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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

「岡野裕基金 通信文化フォーラム」 基調講演(詳細)

20131012日に行なわれた公益財団法人通信文化協会様主催「岡野裕基金 通信文化フォーラム」での講演内容が、広報誌「通信文化」23号(2014年2月5日発行)掲載されましたので、ご紹介いたします。

岡野裕基金 通信文化フォーラム
第一部 基調講演
日本の覚悟 ~大変動の世界~  ジャーナリスト 嶌 信彦

 

20世紀最初の年頭の夢

  最初に、1901年(明治34年)元旦から2日にかけて、つまり20世紀が始まったときに、当時の報知新聞、今のスポーツ報知ではなくて、日刊紙の『報知新聞』が、約20項目にわたって、この100年間で何が起こるかという予測を書いているのです。この予測はなかなか面白くて、全部は挙げられないけれども、例えば無線電信電話というものがそのうちに起こるだろう。そのときには東京・ニューヨークが自由に電話をかけることができるではないか。これはもう実現しているわけですね。

  それから7日間世界一周。今は7日間どころではなくて、1日でもできるというような時代になっているわけですね。それから3番目に、「空中軍艦・空中砲台」という予測が出ています。爆撃機やクルージング・ミサイルのようなものを考えると、これも実現しているのかなという感じがしますし、それから「暑寒知らず」になるだろうと、これはエアコンです。エアコンによって、われわれは、夏も冬も快適に過ごせるということになる。 

 それから「人声十里に達す」。人の声が十里に達するという予測も出ています。これは電話や携帯電話のようなことだろうと思います。それから写真電話。これは電話口に立てば、相手の顔が見えて話せる。それから「買物便法」というものもあります。要するに買い物が非常にしやすくなる。これは言ってみれば、今のネット販売や通信販売と考えればいいと思いますけれども、買物便法という言葉で、自宅にいながら遠くの品物を注文して買うことができるというようなことを予測しているのですね。 

 このようなことを20数項目にわたって予測しているわけです。僕が数えたところ、大体、現代で実現しているものが14項目です。当時の人たちの構想力といいますか、夢を考える力といいますか、なかなか豊かだった。そして、そのような構想力があったから、企業なり政府なりがその構想を実現するためにいろいろなことを考えていって、それが今日になってきているのかなという感じがいたします。

 

 

世界は大動乱の時代 

  そのような前提の中で、この時代に問われているものは、一体、21世紀をどのような時代にするのかという構想力を問われているのではないかと思うわけです。ここ10年、20年、日本は「失われた10年」「失われた20年」ということが言われていて、そして、その展望がまだ見えていないわけですね。安倍政権になってから、金融の異次元緩和という形で、金融はある程度緩和した。それから、財政の機動的編成というような形で、財政で刺激するというようなことがあって、景気は多少、前に比べればよくなってきた。通貨は、1ドル80円前後だったものが100円台まで戻ったり、あるいは株価も、7000円台だったものが145千円まで戻ってきているけれども、そこで止まってしまっているわけですね。そのような意味で言うと、「第3の矢」と言われている、この21世紀にどのようなイノベーションを起こしたらいいかということが、問われているのではないのかと思います。 

 一方で世界は、めちゃくちゃに大動乱の時代になっているのですね。経済で言えば、2008年にリーマンショックがあって、それが一応、片がついたかなと思ったのだけれども、実際は片がついていなくて、それを引きずってリーマンショックを何とか抑えようとして、各国が相当なお金をつぎ込んだのですね。結局、そのことがユーロ危機を引き起こしてしまった。現在の何となく世界的な不況というのは、結局リーマンショックから依然続いていると考えていいと思います。
 政治になるともっと大変です。例えば、チュニジアから始まった中東の革命は、エジプトに行き、リビアに行き、イエメンに行き、そして今、シリアで膠着状態になっているわけです。それから、ヨーロッパの政権は、去年1年間でほとんど全部替わりました。それはユーロ危機が来て、ガタガタになってしまったわけですね。「PIGS」という言葉がありますけれども、これは豚という意味ですが、ユーロ圏の中で最も財政が悪い。PポルトガルIはイタリア、Gはギリシャ、Sがスペインと、ここは全部政権が替わりました。これだけではなくて、去年はサルコジからオランドにフランスの大統領も替わりました。それからロシアのプーチンが替わったのも去年の初めです。その他、個別の中小国もほとんど政権が替わったというのがヨーロッパの状況です。 

