時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

時には辛口の助言も 

 アメリカは時代を引っ張れなくなっただけでなく、遅れ始めたのだろうか。例えば大々的に報じられたオバマ大統領とキューバラウル・カストロ議長の握手だ。両国の国交断絶から約50年ぶりの首脳会談のニュースに興奮した人々は少なかったのではないか。
 レーガン元大統領とフィデル・カストロ前議長のツーショットとか、冷戦崩壊に合わせた時期(90年)なら東欧とキューバの対比もあって世界は湧いただろう。そればかりかアメリカの中南米諸国への影響力、グリップも確実に強まっていたに違いない。しかし今になっては歴史の残滓としか見えない。
 もうひとつは中国のアジアインフラ銀行(AIIB)の設立に対する対応だ。中国がアジア太平洋の覇権を目指して虎視眈々と南シナ海尖閣諸島に揺さぶりをかけたり、アジアの港、鉄道網建設を支援したことはもう数年に及ぶ話である。
 しかし今回のAIIB設立は、戦後の経済・金融体制として築いてきた世界全体の国際金融秩序に風穴をあける壮大な挑戦と見える。戦後すぐに西側諸国はIMF国際通貨基金)・世界銀行を軸とするブレトンウッズ協定を結び、世界のインフラを整え国際金融秩序を守ってきたのがIMF・世銀体制だった。中国もまた一員となり恩恵を受けてきたのである。
 AIIBが本格的に登場すれば”二頭”体制となり、国際金融秩序の不安定化が一層強まる懸念もあろう。しかし、AIIB設立の動きに対しアメリカは欧州主要国や兄弟同盟国であるカナダ、オーストラリアの参加表明に対しても黙認した感すらある。新銀行の融資基準やプロジェクト融資の優先順位はどこが決めるのか。AIIBに40~50%の出資の準備があるという中国はどこまで権限をふるうのか、融資後のプロジェクトの透明性や公開性はどのように担保されるのか――本来ならアメリカが本気になって世界金融秩序の”二頭体制”に警告を発するべきだったろう。
 インフラ融資では多くの利益は見込めない。AIIBの成否は世界の民間銀行が信用して善意の資金をプロジェクトに提供するかどうかだろう。資金だけ集めて返却できない事態となれば、リーマンショックの二の舞となりうる。
 3つ目はイスラム国やロシアなどの動きだ。力による国境変更の抑止にこれまでのところ西側諸国は必ずしも効果をあげていない。イスラム国にミサイルを数千発も撃ち込んでもイスラムテロは世界に拡散し善良な人達を脅かせている。遂に日本人も被害に遭い、海外で働く人は不安を抱えている。
 一方でロシアもウクライナの領土に依然執着している。最近はクリミア半島のロシア編入に向けて「核の準備をしていた」(プーチン大統領)とまで公言した。大国・ロシアの国際ルールを無視した民族主義的威圧は、多くの国が抱える民族問題に新たな火種をまき散らしかねない。
 20世紀は資本主義と自由主義の発展の時代であり、この原理と価値観に基づいて様々な国際的取り決めが作られてきた。対抗軸として旧ソ連や中国などの社会主義圏が力をもっていたが、冷戦の終結と社会主義国の崩壊、変容で決着はついたかに見えた。しかし最近のグローバル化、IT化社会、金融優位の経済はあきらかに20世紀型の政治、経済、社会秩序を変容させてきている。
 20世紀を牛耳ってきたアメリカの求心力は衰弱し世界を束ねてゆく気概を失ったように見える。そんな中、安倍首相は4月末にアメリカ議会の上下両院で議会演説を行なう。そこでは、やはり無難なアメリカとの協調を表明するのだろうか。ただ、時として辛口のアドバイスをすることも友人の大きな役割であることを任じてもいいのではないか。

【電気新聞 2015年4月21日】

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