時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

事業の組み換えこそ企業の生きる道  政府の景気刺激策を待ってはダメ

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 景気がもうひとつパッとしない。先進国仲間では良い方なのだが、過去の高度成長期と比べたり、周囲の20%前後も増益・増収している企業を見ると成長が遅れていると感じる企業が多いようだ。そうした企業は、政府の財政・金融などの刺激をさらに求め、日本全体の追い風に乗って自分のところも成長できるはずだと考えるらしい。政府もまた事業規模で20兆円を超える大型補正を準備したり、一段と金融緩和の姿勢を見せて企業の要望に応えようとしている。

 しかし、従来のような景気刺激策を打てば日本全体が浮揚し企業も良くなるというシナリオは、安倍政権スタートの最初だけで、その後は金融緩和、マイナス金利、財政刺激、規制緩和などの手を打っても、消費者、企業側ともに景気の波に乗って消費が増えたり、設備投資が増えたという兆候は見られない。

 そもそも、消費者も企業も政府のマクロ的な景気刺激策に、いまや期待を寄せてはいないのではないか。世の中が好況ムードになれば、企業がどんどん物をつくり、設備投資を行って消費者は新しい商品を買うといった高度成長期にみられた循環は、とっくになくなっているのだ。

 賢い企業は、世の中の流れを長期的に見据えて、高度成長期や失われた20年期の事業を真剣に見直している。実は事業の組み換え、見直しを行っているのだ。その事業の組み換えに成功した企業は新しい成長路線をつかみ、昔の事業にしがみついて安売り競争などで勝とうとしている企業は、どんどん体力を弱めて衰退、消滅しているところが多い。

 時代の流れは大きく変わっているのだ。その時代の波をきちんと見分け、自社の技術、資産などを見直して事業を組み換えているところが大きな成長の土台を築いていると言える。

 

――GEは10年ごとに事業組み換え――

 将来を見通しながら事業の組み換えを行い続け、今なおアメリカの代表銘柄になっているのがGE(ゼネラル・エレクロトニクス)社だ。1878年トーマス・エジソンが電気照明会社として起業して以来、総合電気メーカーとして長く世界のトップ企業として存在し続けたが、日本などの新興国が追いかけ力をつけてくると、重電メーカー、コンピューターのメーカーへと変わり、1970年代にはプラスチックを生産する企業に変わった。1981年ジャック・ウェルチがCEOに就任すると3大ネットワークを占めていたNBCを保有していたRCAを当時で最大の買収価格で買い取ったが、1990年代にはRCAを売却し金融、保険、リース業へ参入した。現在の主要事業は、金融サービスのほか電力、オイル、ガス、発電ビジネスのほか、医療用機器、鉄道車輌、エネルギー関連のインフラ、不動産などの多岐にわたっている。GEといえばエジソンが作った会社というイメージが強いものの、その内容はほぼ10年ごとに主要事業が入れ替わっているのだ。むろん、突然変更しているわけではなく、主要事業が稼いでいる時期に次の時代を見据えて事業の入れ替えをスムーズに図ってきている。だからこそ、GEはつねにアメリカを代表するダウ銘柄として存在し続けているのだろう。

 

――日本では富士フイルムが組み換えに成功――

 日本で事業の入れ替えに成功した有名企業は富士フイルムHDだ。HD会長でCEOの古森重隆氏は「うちは利益の3分の2を稼いでいた写真フィルム事業がデジタル化によってどんどん減り、とうとう本業を失った。2000年代に入ってリストラを進めたが、リストラだけでは夢も会社の将来像も描けず、何とか生き延びることを考えざるを得ず新規事業や経営の多角化を目指した。世界の電機メーカーは、いま事業の組み換え、事業シフトを進めているが、とにかくまだ市場が育ち始めたばかりでも、種の段階から手に入れるようにしている。将来性があるなら当社の資金力を生かし、写真で育んできた技術力、生産技術、生産管理も応用するようにしている」と指摘する。

 

――フィルムから5事業以上へ――

 富士フイルムは現在、ライフサイエンス、関連会社の富士ゼロックス、高機能材料、印刷、デジカメなどイメージング――など5領域を手掛けている。自社のもつ技術の隣の領域に攻めていき、M&Aで何本かの成長の柱を作っていくのが大方針だという。