 アジアを見てみると、習近平政権が去年の4月にこれから10年間やるということで、中国の政権も替わったわけです。それから北朝鮮金正恩、韓国の大統領も女性の大統領になるという形で替わるわけです。日本の政権も、毎年毎年替わっていますけれども、民主党政権から自民党政権に去年の11月に替わった。それからオーストラリアも替わりましたし、アメリカはオバマが再選になりましたけれども、閣僚クラスはほとんど全員入れ替えですね。いかに世界が大きな動乱を生んでいるかということが、非常によく分かるのではないかと思います。

 

 

 

富裕と貧困の二極化

  もう1つ世界を規定するものとして、社会というものがあるわけですね。今、社会はどこも二極化しています。国で言えば、富裕国と貧困国に二極化しているわけです。資源を持っているところは富裕国になる。また、1国の中でも富裕層と貧困層に分かれてきて、あちらこちらでデモが起こっている。日本も、非正規社員2千万人を超えたわけですが、2千万人ということは、働いている人の3分の1を超えます。ヨーロッパやアメリカ、中国、ロシアでは常にいろいろな問題を掲げながら混乱が起きているということは、背景に二極化があるということが非常に大きいわけです。 

 それから自然現象ですね。これは日本を見ても分かりますけれども、自然現象が荒れているということは、ヨーロッパもアメリカも中国もどこも同じです。中国はどんどん砂漠化が進み、工場の排煙なども重なってPM2・5などというものがどんどん飛んでくるというような感じになっていますね。まさに世界は、大動乱時代を迎えているのです。 

 そして日本人は、失われた20年があって、それからなかなか立ち直れないために、若い人はだんだん内向きになる。あるいは海外に出ていきたくない、何となく誇りを失ってしまう。そのような意味で言うと、自信喪失の傾向があるのかと思います。この失われた20年と3.11というものは、日本人の心情を相当変えてきたのかなという感じがいたします。 

 そのような中で世界も日本も、この21世紀をどのように生き抜いたらいいかということを、今考えているさなかだろうと思うのですね。19世紀はどちらかというと封建時代が色濃く残っていた時代で、20世紀はその封建時代を近代国家に変えて、そして経済では自由主義、市場主義のようなものがだんだん入ってきたわけです。しかし、90年代の後半ぐらいからネットの社会がやってくる。そうするとインターネットで一挙にグローバル化してくる。それから90年に冷戦が崩壊しました。ソ連、中国、インドも社会主義的政策を取っていましたね。さらに言えば、東欧、中南米やアジアにも社会主義国がありました。このような社会主義国の全体の人数が、大体30億ぐらいありました。先進国の人数は、10億人ぐらいですね。 

 80年代は、日本が圧倒的に強かったわけです。僕は81年から約4年間、アメリカでワシントンの特派員をやっていましたけれども、アメリカでもヨーロッパでも、まさに日本の産業が一人天下だったわけです。それはなぜかというと、ヨーロッパやアメリカは、すでに豊かな近代国家を作って、近代的なテレビなどが家にそろっていた。従って、あくせく働くという意欲もなかったわけです。大体7時間から8時間働けば、家へ帰って、あとは何となくのんびり過ごすという、そのような生活習慣になっていた。そこへ日本人がめちゃくちゃに働いて、8時間労働と言われていたけれども、サービス残業なども含めればみんな145時間位働いて、しかも日本人は器用で、繊細で、作るものもいいですから、圧倒的に日本のものが勝つわけです。

 

 

ネット社会とグローバル化

  そして、90年にバブルが崩壊するわけです。バブルが崩壊したときには、バブルは崩壊したけれども、「多分すぐ元に戻るだろう」と当時の日本人はみんな考えていたのですね。しかし、3年たっても5年たっても戻らないので、これはいつもとは違う不況だなということを感じ始めた。しかしながら企業そのものが大きな転換をしなかったから、あっという間に失われた10年になってしまうわけです。 

 そして、90年代の後半から、ネット社会がやってくるわけですね。同時にグローバル化社会がやってくるわけです。かつては日本が独り勝ちしていたけれども、そこに韓国、あるいは中国、あるいは東欧諸国という新興国が、汎用品などは日本と同じようなものをもっと安い価格で作るから、日本が「いつでも元に戻れるよ」と思っていたけれども、戻れなくなってしまった。これが失われた十年の大きな特色だろうと思います。その後も、次にいい戦略が出せないまま、失われた二十年になってしまったということが実態なのかなと思います。 

