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悪い円安が心配に? 米国は金融緩和終了

 そろそろ円安の功罪をきちんと分析してもらいたいものだ。日銀、財務省金融庁などだけでなく、民間の大、中小企業、生活者なども含めて〝いい円安〟〝悪い円安〟の評価をすべき時期だろう。

 1㌦=70円台に円・ドル相場が突入した時、日本企業は悲鳴をあげた。円高対策として、日本企業の海外進出が加速した。もともと、冷戦崩壊で社会主義国の労働力コストが先進国の数十分の一位のところもあったから、90年代以降日本は新興国に投資し、いまや家電では8割以上、自動車分野でも6、7割が海外生産に走っているとみられる。大企業ばかりでなく、系列企業や独立系で技術力をもつ中小企業も、もはや海外生産に躊躇しなくなっている。そこへ人口減少、高齢化が進めば国内需要が減るから、当然の流れだろう。

 安倍政権が発足し、黒田日銀総裁が就任した2012年暮れ以降、政府、日銀は金融の大量的緩和で好景気を演出しようとした。その結果、円は一時の80円台(黒田総裁就任時は95・9円)から90円台に戻り、最近は1カ月で約7円も値下がりし6年ぶりに1㌦=110円台目前まで円安が進行、株価も1万6000円台まで回復した。しかし、円安・株価上昇で気分的には一時の悲観ムードはなくなったものの、肝心の景気や実質賃金上昇の実感はまだ行き渡っていない。

 安倍首相、黒田総裁のもくろみは、金融の量的緩和、ゼロ金利維持が長く続けば、市場にカネがあふれ株価などが上昇、企業主がカネを借りやすくなり設備投資にまわって従業員の賃金も上がり消費が拡大する好循環経済を予測していたのだ。この言い回しは今も安倍首相がよく口にしており、これに第二の矢(公共投資)、第三の矢(民間活力)が加われば日本経済は再生するといい続けている。

 しかし、この経済論理が日本ではあてはまらなくなってきた。日本企業の海外進出比率は高まるばかりで輸出の柱だった家電、自動車は海外で生産し、海外で売っており国内景気上昇につながらない。また、海外部門の本社をシンガポールなどにおいているので所得の還流も少ないようだ。円安はむしろ燃料費コスト、原材料、輸入品物価の高騰につながっているのだ。日銀はデフレ脱却目標をかかげ現に消費者物価は、2%弱まで上がってきたが賃金上昇率の方が低いので生活実感は依然、不況なのである。

 円安で物価上昇の目標を達成しても、貿易赤字や経常赤字がふえて生活がよくならなければ意味がない。ある財界トップは「今ぐらいの水準(105円前後)が一番いいのではないか」と感想をもらしていたが、はたしてそんなに都合よくとどまってくれるか。アメリカは10月に量的緩和を終了し金利引き上げ時期を探る段階に入る。日本と逆の金融政策に移るわけだ。常識的にみれば、さらに円安が進み物価上昇、場合によって日本の国債価格の下落へと進む。〝悪い円安〟シナリオのスタートである。OECD加盟先進国の景気は2013年に殆どが下方修正された。日本は何に好況への出口を求めるのか。欧米が日本批判を口にし始めた事も気になる。【財界 2014年10月21日号】

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