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地に落ちた東京五輪評判

 2020年・東京オリンピックのイメージが日毎に低落している。新国立競技場建設が白紙に戻っただけでなく、オリンピックのエンブレム(紋章)デザインも盗作疑惑で、再公募することになった。「オモテナシ」のキーワードでお祭り騒ぎとなった東京五輪の招致が、いまや国際スキャンダルにもなり〝泥まみれ〟状態である。
 そもそもの背景には、久しぶりのオリンピック招致成功というビッグな出来事にオリンピックに関係した政治家や業界、スポーツ関係者らが有頂天になりすぎたことだろう。政治家は大きな得点を稼いだとほくそ笑み、建設業界などはオリンピック施設の建設がタナからボタもちに思えたのだろう。スポーツ業界もオリンピック強化に向けた予算が入ってくるとニンマリだったのではないか。しかし、国民はそれほど熱狂しておらず、案外冷やかだった。また東京中心の工事で一極集中が進み、地方は置いてきぼりにされる。オリンピック競技はテレビでみられるし、はたして日本選手がどこまで活躍しメダルをとれるのか、といった気持ちもあったことだろう。
 人々がびっくりしたのは、国立競技場新設の予算が3000億円近くにのぼると聞いた時から始まった。過去4度のオリンピックの競技場予算は北京も含めて約2000億円、平均すれば約500億円と聞けば、なおさらだ。東日本大震災の復興は遅々として進まないし、最近は全国のインフラの劣化が目につき、災害が急増している。社会保障関係でも支援が減り、逆に負担はふえるばかりのニュースが続く。そんな時に競技場新設だけで2500億円、その他の競技場施設や開会式費用などを含めると、4000億円、5000億円はかかりそうだと聞けば、誰もが「そんなにカネをかける価値があるのか」と思うのは当然だった。
 しかし建物ばかりにカネがうごめいては、さすがに気が引けたのか、その後は「レガシー(五輪遺産)、レガシー」という言葉がはやり、世界一の競技場をつくる弁明に使われた。
 だが、取りこわされてしまった旧国立競技場、秩父宮ラグビー場、関西の花園、武道館などは歴史が刻まれたレガシーとして、いまでも憧れの競技場になっているのではないか。トイレ、座席、通路などで古く汚くなっている場所は、きれいにリフォームすればいいだけだ。ゴルフの聖地・セントアンドリュースも決してきれいではなく、むしろ荒地のような印象すらもつが、長い歴史と名勝負の思い出がレガシーの風格をかもし出しているのだ。
 ロス五輪以来の商業主義ファーストの五輪と決別する東京五輪を考えたらどうだろう。21世紀の新しい五輪スタイルと作り方は東京から始まったといわれたいものだ。
【財界2015年10月6日号 第408回】

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