 ここに1つの統計があります。全世界における企業の株式の時価総額ランキング。1990年はランキングベスト20のうち、14社が日本です。驚くべき数字です。 

 これが2007年になると、日本は18位にトヨタ自動車1社入っているだけです。2010年のトップ10はどうか。ほんの34年前ですね。1位がペトロ・チャイナです。中国の石油関係ですね。2位がエクソン・モービル、アメリカですね。3位がマイクロソフト、日本は1つも入っておりません。今、ベスト20に入っている日本の会社はないでしょうね。それほど、この10年間、20年間のスピードと変化が、非常に速かったということなのだろうと思います。 

 BRICsという言葉がありますね。ブラジル、ロシア、インド、チャイナをBRICsと呼んで、新興国と呼んでいますけれども、中国は2010年に日本を抜いて、世界第2位のGDP(国内総生産)大国になりました。これはゴールドマン・サックスの予測ですけれども、このまま行くと、インドは2027年に日本を抜くだろう。ブラジルは2034年に、そして、ロシアは、2037年に日本を抜くだろう。2040年までに日本は、いわば普通の国になってしまうということなのではないかと思いますね。今、世界は、そのような大きな動乱時代にある。 

 

成長するアジア・太平洋地域

  そのような意味で言うと、これから成長するところはどこかというと、アジア・太平洋なわけです。要するに成長するためにはどうしたらいいかというと、中間層がいるということが大事なのですね。貧困層と富裕層の二極化ではなくて、中間層か、中流層が大きければ、物がたくさん売れるわけです。日本は戦争直後は1億総貧乏の時代でした。それが1960年前後に、「1億総中流」という言葉がはやりだしたのですね。1945年の戦争が終わったときは、隣を見てもどこを見ても、みんな貧乏な人たちばかりだった。みんな同じだから、みんな我慢して、それで一生懸命頑張ろうとしていたのですね。50年代までは、「三種の神器」といって、電気冷蔵庫と洗濯機と白黒テレビ、そのような新しいものをローンか何かで買って、生活をよくしたい。それら三種の神器を取りそろえると、次は「3C」といわれて、カラーテレビ、クーラー、それから、車ですね。これを買いたいとなったのが、1960年代後半からです。そのような欲望を実らせるために、日本はずっと頑張ってきたわけです。それがまた日本の経済を強くしてきたわけです。 

 だけれども日本も、1980年代の半ばくらいには、ほとんどの家庭で家を持ち、車を持ち、電気冷蔵庫を持ち、エアコンを持ち、ある意味で言うと満ち足りた生活になってきてしまった。今、買いたいものは何かといっても、ほとんど見当たらないわけですね。そうなってくると働き方も、だんだん前のように一生懸命働かなくなってくる。ところが韓国、中国、東欧のような国々は、欲望がまだあるから、私も車を持ちたい、電気冷蔵庫を持ちたい、何々を持ちたいというものが出てきて、一生懸命働き、安くていい製品を作ってしまうために、日本がなかなか勝てない。そのような状況に、今、陥っているのではないかと思います。 

 また、21世紀というときには、そのような問題と同時に、世界全体がグローバル化IT化の時代へ入ってしまったわけです。そこがまた違った側面を見せているわけです。グローバル化というのは、一番安いところで商品を作って、そして、その技術をうまく移転して、そこから輸出することが一番コストが安くできるわけですね。 

 例えばヨーロッパには、オランダの有名な会社が、日本の花王のような会社がありましたけれども、みんなそれぞれ国によって通貨も違うし、税関もあります。そうすると、ヨーロッパで売ろうと思うと、13か所ぐらいに工場を持っていたわけです。今、ヨーロッパは、一種のヨーロッパ合衆国になっているわけでしょう。ですから物の移動も自由、人の移動も自由、お金もユーロという単一通貨になると、一番物流で都合のいいところに2か所だけ工場を造れば、そこからバーッと運んでしまえば、いちいち税関の検査も受けなくてもいいし、お金をわざわざ替えなくてもいいというようになってくるわけです。 

