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【トヨタ、水素カー特許公開のワケ】~オープン化こそ最強の販売戦略~

かつてトヨタ自動車は”販売のトヨタ”と言われた。”技術の日産”、”クリエイティブで面白い車を作るホンダ”という呼び名に比べると、トヨタは車の売り方はうまいが車自体はあまり面白味がないと陰口を言われることが多かった。トヨタのトップ達もそのことを気にしていたらしく、いずれ名実共に日本一、世界一の車を作ってみせるとひそかに炎を燃やしていたという。

そのトヨタが一挙に名をあげたのが1990年代後半に世に出したハイブリッド車だ。ガソリンエンジンと電気を組み合わせた新技術でリッターあたり走行距離はガソリン車の二倍近くに伸び、一躍”環境にやさしい車”と名をあげた。ハリウッドの環境派、進歩的スターたちが、かつてのスターのシンボル車だった尾ひれのせり上がった大型車に乗るのはいまや無神経さの現われだと言い出したこともあって、一時ハイブリッドカーは、トヨタのシンボルともなった。ただハイブリッドはCO2の排出量は大幅に減らしたものの、排ガスをゼロにしたわけではなかった。そのため、ハイブリッドは無公害車への”つなぎ”でしかないとも言われた。

そのトヨタが先日、CO2を全く出さない燃料電池車・水素カーを売り出すとともに、その特許約5680件を無償で解放すると発表して世間をアッと言わせた。特にあのケチで有名なトヨタが、苦労して開発した特許を”無償”で世界に公開するというので驚かせたのだ。特許は文字通り独自の発明、開発でありその特許に基づいて商品を作り独占権でビジネスなどを拡大するキーコンセプトとみられてきた。特許数を数多く持つ企業こそが開発力があり、将来性のある伸びる企業とみられ、企業価値も上昇すると考えられていた。それだけにその特許に対する考え方をガラリと変えたことが衝撃的だったのである。
 
しかし、この流れはすでに主流になりつつあったともいえる。ノーベル賞を得た山中伸弥教授はiPS細胞を世界の研究者に提供すると言っていたし、ITの世界では”オープン化”は当たり前になりつつある。むしろオープン化することで新しいアイディア、商品が次々と生まれ産業が拡大しているのである。トヨタという老舗で、製造業にも、オープン化といった考えに踏み切ったことに世間は驚いたのである。しかしトヨタだけが水素カーに走ったとしても、そのインフラも車自体も爆発的に伸びることはないと読んだのかもしれない。無償化の件数に一瞬驚いたが政府を巻き込んだトヨタ流のしたたかな”販売”戦略だった?ただ、カギは”儲ける”ではなく世のため人のための”公益”にあるとみるべきだろう。
【Japan In-depth 2015年1月10日掲載】

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