ゴキブリから守ってくれるアースの和風美人研究者
アース製薬の研究所で働く有吉立さんは、ゆったりと物静かにしゃべる30歳代の美人だ。職場は兵庫県赤穂市の生物研究棟。この棟ではハエや蚊、カメムシ、ゴキブリなど何と100種類の虫を飼育している。殺虫剤などの薬を作るための飼育棟6人の1人だ。
なかでも多いのが飲食店に住みつくチャバネゴキブリ、台所にいるクロゴキブリなど人がもっとも嫌がるゴキブリ類で、何と飼育している数は100万匹!! というから驚く。毎月2万~3万匹生まれ、殺虫剤用の実験に毎月1万匹ぐらい使われるという。飼育室では、成虫が産んだ卵を月ごとに飼育箱に分けて半年から8カ月かけて成虫に育てる。実験は殺虫剤がもっとも効きにくい羽化後10~15日の成虫で行うのが重要で、実験に必要な数を計画的に育て必要な数を提供する。
※画像は見学に訪れた方に配布されているポストカード。グリーンバナナゴキブリ
放し飼いのゴキブリは、約8畳ほどの部屋に50万匹ほど飼われ、天井から壁までびっしりと張りついて生存。人間が入ると一斉に逃げ出すが「怖がっているのは人間の方ではなくゴキブリなのだ」と実感してから恐いと思わなくなった。それでも最初の頃、よく無数のゴキブリが周囲を這っている夢をみて自分がゴキブリの餌になったような恐怖感に襲われたらしい。
仕事は、エサと水を取り替え、掃除をすること。ゴキブリの餌はマウスラット用の固形飼料で、1回に与える量は約20㌔、50万匹のゴキブリはそれを約1週間で食べ尽くす。
アース製薬のゴキブリ捕獲器は、チューブ入りの誘引剤と容器の底に粘着シートを使ったタイプ。赤い屋根の目立つ家型の組み立て式で、用心深いゴキブリが触覚で粘着剤を感知する前に、入り口の上り坂から急に落ち込む角度と段差をつけ、触覚が感知する前に、落下した勢いで粘着剤で捕まえるように工夫。これだとゴキブリ嫌いの主婦たちは、ゴキブリをみないで捨てられる。ほいほい捕れることからゴキブリホイホイというネーミングにしたら初年度に5000万箱売れた。
ゴキブリは紀元前3億2500万年前から繁栄していたことからもいかに生命力の強い生物であるかがわかる。チャバネゴキブリは水さえあれば45日間生きている。ゴキブリの生命線は水なので撃退器の超音波を水のみ場の出没個所に放射することがもっとも効果的らしい。
有吉さんは「本当は虫は大嫌い」だったがゴキブリを飼育しているうちに「仕事だからやるしかないと覚悟を決めた」とニッコリ笑う。ゴキブリの病原菌(サルモネラ菌、赤痢菌、小児麻痺ウイルス)、糞、死骸などはアレルギーの源、電気系統の障害など人命に危険も及ぼす。有吉さんは皆が嫌がるゴキブリと前線でつきあいながら人類を守ってくれているのだ。
【財界 2016年1月26日号】