に伝えられたのは直前だったし、萩生田文科相、加藤厚労相らとも事前に綿密に調整した形跡はなく、自治体を統轄する総務省には連絡もなかったという。まさに安倍首相が自身のリーダーシップにこだわり独断的に判断したとみられた。

 しかし、この決断は学校現場や保護者などから大きな批判が噴出した。学校は学期末試験や卒業式、終業式、成績の通知など最も忙しい時期にあたるし、突然学校が休みになると共稼ぎ夫婦やシングルマザーなどが子供の面倒をどうするかでも大混乱になるからだ。安倍首相は“保護者の休業補償などは予算の予備費で対策を打つ”“他の様々な課題も政府が責任を持つ”“情報発信は私も含めて適切に対応する”などと後始末の対応に次々と言及したが、いかにも唐突な発表で準備不足の感が否めずその場しのぎの後手後手発言に聞こえてしまったのだ。

 一斉休校が功を奏しコロナ騒ぎが治まれば事なきを得るかもしれないが、二週間経っても治まらずオリンピックにまで影響するようなことになると安倍政権は一挙にピンチに立たされることになろう。
【財界 2020年3月19日】

※本コラムは、3月上旬に入稿しております。

 

参考情報
・「新たな出発本部」発足 東京オリンピック延期で組織委(毎日新聞
 新型コロナウイルスの感染拡大による東京オリンピックパラリンピックの1年程度の延期を受け、大会組織委員会は26日、開催準備を練り直すための「新たな出発 東京2020大会実施本部」を発足 

・チケットは有効…組織委方針、払い戻しOK(読売新聞)
 東京五輪パラリンピックの延期決定を受け、大会組織委員会は、すでに販売したチケットについて、延期された大会で使用できるようにする方針を固めた。不要になった人も不利益を被らないよう、払い戻しなどを検討している。 

 

画像:木造校舎の階段 himawariinさんによる写真ACからの写真

京大総長が説く ゴリラに学べ

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京都大学総長の山極壽一さんは、ゴリラ研究の第一人者にして世界的権威だ。大学の学長といえば多くが法学部、経済学部、文学部、工学部などの出身者に限られているが、山極さんは霊長類・人類学などを専門とし40年間にわたりアフリカでゴリラの研究を続けてきた変わり種の理学博士である。

その山極さんが、私がホストを務めるTBSラジオ嶌信彦 人生百景「志の人たち」』にゲスト出演いただくことになり2月下旬にゴリラ研究からみた人間社会、京都大学論などを聞いた。貴重で危険な研究体験とともに、現代の学問や人類の衰弱、危機などにまで話が及び「ゴリラから人間社会への警告」に耳を傾けるべきだと、熱を込めて説いていたのが印象的だった。放送は3月22日と29日(※)いずれも日曜21:30からを予定している。

■ ゴリラ研究でアフリカに暮らす
ゴリラ研究の基本はフィールドワークにある。このため山極さんは40年にわたりザイール(現:コンゴ)でヒガシローランドゴリラの調査を続けてきた。

初めてアフリカに渡ったのは1978年、26歳の時だった。ゴリラのフィールドワークは、森のことを知り尽くしているトラッカーと呼ばれる現地の案内人に協力してもらいながら広大なジャングルを歩きまわり、ひたすらゴリラを追って接近してゆくのだ。しつこく追跡すると怒って唸り声を上げ襲ってくる。太い腕で打ちのめされたこともあり、特にムシャムカと名付けた42頭のゴリラ集団のリーダーは、突然トラッカーと山極さんに向かって襲い掛かり倒れこんだ2人に腕を振り下ろし、殴りつけると弾丸のように走り去って行った。胸に大きな衝撃と痛みが走り、ショックで死ぬのではないかとさえ思ったそうだ。しかし自分の姿を見せ、ゴリラの行動を真似し食べ、寝て追い続けると次第にその存在を認め、近づくことを許すようになるという。そんな関係になるまで5年位かかるらしい。

■ ゴリラと目を合わせ続け仲良くなる
ゴリラは、他の動物を見ると相手を知ろうと、近づいてきて“覗き込む”ように見る。この“覗き込み”に対し怖がって下を向いたり、そっぽを向くと敵意をもっているとみなされるので、こちらも覗き込み返すことが仲良くなるコツ。しかし最初のうちはゴリラに覗き込まれるとついビビッてしまうが、そこをガマンしてこちらも相手の目をじっと見つめている勇気がいるのだ。これを繰り返していると、敵意がないとみて側に寄ってもこちらの存在を全く気にせず行動するようになるらしい。人間の側に寄ってこちらの存在を全く気にせず行動するようになるらしい。人間の側に犬や猫、鶏などがきても、人はほとんど気にしないが、それと同じような状態になるというのだ。