 そのようにして、21世紀というのは、ITグローバル化によって、資本主義の在り方も全然変わってきたわけです。70年代、80年代、90年代の半ばぐらいまでは、一生懸命いいものを作って、そして、それを売れば勝てた世界だったものが、今やIT化、グローバル化になってくると、最も安いところに技術を持っていって、本当の技術は隠しておくけれども、汎用品などはそこで作ったほうがコストが安くなるという形で、90年代に中国が社会主義からもう少し資本主義的な方向に移ったときには、みんな中国に投資したわけですね。ヨーロッパもアメリカも、そこへ投資したわけです。そのうちに中国は、その技術を身につけてテレビを作り、電気洗濯機を作り、携帯を作りということをやってきて、それを輸出し始めたわけですね。今、世界一の輸出国は中国です。携帯の電話数も、テレビの電話数も、圧倒的に中国のほうが多く作っているわけです。そして、同時に韓国も、中国へ輸出し、そこで物を作って、日本よりも安い製品をどんどん作るから、サムスンLG、現代などが、日本よりも競争力が強くなってしまった。このように、90年代末ぐらいからはIT化、グローバル化という時代に入って、資本主義の在り方そのものを変えてきてしまったということが、非常に大きいと思います。 

 また、90年代後半のIT化、グローバル化時代になってくると、物よりも通貨のほうが多くなってしまったのですね。GDPで言うと、今、その50倍、60倍の通貨が世界中をうろうろ回っているわけです。そうすると、物を買わないでも、通貨だけでもうけようとする人が出てくるわけですね。それが、為替に投資したり、株に投資したり、あるいは商品に投資したり、石油に投資したり、資源に投資したりする。その投資先によっては、値段がどんどん動いてしまって、世界は混乱をしている。 

 

 

SDIによるアメリカの立ち直り

  そのような中で、一体日本はどうするかということが、今、問われているわけです。安倍さんは、異次元の金融緩和、あるいは財政の機動的出動、それから財政の赤字をなくすということと同時に、第3の経済戦略ということを言っているわけです。問題はこの第3の経済戦略が本当にうまくいくかどうかということなのです。今、安倍政権が言っていることは特区を作る、規制緩和をするというようなことが中心だけれども、一体、何を作ってやるのかということが大事なわけです。 

 よく歴史を振り返ってみると、実はアメリカも、失われた20年、30年の時期があったわけです。それは、1960年代末から90年代ぐらいまでですね。アメリカは、ベトナム戦争で社会も混乱し、腐敗し、「一生懸命働くなんて、ばかくさいや」という形で、社会は混乱するわけです。僕はちょうど1980年ぐらいからアメリカにいましたけれども、あの当時のアメリカは、本当にひどい状況でした。 

 しかし、アメリカは、90年代の後半からバーッと生き延びてくるわけです。それは何かというと、SDI構想といって、冷戦時代にソ連から飛んできたミサイルを宇宙空間で撃ち落とすという技術を開発するために、アメリカは世界の技術を全部集めるのですね。そして、それは外へ流してはいけないということで、アメリカが独り占めするわけです。ところが90年に冷戦が終わって、ソ連という敵がいなくなるわけですね。問題はそのSDIで集めた技術を、シリコンバレーやバイオ技術、資源の技術などに開放するわけです。それでアメリカは、1980年代から若い人たちがいろいろな新しい技術を作るわけですね。それがアップルであり、マイクロソフトであり、グーグルであり、フェイスブックであり、ヤフーであり、そのような新しい産業が出てくるわけです。 

 それから資源もそうですね。最近はシェールガスなども出てきています。バイオ技術も、アメリカの西海岸やボストン、ワシントンあたりにバイオ技術の会社がバーッと出てきた。つまり、今までになかった新しい産業と言ってもいいと思いますけれども、そのような構想力を持って、まさに今、世界を席巻しているのはアップルであり、マイクロソフトであり、グーグルでありという感じになるし、バイオの世界もアメリカの会社が席巻しているわけです。それはやはりアメリカの構想力ですね。 

 しかし、実際にアップルやマイクロソフトなどで作っているものの部品は、圧倒的に日本製なのです。それが日本の強さだったと思うのです。今、日本は、部品や細かい技術などでは圧倒的に世界一です。だけれども、それを使ってどのようなものを作ったら、どのような人々が欲しがる商品を作ったらいいかという、そのような構想力に少し欠けているのではないかという感じがしますね。これからの世界では、そのような構想力をどうするかということが、僕は大事なのではないかと思います。

