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時価総額は最高だが…

 東証時価総額が5月下旬に591兆円に達し、バブル経済期のピーク(1989年12月)の590兆9000億円を上回った。金融不安の真っ盛りだった2003年3月には200兆円台に落ち込んでいたから、一見すると日本経済はこの10年余りで急成長したように見える。

 しかしその内容をみると、バブル期とはかなりの相異がみられる。一番気になるのは、外国人売買のシェアで、89年はわずか4%だったが、現在は68%。外国人持株比率もかつては4%前後だったのに、現在は31%と、約3分の1を占める。これは日本市場が国際化した証ともとれるが、リーマンショック、ユーロ危機以降、ヨーロッパやアメリカのファンド、投機筋が欧米に比べ割安になった日本株に目をつけ集中的に投資してきた結果とみることもできる。実際、ここ2、3年の株価の動きは日本人投資家というより外国ファンド、投機筋が主導してきたといって過言ではない。

 とくにバブル崩壊以後、連結決算や時価会計主義、自己資本利益率ROE)を目標にすることを求められた。資金の使い方や株主還元にきびしい目を注がれるようになったため、日本の株式市場や日本経営の手法は1990年代半ばごろから大きく変わり、そのことが日本の株価に大きく反映されるようになったといえる。このため時価総額がバブル期越えとなったものの、単純に〝日本株絶好調〟とはいい難い。

 1989年末の世界の時価総額ランキングは、銘柄別にみると、日本株は上位20社のうち14社を占めていた。1位から5位までは日本興業銀行から三菱銀行と日本の銀行勢が占め、ほかにも20位以内に三和銀、日本長期信用銀行など4社が名を連ねていた。外資エクソン、GE、IBMなど6社のみ。金融以外の日本企業ではいまは瀕死の東京電力が8位、トヨタ11位、関西電力20位といった具合で銀行群は結局みずほ、三井住友、三菱東京UFJに統合され、製造業で今も変わらぬ社名で気を吐いているのはトヨタだけだ。30年弱の世界の変動の激しさがしのばれる。

 現在のトップ10はグーグル、アップル、マイクロソフト、チャイナモバイル、中国工商銀行などIT企業と中国勢が目立つ。日本企業は2015年3月期で最上位のトヨタが21位だ。バブル崩壊による不良債権問題の広がりと深さは予想以上に大きかったのだ。さらに欧米ファンドは日本企業の資産売却や配当増大、利益を生む投資の選択などを次々に迫り、日本式経営の強味は一挙にそがれていったのである。

 時価総額は株価に発行済み株式をかけたものだから企業の時価総額が小さいと買収される懸念がある。日本の東証平均株価は現在、2万円台にのったばかり。89年末の最高値の約半分だ。時価総額がバブル越えとなったとはいえ、世界の株式市場、株価形成構造は大きく違う。日本企業はまだまだ安定せず、世界から買収の対象にされ、市場もオモチャのようにもてあそばれかねない。
【財界 2015年6月23日号】

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