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興奮のなかった総選挙 安倍内閣への希望と課題

  興奮がなく血も騒ぐことのない総選挙だった。投票率は5932%で戦後最低。前回(2009年)より約10ポイント落ちた。

 

 要するに自分の選挙区に選びたい人物、党がなく熱望する首相も見当たらなかったのだ。東京都知事選はもっとひどかった。対抗馬を出さなかった民主、自民の責任は大きい。話題の維新は54議席だったが、中味をみると小選挙区14、比例が40でそのうち復活当選が何と32議席。自民は294議席獲得の圧勝だったが、得票率は43%と少なく、なのに獲得議席は全議席の79%を占めたという。おかしな選挙制度である。国民の思いと違った結果が出ているのだからシラケて当然。血が騒がないわけだ。

 

 参議院では野党が16議席上回り〝ねじれ〟が続いているので、次の6月参院選挙が自公にとっては正念場だろう。もっともそれまでに〝風〟を読んで党籍をクラ替えしたり、再編を待つ輩が出るかもしれない。

 

 オヤッと思うのは、70歳以上の高齢者当選が10人ほどだったことだ。ちなみに最高齢は80歳の石原慎太郎氏。長老と呼ばれた森喜朗古賀誠氏ら多くは引退したのでかつてのような長老支配はなくなるものの、中堅・若手に志や知略を持ちピリッとした人物があまり見当たらないので、まだ国会運営や政策、外交はあまり期待できまい。

 

 日本の選挙結果をみて、メディアでは右傾化懸念があがっている。しかし冷戦前の自社55年体制はあり得ないし、今回の12党の政策をみていると、右とか左とかの思想傾向、軸で分けられるような分布にはなっていない。「親米だが中国も大事」だし、領土問題で譲ってもいいという党もない。あえて言えば憲法改正や集団自衛権日教組対策などについて安倍氏が熱心にしゃべるので〝右傾化〟とみられているのだろうが、戦闘行為に賛成する政治家はまずいないだろう。

 

 いま国民が望んでいるのはやはり景気の回復と現在と将来の生活の安全、安心の確保だ。それにはまず遅々として進まない震災復興に政府が本腰を入れ、具体的に動かすことだ。予算をつけても議論ばかりではカネは動かないし、建設のツチ音は響かない。安倍内閣が復興景気を作り出せば消費税も受け入れられよう。国民の第一の関心を後回しにして教育や憲法改正に走ればまた元安倍内閣の二の舞になる。

 

 問題はアジアにおける日本の立ち位置をはっきりさせ、自信と誇りをもつことだ。まず訪米してアメリカの信頼を取り戻す努力をしてから東南アジアを歴訪して中国問題に各国がどんな姿勢でのぞんでいるか、本音とタテマエを十分に知り尽くす。そのうえで世界のGDP3位(GNPでは依然2位)の立ち居振る舞いを考えて中国、韓国と交流することだろう。両国とも政権が本格的に動き出すのは春以降なのだから、それまでに安全保障、経済、文化などの戦略を練りあげるべきだ。成長戦略の具体化と原発事故の総括、世界最高の安全基準も早急に国際社会に示す義務も忘れてはならない。【財界 2013年1月29日号 第343回】 

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