仲良くなるとゴリラは遊びにくる。タイタスと名付けたゴリラは、雨が降った時、山極さんが樹洞に入って雨宿りしていたら、後から雨を避けようと同じ洞に入ってきて山極さんの膝の上に座り、そのまま寝てしまったこともある。ゴリラとの挨拶は“グフーム”と低い声を出し、コホコホと咳をすれば、“違う”という意思表示になるともいう。

■ 家族を大事にするゴリラ社会と人間
ゴリラ社会は家族を大事にし、互いに奉仕したり、子供と遊ぶ能力を持ち、食べ物を分け合って平和的に食事をするが、サルはヒエラルキーの社会で相手の強弱によって関係を作り、家庭よりも集団の中で生きる。

人間は家族を大事にするが、自分の属する集団にも強いアイデンティティを感じ、食物や仕事の分配・分担を行なう互酬性の社会を作って子育てを行ない、平等意識を持って暮らす社会を形成、どちらかというとサル社会よりゴリラ社会に似ている。ただ人間は物事を考え、考えたことや学んだ知識を頭に蓄え、それらをつなぎ合わせたり構成し直したりしてまた新たな構想、世界を作り出す能力を持つことが大きな特色だという。そこに人間とゴリラや他の動物との違いがあり、そのことによって人間は成長、進化してきたとみる。

■ IT化・AIは人間を衰弱させる
ただ最近はIT化が進み、人工知能が出現。さらにロボットによって働き方も変わってきたことにより、人間はむしろ退化してきたのではないかと山極さんは心配する。かつては頭の中に蓄えていた知識をパソコンなどに置き換え必要な時に取り出すようになってしまったし、人工知能やロボットに物事を考えること、働くことなどを機械に任せるようになってきたからだ。

身近な例ではかつては家族や友人の電話番号などを10人分くらいは覚えていたが、今は携帯に登録しているので覚えていないし、働く手順を考えだしたり、大きな構想力で世界をつかみ取ったりする思考方法は衰えてきていると危惧するのだ。ITや機械に頼りすぎて物事を考える力が衰退し、学んだことをパソコンや人口知能、ロボットなどに入れ込んだり落とし込み、代用させるとなんでもボタン一つ押せば片付くと考えるようになってしまったというのである。すると人間は互いに話し合って新たな方法や解決策を見つける手間を省くようになり、一見、便利そうに見えたが人間はだんだん大きな構想力を持たず、話し合いも少なく、経済優先となり孤独化し、内向的になってゆく。それが現代社会の特徴として出てきているのではないかというのだ。

■ 考える力と構想力が人間の特色
山極さんは「京都大学も現在はジャングルのようで様々な個性的で面白い発想がまだ息づいている。しかし放っておくと京大らしさを無くす心配もあるので、“京大野帳”とか“京大変人講座”“京大チャレンジコンテスト”などいろいろ学生、教授らを刺激する試みを行なっている」と言い、学力・体力だけでなく世界観と五感を生かした“直観力”を養えるような大学にしたいと構想している。

現代は、人間の脳に留めておいた記憶や知識、データベースを外部のスマホなどに収納してしまいボタン一つでアクセスして自分の頭で覚えなくなってしまった。人間の特色は想像力によって自分と世界を作り、自分の中に世界を取り込む能力を持つことだったのに知識はスマホ、パソコンに収納してしまい頭で考えたり覚えたりしなくなっている。パソコンだけに向かっていると表情を作る機会や笑うことも少なくなっている。そしていつもスマホをONにしておかないと友人からも疎外されたようになってしまうと感じているが、過去の経験に学んでIT時代における信頼関係の作り方を学ぶべきだと指摘する。

ITや機械は便利だが、それ自体が物を考えることはしない。人間の体力と知力を活用し新しい世界を構想しつかみとってゆくことが人間の役割であり、京都大学はその環境を整えるために次々と刺激的な講座、研究会などを作っているように見えた。


(※)一夜目は3月22日に放送されました。音源は現在radikoにて日曜日までお聞きいただけます。二夜目は3月29日(日)21:30よりTBSラジオにて放送予定です。 

【Japan In-depth 2020年3月23日】

ソ連から独立直後のウズベキスタンで万雷の拍手で舞台に迎えられた日本人たち

『夕鶴』終演後、ナボイ劇場建設に携わられた日本兵の方々が舞台に登場 万雷の拍手で迎えられる

『夕鶴』終演後、ナボイ劇場建設に携わられた日本兵の方々が舞台に登場 万雷の拍手で迎えられる

スタッフからのお知らせです。
嶌の広島在住の友人が2001(平成13)年にオペラ歌手の故・経種廉彦(いだねやすひこ)氏が寄稿されたウズベキスタンタシケント市のナボイ劇場での『夕鶴』上演に関するコラムをご本人の賢弟とのご縁により送付くださいましたのでご紹介します。