 

 

EUの成立と経済不安

ーロッパも、1960年代から90年代ぐらいまではひどかったですね。だけれども、ヨーロッパも、何とか立ち直らなければいけないということで、一生懸命考えるわけです。その考えたものが、制度改革で、ヨーロッパは一つの国になろう、ヨーロッパ合衆国になろうということです。ですから税関もなくし、為替の手数料なども取らず、1つの通貨にしよう。人の移動も自由にしようというようになったわけです。そのような意味で言うと、ヨーロッパ全体の制度を大きく変えたのです。そして通貨と人と物の移動に関わるコストを、ガクンと安くした。その結果、ヨーロッパも力を持ってきたということなのだろうと思います。 

 しかし、そのEUにヨーロッパの国々を入れるときに、財政などにもいろいろな基準があったのだけれども、マーケットが広がるということで多くの国を入れ、審査が甘かったわけです。その甘かった国々が、先ほど言ったPIGSといわれる国々で、いかにもラテン民族らしい感じで、「俺のとこはちゃんとできてるよ」と言ってユーロ圏に入るのだけれども、実態はあまりよくないということがばれて、それを今度は、投機筋、先ほど言った物流の50倍も60倍ものお金が、あるときはイタリアを、あるときはギリシャを、あるときはスペインを襲うという感じで、あそこの経済がおかしくなってしまったというのが今の実情なのだろうと思います。そのような経済をどのように回復していくかということが、今、ヨーロッパでは大きなテーマになっているわけですね。 

 

 中間層はアジア全体で8.8億人
 そのような状況の中に日本がいるのだということになりますが、日本の立ち位置は、非常に有利な立ち位置にあります。なぜならば、先ほども言いましたように、中間層がいるところで商売ができることが一番いいのです。中間層というのは、今のシンクタンクの予想で言うと、大体5千ドルから3.5万ドルぐらいの可処分所得を持っている人々のことを中間層と呼んでいます。日本円で50万円から350万円ですね。それぐらい持っているところの人たちを、中間層と呼んでいます。7千ドルぐらい持つと、日本の第1次三種の神器と言われた、電気冷蔵庫、テレビなどをローンで買うようなことになってくる。それが123千ドルになってくると、自動車をローンで買うようになってくると言われています。今、この中間層がアジア全体で約8.8億人いると言われています。そのうち約4億人が中国人で、ですから中国に物を売りたいというようになってくるのですね。 

 これは、ヨーロッパもアメリカも日本もみんな同じです。ですからアジア・太平洋をひとくくりにして、ここでヘゲモニーを握れば自分たちの輸出先ができるということで、APECTPPの会合が今、非常に注目されているわけです。先般のAPECTPPの会合にアメリカは欠席して、何となくイニシアチブを取れなかった。その間に中国がバーッと台頭して、結構いろいろな国々をつかむようなことをしてしまったのです。オバマ大統領は、その23日後に、自分が国内の問題にかまけてTPPAPECに欠席したのは間違いだったといって、自己反省していますね。ある意味で言うと、アジア・太平洋はこれからの中心なのです。ヨーロッパも、ロシアも、アジア・太平洋経済圏に入ろうと思って、いろいろなところと協定を結びたいと言っています。 

 特にロシアは、シベリアにたくさん資源があって、開発が非常にできるのですね。しかし、シベリアに住みたいと思う人がいないのです。シベリアは、地図を見ると分かりますけれども、ロシアの半分より少し右あたりからずっとシベリアですから、大変広大な土地を持っているわけです。そこに資源や非鉄金属など、いろいろなものがたくさんあるわけです。しかしながら、寒いから、あそこで一生懸命働くという人はいないわけですね。少し豊かになると、みんな西のモスクワの方に行ってしまうわけです。シベリアをどのように開発したらいいかということは、プーチンにとっては一番頭の痛い問題なのです。そのような意味で言うと、日本の技術に入ってもらって、日本人が来てくれるのが一番いいと思っているわけです。日本人に来てほしいということで、「北方四島のことを考えてもいいよ」などといろいろな餌を投げてくるわけですね。 

 

 

今、日本は第三の国難 

まさにアジア・太平洋の中間層、アジア・太平洋の果実を、アメリカが取るか、中国が取るか、ヨーロッパが取るか、ロシアが取るか、その戦いが今、始まっているのです。それがこの間のTPPAPECだったのですね。しかし、アメリカが出なかったことによって、結局うまくまとまらなかったですね。 

