【米と真逆の金融対策で市場は乱高下】― ~特集「2016年を占う!」日本経済~
日本や新興国の市場金利や為替相場は乱高下時代に突入するのではないか。
2015年12月になって、アメリカは遂にゼロ金利政策を解除し、金融危機後7年間にわたり続けてきた実質的なゼロ金利を変更した。金融政策を決める中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が短期金利の指標となるフェデラルファンド金利の誘導目標を12月17日から「年0~0.25%」に引き上げることを決定したからだ。この政策金利はアメリカの銀行利息、クレジットカードや自動車ローン、企業の融資などアメリカにおけるあらゆる金利に直接、間接の影響を与えることになる。いわば今回のゼロ金利解除政策は、アメリカの金融政策の大転換を意味するものとなった。
イエレン議長は①雇用環境が今年に入って相当に改善した、②年2%の物価上昇目標に中期的に近づく自信が持てた――と言い、雇用と物価の上昇率の二つの条件が満たされたとしている。なお、気になるのは原油安だが、これは“一時的要因”だと指摘した。また「まだ物価目標の2%に達していないのに利上げすること」については「利上げを遅らせすぎると景気の過熱を下げるために急激な利上げを再び強いられ、かえってまた不況に陥るリスクを高めることになる」と弁明した。
―雇用と物価の安定が重要―
FRBは2008年のリーマンショック後にゼロ金利政策と量的緩和(米国債などの資産をFRBが買上げて市場に大量の資金を流す)の2つの政策を進めてきた。3度にわたる量的緩和は14年10月に終え、15年9月から利上げに踏み切るとみられた。しかし中国の景気減速、石油価格の低落、世界の株安が広まって15年暮れまで利上げを見送ってきたが、いまや海外リスクが減り、米国内の堅調な景気の持続から自信を得て政策転換に踏み切ったものとみられる。これまではアメリカの緩和策によって巨額のドルが世界に流れ新興国などの成長を支えてきた。
―日本はまだ出口政策とれず―
今後の焦点はアメリカの金融政策の転換でまだデフレ脱却できていない日本と欧州にどんな影響を与えるか。中国や新興国の経済が更に減速しないか。世界のおカネの動きが、アメリカから外へ流れていたドルが、アメリカへ還流し始め、新興国などにどの程度影響を与えるか、アメリカが利上げに転じたものの日本や新興国は依然ゼロ―低金利、量的緩和策を取り続ければ、そのことが為替や市場金利に変動をおこさないか―などの点で、世界のおカネの流れが乱気流を起こし、相場や実態経済の乱高下につながらないか、などの点が懸念されることだろう。
アメリカと金融政策の方向と逆になる日本銀行は、12月18日に「日銀はこれまで通り金融緩和策を維持する」と言明した。ただアメリカの政策を受けて日銀は新たな補完措置をとると発表した。その内容は①設備・人材投資に積極的な企業の株式で作るETF(上場投資信託)購入枠(年3000億円)を新設し企業の設備投資と賃上げを後押しする効果を狙う、②買入れる国債の満期までの平均期間を「7-10年」から「7-12年」に長くすることで期間の長い金利を一段と低下させる、③担保として受け入れる対象を「住宅債権ローン」などにも拡大し、金融機関が担保用に手元に残してある国債を売りやすくする――などである。
ただこの措置に対して日銀政策委員9人の内3人が反対した。内容がわかりにくく、効果に疑問を呈した委員が3分の1も占めたのだ。この結果を知って、相場は乱高下し日経平均株価の値動き幅は、わずか5分で500円近く値上がりしたが、その後効果に疑問が出て株価が急落、結局終値は366円安だった。ちなみに円相場は一時1ドル=123円台半ばまで急落したが、その後121円台へと急速に戻した。
―市場は乱高下の時代に?―
アメリカの金融政策の大転換に対し、日銀は基本的に異次元緩和の継続策を変えようとしていない。むしろ政府の借金を日銀がお札を刷りまかなう異常な「財政ファイナンス」状態は維持し続ける方針のようだが、国債暴落リスクは消えずゼロ金利状態がこのまま続くと金融市場機能も失われる危険がある。
また異次元の金融緩和策によって2年半で株、不動産の資産価値は上昇したもののGDPはほぼ横バイだった。一部企業が投機で儲かっただけだったのである。
さらに日銀と安倍政権は大企業などに賃金や企業の設備投資を行なうよう何度も訴えてきたが、企業経営は本来、企業の自主的な判断に任せるのが本筋だ。どうも最近の政府・日銀の企業へのお厄介が目立ちすぎるのではないか。
政策が思い通りの効果をあげないからといって政府・日銀が企業経営の細かな所まで口をはさむとどうなるのか。物価目標の2%、円安になっても輸出実績があがらない背景、国内の設備投資、消費が拡大してゆかない原因、本質的なイノベーションが進まない障害は何なのか――この辺でアメリカの金融大転換を踏まえ、日本のデフレからの”出口政策”をどうすべきか、本質的なところから問い直し広く議論する時期ではないか。アメリカと真逆の金融政策をとり続けると、ちょっとした水音に異常に反応する乱高下の激しい落ち着かない市場となってしまいそうだ。
【Japan In-depth 2015年12月26日】