『夕鶴』中央アジア公演は、国際交流基金主催により2001年8月27、28日がナボイ劇場、その後、同年9月2、3日にカザフスタンのアベイオペラハウスにて上演されました。当初、本作を作曲された團伊玖磨氏ご本人が指揮をされる予定でしたが、團氏が同年5月に逝去され現田茂夫氏が指揮をとられることになり、経種氏は「与ひょう」役として出演しています。

また、本公演に合わせ実際にナボイ劇場建設に携わられた日本兵の方々がウズベキスタンを訪問され、この寄稿文のなかにも建設当時のエピソードが盛り込まれています。本公演の模様は同年12月9日に放送されたTBS『報道特集』でも報じられました。

当時のパンフレットがございましたので、合わせて紹介いたします。

『夕鶴』中央アジア公演のパンフレット

『夕鶴』中央アジア公演のパンフレット

ウズベキスタン再来』経種 廉彦

 「荷物室から火が出たため、タシケント空港に緊急着陸します」
 機内放送が流れた。シンガポールをたってから四時間ほどたっている。おそらくインド上空あたり。
 しばらくして着陸体制に入る。タシケント空港が見えてきた。窓の外には冷たく張り詰めた滑走路に、何台もの消防車が待機しているのが見える。まるで映画のようだ。
 ちょっとした緊張感とともに、地面にタイヤが触れた振動が伝わる。同時に機内にはあふれんばかりの拍手。
 機内で3時間ほど待たされた後、やっと飛行機のタラップを降りる。白い息を吐きながら、地面に足をおろしてみる。
 ここがタシケント。1991年1月15日、シンガポール経由でローマに向かうときのことである。これが僕の初めての海外旅行だった。
 あれから10年。僕はまた、タシケント空港でタラップを降りている。8月の終わり、今度は夏のタシケント。とても懐かしい気がした。
 91年秋、ウズベキスタンタジキスタンキルギス共和国をはじめとする中央アジアの国々も、大国ロシアから独立した。つまり、今年は独立10周年記念の年である。僕のタシケント再来も10周年。『縁』を強く感じる。
 今回はオペラの公演にやってきた。團伊玖磨先生の歌劇『夕鶴』である。夕鶴は52年に初演され、すでに7百回以上の公演を重ねている。その『夕鶴』を国際交流基金によって、ウズベキスタンタシケントカザフスタンのアルマトゥイで2回ずつ計4回上演する。
 当初は團先生自ら指揮をなさることになっていた。ところが先生は5月17日、中国蘇州市で他界され、かなわぬこととなってしまった。
 われわれは指揮者、演出家、出演者、スタッフの約30人でウズベキスタンにやってきた。そして地元のスタッフ、オーケストラ、子供のコーラスとともに『夕鶴』を上演する。
 ウズベキスタンでの会場は、国立ナヴォイ・オペラ・バレエ劇場(1400人収容)。この劇場が素晴らしい。正面には4本の大きな柱、ヨーロッパの劇場の風格十分。正面玄関前の広場には、大きな噴水が水を噴き上げている。
 この劇場は第二次世界大戦後、抑留されていた約400人の日本兵捕虜が、2年間の強制労働によって建設し、47年に完成したものである。
 本番の前日、『夕鶴』応援ツアーでいらしている当時の日本人抑留者の方々6人からお話を聞く機会があった。皆さんとても明るい表情で、当時のことを語られた。その中で『タシケントの収容所は強制収容所じゃなく、天国収容所と言われた』『地元の人には負けまい。日本人の力を見せてやる!と思いながら働いた』との言葉が印象に残る。
 当時25歳(※)の永田さんを隊長として、本来は飛行機の修理を専門としている人々が、レンガを焼くところから始め、それを積み上げ、配線をし、大工仕事、彫刻までこなし、造り上げたのがこの劇場だ。捕虜の身だからきっと環境は過酷なものだったことだろう。戦争を知らない僕らの世代からは想像もつかない。
 しかし、その中で彼らは次々と楽しみを見つけていったらしい。現場の板材から将棋のこま、マージャン牌をこしらえ、バイオリンまで作ったという。自分たちで舞台を作り、「国定忠治」など芝居まで上演していたらしい。こうして次々と何かをつくりだす彼らに、現地の兵隊や市民たちも心を開いていったのではないか。「天国収容所」と言わしめたのは彼ら自身の心の豊かさ、生きることを楽しむ好奇心だったのだ。
 そして今回、地元のスタッフは「日本人スタッフはすごい!」と言っている。舞台の立ち上げから、けいこの進行のち密さ、おそらく世界一のスピードと正確さを持っている。その上、どんな状況に陥っても匙(さじ)を投げない。きっと今も昔も日本人の力はミラクルなのだ。
 劇場の北側の壁には、「1945年から46年にかけて極東から強制移送された数百名の日本国民が、このアリシェル・ナヴォイー名称劇場の建設に参加し、その完成に貢献した」と日本語で標記されたプレートが埋め込まれている。
 ウズベキスタンに到着してちょうど一週間。歌劇『夕鶴』ウズベキスタン公演は「つう・・・つうー・・・」という僕の声で幕を閉じた。観客総立ちの大喝采。遠く離れた国の日本人が作った劇場で、日本のオペラを上演できた。最高の公演だった。
 カーテンコールで、舞台に掲げられた團先生の遺影もほほ笑んでいらっしゃるように見えた。