 その中で日本はどのような位置を占めているかというと、みんなどの国も、日本が入ってもらわなければ困ると思っているのです。アジア・太平洋と言ったときに、一番技術があり、一番GDPが高くて、そして、ある種、一番優秀な人々もいるところは日本なわけですね。ですからTPPに日本に「入れ、入れ」と圧力をかけているように見えますけれども、日本に入ってもらわなければ、TPPなどというものは、本当は成立しないのですね。中国は、日・中・韓、東南アジア、それにオーストラリア、ニュージーランド、インドぐらいまでを入れた、RCEPという、16か国で新しい自由協定を2015年までに作ろうとしています。ここも、日本が入らないと困ってしまうのです。 

 ですから日本がイニシアチブを取れるわけで、「ここは俺が仕切るんだ」ぐらいの、いわば構想力といいますか、リーダーシップ、そのようなものを日本は持つべき時代なのではないかと思います。 

 今、日本は「第三の国難」と言われています。ここ200年ぐらいを考えると、第一の国難は江戸末期、明治維新の時です。第二の国難は、戦争で敗れた1945年です。今メディアなどで、それに匹敵する第三の国難だとよく言われるわけです。第一の国難、第二の国難は歴史的に見るとどのようなことだったのか。 

 第一の国難というのは、265年間続いた江戸幕府が崩壊しようとしたわけですね。そうすると、どのようなことが起きるかというと、「次は自分が政権を担ってやろう」という、長州、土佐、薩摩などですね。そのような人たちがわーっと徳川幕府を引きずり下ろして、自分が日本の政権を握ってやろうという人たちがいるわけです。しかし、下級武士や、あるいは開明的な大名、豪商・豪農という人たちは、そのようなことをやっている時代ではないだろうと、日本は近代国家になるべきだと考える人もいるわけですね。その先頭に立ったのが坂本龍馬や、吉田松陰高杉晋作のような人たちだったわけです。 

 

 

維新から20年かかって近代国家へ 

本当に日本で最初の近代国家ができたのは、1885年です。1868年に明治維新が起こって、それから約20年間は、言ってみれば、どのような国家を作ったらいいか、どのような国家の形に作ったらいいかということをみんなで議論したり、海外へ出掛けたりして、それを探っていた時期ですね。一番有名なのは、岩倉具視使節団です。100人ぐらいの人たちが、それこそヨーロッパ、アメリカ、それから、植民地になった国々、セイロンなど、約17か国を1年余りかかって回ってきて、その中から日本はどのような国家形態にしたらいいかということを議論したわけです。その他にもいろいろな人たちがあちこち回って議論をして、結局、明治憲法を作り、新しい教育制度を作り、あるいは殖産興業・富国強兵をスローガンにし、産業を作り、そして廃藩置県をやって藩を全部おこし、廃刀令で刀も取り上げてしまう。そのような意味での近代国家を作って、第一次内閣ができたのが1885年で、最初の総理大臣が伊藤博文です。ですから1868年に明治維新が起こったと言うけれども、近代国家がすぐできたわけではなく、その間、20年間かかっているわけです。 

 そして、1885年に内閣ができて、その10年後、1894年にもう日清戦争があるのです。その日清戦争に日本は勝ちます。そして、その10年後の1905年に日露戦争があるわけです。欧米では、これは絶対に日本が負けると思っていたのに、日本が勝ってしまうわけですね。ですから、第一次内閣ができてからわずか20年間ぐらいで、日本は列強の仲間入りを果たしてしまうわけです。 

しかし、1929年に大恐慌があって、それから世界中が大不況に陥るわけです。経済の最悪のシナリオは恐慌、政治の最悪のシナリオは戦争だと言われます。大恐慌があって、戦争の時代に入っていくわけです。そして、1931年には、日本は満州に侵略するようになるわけです。そして、どんどん東南アジアも含めて侵略をし始めていって、世界と大戦を起こすわけですね。ドイツ・日本・イタリアが組み、あとは世界を相手にして戦争をやる。結局、日本は、1945年に戦争に負けるわけです。これが第二の国難です。 

