憲法を読み返す国民運動を
現行憲法は基本的に素晴しく、特に変える必要を感じない。なかでも「前文」は格調が高く、「日本国民」が戦争を放棄し、国際社会が目ざす恒久平和、人権尊重、貧困からの脱出など崇高な理想と目的の達成に名誉をかけて全力を尽くすとする誓いは、心を打つ。国際社会が大動乱の兆しを見せ始めている現代において、もう一度この心意気を世界に示し日本と世界の原点にすべきではないか。
現行憲法は「アメリカに押しつけられたものだ」とする見解があり、その側面のあることは認める。しかし戦後約70年間の日本の繁栄と安定は、現行憲法を土台とした日本人の努力の結果であるし、日本国民の間に十分定着していると思う。特に第二章のタイトルを「戦争放棄」から「安全保障」に変えることには、異和感をもつ。日本人の多くは、現行憲法が国の基軸になっていたからこそ戦後の頑張りがあり、わずか23年でガレキの山となっていた戦禍から世界第二位の経済大国へ再生できたと感じていると思う。
むろん科学技術の発達や複雑化している国際環境などに照らし合わせ、細かな部分で現行憲法にそぐわない部分があることは認める。また国政の説明責任や在外国民の保護、環境保全の責務、知的財産権への配慮など新たな重要課題を憲法につけ加えることは考慮してもよいと思う。ただその場合も、憲法改正手続きは現行通りとしておいた方が良いと考える。憲法改正を行う場合は、国会と国民に十分に説明を行い、理が通るものと判断されるなら改正できるはずである。ハードルを下げて改正を容易にするやり方は後に禍根を残すのではないか。
現在、憲法改正論議が高まっているとされるが、私達国民は、まずもう一度憲法を読み返す国民運動をおこしてみてはどうだろうか。【自由国民社『現代用語の基礎知識』2014年版】
本コラムは11月14日に発売された「現代用語の基礎知識2014」の特集 日本国憲法を考えるために「憲法のこと、どう考えてますか?」の識者48人アンケートに寄せたものです。いくつか設問がある中から「現行憲法に関する率直な感想をお寄せ下さい。」に回答しております。