経済指標に踊らぬ生活
日本人はケチなのか、心配性が強すぎるのか、それとも政府の発表する数字や日経新聞の論調に乗りたくないのか。
10月28日付の日経新聞夕刊の一面トップに、9月の経済指標として「求人倍率25年ぶりに高水準」「失業率3.0%に低下」「消費者物価0.5%下落」などと大きく見出しでうたっておりながら「消費波及乏しく」と嘆いている。雇用情勢は25年ぶりに改善され、物価も下落し、失業率も3.0%と前月よりさらに改善しているのに国民の消費意欲は依然冷えたままなのだ。二人以上の一世帯あたりの実質消費支出は26万7119円で前年同月比では2.1%減と7カ月連続の減少という。
ただ数字の中味をよくみると、雇用改善はパートタイム労働者が増えているためで、正社員は1倍に届いておらず求人の方が少ない。正社員は雇用全体の約6割で、企業側は賃金の安いパート、アルバイト、高齢者、女性などで人手不足をしのごうとしている。政府・日銀は消費者物価が目標の2%に達すれば景気がよくなると言い続けているが、賃金が上がらないのに物価が上がっては消費者はとてもモノを買う気を起こすまい。物価を2%に上げたいなら、賃金を3%以上上げるべきなのだ。かつての春闘では、「賃上げは物価上昇率プラスα」と言い、生活向上分も要求していた。
賃金のことをタナにあげて物価2%上昇を唱え続ける経済政策はどこか変だ。物価上昇を政策目標にするのは働く者の気持ちがわかっていないからだろう。消費者物価が上がれば、企業は元気になって生産を増やし、賃金も上げるはず、というが、論理は逆だ。”景気は気から…”というようにまず給与をあげて〝気〟を作り出すことから始めるべきなのだ。最近、日銀もこれまでの政策の失敗に気がついたらしい。政策の中心をカネの量から金利に変えるようだが、これも一般人にはわかりにくい理屈で、これでは多分”気”は上昇すまい。
本来、消費者にとって物価は低いほうが良いに決まっている。それなのにカネをばらまいて物価を上げる方針にはどこか胡散臭い匂いがし、多くの日本人はその手には乗らなかった。
それにしても日本人は慎重だ。やはり失われた20年の苦渋が身に沁みているのか。政府はオリンピック、その後に万博景気などとはやすが”五輪後は不況”の思いが離れない。
やはり一番は老後や天候異変などによる災害への不安が大きい。世間は自動運転、人工知能、モノに繋がるインターネット(IOT)など技術の進歩を盛んに取り上げ夢の未来をうたい上げるが、まず身近な年収が着実に上昇させることや老後の不安などをなくすことが第一だろう。
【財界 2016年12月6日号 436号】
※本原稿は10月の消費者物価指数が発表される前に掲載されております。本日10月の消費者物価指数が発表されましたが、値動きが激しい生鮮食品を除き、総合指数が前年同月比で0.4%下落。8カ月連続で前年同月比で減少しています。
画像はこどもや赤ちゃんのイラストわんパグより。