山陰中央新報社『羅針盤』2001年9月30日寄稿
(※)年齢は数え年での掲載となっています 

この当時の劇場プレート 現在はリニューアルされサイズが大きくなっている

この当時の劇場プレート 現在はリニューアルされサイズが大きくなっている

ナボイ劇場建設携わられたに故・若松律衛氏(故・渡辺豊氏撮影)

ナボイ劇場建設携わられたに故・若松律衛氏(故・渡辺豊氏撮影)

なお、 『ナボイ劇場』建設に携わられ、若干24歳で隊長を務められた故・永田行夫氏が本公演をご覧になられたことを帰国直後の2001年9月26日の日経新聞に寄稿されております。ぜひ、以下リンクを参照いただけると幸いです。

合わせて、『ナボイ劇場』建設に関する話はノンフィクション『伝説となった日本兵捕虜』(角川新書)にまとめられております。こちらもお読みいただけると幸いです。

画像:『夕鶴』パンフレット以外は、『ナボイ劇場』建設に携わられ帰国後、実家の写真館を継がれた故・渡辺豊氏撮影

森林火災で国土の半分消失 豪州でコアラなど13億匹が犠牲

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 オーストラリアの森林火災が深刻な状況だ。発生は何と2019年の後半からといい、これまでの消失面積は日本の国土の約半分にあたる1700万ヘクタールに上り、韓国の国土より広い。また消防隊員らが少なくとも30人が死亡、2700棟以上の住宅が焼けたという。さらに世界自然保護基金WWF)によるとコアラやカンガルー、鳥類などを含め約12億50000万匹が犠牲になった。

 南半球のオーストラリアでは暑い時期になると森林火災が発生しやすく、2019年は特に気温が高く降水量も少なかったため、長期にわたる森林火災になったようだ。

 19年12月の平均最高気温は40度を超し、観測史上最も暑く乾燥した1年だったとされる。当然ながらこの森林火災はオーストラリア経済にも深刻な影響を及ぼしており、これまで世界最長の113四半期連続で景気後退を経験してこなかったオーストラリア経済にとって実質GDPの伸びを約0・4ポイント押し下げ、その被害額は個人消費の落ち込み、労働日数の減少、外国人観光客のホテルのキャンセルなどで最大約80億豪ドル(約6000億円)減少させるという。また畜産業では東部の3州で焼死や殺処分された牛肉、羊などの家畜はすでに8万頭に上った。

 この火災は東部のニューサウスウェールズで特に酷く、なおも約70地点で火災が続き、うち25地点は制御不能とされ、今後もほぼ全土で気温が平年を上回るとみられる。ただ2月中旬の大豪雨で何とか鎮火に向ったが今度は洪水が懸念されているという。

 昨年9月以降に発生した森林火災1068件のうち故意の放火や火の不始末など人為的行為は約1割程度で、多くは落雷や地球温暖化による気候変動に起因したものだった。また、有名なユーカリは、今回の火災や規模や激しさからみて延焼した地域では「回復には数十年かかる」という。

 現在、地球の平均気温は1850年代より1度上昇しており、CO2の排出規制を進めても世界の平均気温は今世紀末までに約3度上昇するとされる。世界気象機関は、2019年の世界の平均気温は観測史上2番目に高く「今後重要なことはCO2や温室効果ガスの排出量をネットでゼロにすることだ」と指摘している。

 なお、日本は国土の66%が森林面積(約2500万)となっており国土面積に対する割合は世界で17位と大きい。最近5年間の平均でみると山火事は1日当たり4件、年間1万4000件発生し、その消失面積は約800ヘクタール、損害額は5憶8000万円。日本は減少傾向で推移しているというが、山火事の恐ろしさを知っておくべきだろう。
【財界 2020年3月11日 第513回】


・参考記事
 3月18日付のニューズウィークに以下の記事が出ておりましたので参考までお知らせいたします。  

画像:コアラ acworksさんによる写真ACからの写真

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