 1945年から51年までは、アメリカを中心とした連合国が日本を統治していて、日本は独立していないのです。新聞を出すにしても何にしても、全て連合国の許諾を得なければできなかった。ですから、日本人は、何とか早く独立しようということで一生懸命頑張って、新しい近代国家の形を作るわけです。例えば6334の教育制度や新しい裁判制度、軍隊を持たない民主主義憲法など、これはアメリカの押しつけという部分もありますけれども、新しい日本の形を作るわけです。 

 そして1945年からわずか23年、1968年にはGDPで世界第2位の国になってしまうのです。そのようなところが、日本はやはりすごいと思いますね。 

 だけれども、日本は、これから世界の中で生きていかなければいけないということで、ODA、つまり政府開発援助をどんどん多くして、実額ではそれこそ世界一になるぐらいまでやっていって、そして、1980年代の半ばぐらいから、だんだん世界の理解を得るようになってきた。さらに日本はもう戦争をしないのだ、平和国家で生きるのだということでだんだん世界に受け入れられるようになって、それから経済がバーッと強くなってくるというのが、第一の国難と第二の国難の歴史です。 

 

 

問われている日本の構想力 

今、第三の国難と言われているときに、一体われわれはどのような構想力を持って、どのような覚悟を持って生きていくのかということが問われているのではないかと思います。今、日本は覚悟をきちんと決めて、そして、どのように頑張っていくかということが大事だと思います。技術など、点で見れば強い分野はたくさんあるのです。それを集めて、一つの構想力にする。僕は、「はやぶさ」などがそうだし、あるいは、山中伸弥さんのiPS細胞などもそうだと思うのです。そのような構想力もあるわけです。技術などに関しては、本当に世界に冠たるものをたくさん持っているわけです。それを点として見ているだけではなくて、点を線にし、線を面にし、面を立方体にする構想力を持ったときに、日本はどのようにしたらいいのか。そのためには、規制も緩和しなければいけないだろうし、あるいは、教育の在り方も変えなければいけないだろう。そのような大きな絵を描くことが大事なのではないかと思います。 

 例えばOECDなどは、これから世界は、先進国はただ経済を大きくする、軍事を大きくする、政治を大きくするということだけでは意味がないのだということを言い始めて、ブータンのように、治安の良さ、寿命の長さ、雇用率、教育、健康、生活の満足度などの20項目ぐらいにそれぞれ点数をつけて順位づけしている。そうすると日本は、30数か国のうち20位台です。ですから、まだまだ足りない部分がたくさんある。経済というのは欲望。欲望と言うと生々しいけれども、欲望があるから、何かを実現したいと思うと思うのですね。今、日本人が何を考えているかという欲望を見つめ直すということも、大事ではないかと思います。 

 

 

いい「国柄」を持った日本に 

今、やはりネットワークということが非常に重要になっていますね。先ほど言ったように、TPPはアメリカを中心としたネットワークを作ろう。中国は、RCEPといって、中国を中心としたネットワークを作ろう。あるいはNAFTAなどは、アメリカ・メキシコを中心としたネットワークを作ろう。いろいろなところでネットワークが幾つもあるわけです。そのような意味で言うと、本当の友人を持つなど、そのようなネットワークを作ることが大事かなと思います。 

 本当の親友というのは、真の友達で、信頼・信用ができて、深くつきあえて、心からつきあえる、そのような友人を作る。人を評する時に「あいつはいい人柄だな」と言われますけれども、これから世界では、「ああ、日本というのは、いい国柄を持った国だな」と。僕はこれからは国柄ということが非常に重要になっていくのではないかと思います。そのような意味で、技術などということだけではなくて、どのような国柄の日本を作ることが世界で存在感を増すことになるのかということも、考えていただきたいと思います。 

 もう日本は軍事大国にも、政治大国にも、経済大国にもなることは多分ないでしょう。また推計ですが、日本の人口は、2050年には9000万人前後、2100年には実に4700万人です。この人口統計ほど当たるものはないのです。皆さんの子供さんやお孫さんは、2100年の時代の日本を生きなければいけないわけです。そのようなときにどのような国柄の日本になっていると、世界の中できちんと評価され、敬意を持って見られるかというようなことも、考えておく必要があるのではないかと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

 【公益財団法人通信文化協会 通信文化 23号掲載】

「二十世紀の豫言」
  詳しい内容は、以下報知新聞サイトを参照ください。

  http://hochi.yomiuri.co.jp/info/company/yogen.htm 

※実際に掲載された記事はこちら【PDF:914KB】
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