 なかでも医療分野に力を注ぐ、富山化学工業、米セルラー・ダイナミックス・インターナショナルなどの企業を買収、アルツハイマー治療薬や心臓疾患、パーキンソン病などの治験も進めており、18年には200億円くらいの売上高を見込んでいる。

 一時は60%前後の写真フィルムのシェアをもち名門・安泰企業だった。それがデジタルカメラの登場でフィルム需要が激減、構造改革に乗り遅れた名門コダックが経営破綻した。富士フイルムは写真で培った技術の生かす道を考え、いずれ大樹に育つとみたら、ヒットが出るまで支えるとし、自社技術と合う企業を探し次々と新商品を作り出していったのだ。化粧品事業にまで手を伸ばし、化粧をするのではなく身体の内部からシミなどをとる技術を開発し、フィルム企業のイメージを一変させたりして、世間を驚かせた。

 

――地域でも事業組み換えで成功――

 事業の組み換えは企業だけではない。伝統工芸や地域の名産を持っていた地方も新たな事業の組み換え、高付加価値化をはかり見事に行き残っているところがある。たとえば新潟県燕三条である。同地域は1960年代まで洋食器の街として栄えた。しかし、1970年代に入ると日本の輸出が増え円高に襲われた。手をこまねいて円高に悲鳴をあげていた企業は次々と潰れていったが、いくつかの企業群は洋食器に見切りをつけ、伝統の刃物の高付加価値化に目をつけた。いまや単なる包丁ではなく、レーザーを使ったカット技術などを進化させているし、岩手の鉄びんなどもコーヒーポットにしたり、カラー化を考え、欧米に輸出し人気となっている。

 

――自主事業を柱に、たんなる買収はダメ――

 かつての技術、製品を細々と受け継ぐだけでは時代遅れになり衰退化していく。そんな時、新しい技術、デザイン、使用法の変化などを工夫すると、再び光を取り戻す可能性もあるのだ。旧くなった産業にこだわり、リストラや安売り競争に走っていると先は短い。買収や提携で事業の組み換えや次元の異なる高付加価値化、新しい市場の開拓などを行い、事業の組み換えを考えていくことが重要なようである。ただ買収といっても、自分たちの事業と無関係の買収を行っても長続きはしないだろう。あくまでも自主技術を軸に、深堀りしているところが成功の確率が高いようだ。
TSR情報 2016年8月29日】

※画像は南部鐵器のメーカー「岩鋳」社が手掛けるカラーポット「IWACHU」 。「岩鋳」社サイトより。

4日『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:京都大学教授・火山学者 鎌田浩毅様

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4日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)はゲストに先週に引き続き、京都大学大学院 人間・環境学研究科 教授の鎌田浩毅様をお迎えいたします。

震災後時間を経て風化してしまう我々の防災意識についての考え方や、過去から分かる地震予知、また富士山噴火の可能性についてお伺いする予定です。

 

1夜目の火山に興味を持った理由や、学生に授業を楽しんでもらうための秘策、過去を学ぶと見えてくると云う驚愕の地震予知などについてお伺いした放送は番組サイトよりお聞きいただけますので合わせてご利用下さい。 

一体感で生まれる五輪魂

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 リオのオリンピックが終わり、暑い夏も峠を越えてきた。オリンピックは、熱心に見ていたわけではないが、柔道や女子の卓球、男子体操などの競技に感動するものがあり、そこにはいくつかの共通点を感じた。

 オリンピック競技で最初に強烈な印象をもったのは男子100㍍だった。3連覇を遂げたボルト選手ではなく、日本で初の9秒台を出した桐生選手が予選で敗退し、準決勝に残ったケンブリッジ、山縣両選手の走りをスタンドで見ている姿がいかにも寂し気な様子だったことだ。競技前は日本のメディアにいつも登場していたのに予選敗退となると誰も振り向かない残酷さが目にしみた。

 それに比べ男子体操は期待が大きかったにも拘わらず予選四位。結局、期待だけに終わるのかと思わせたが、決勝に残った途端、内村選手を中心に目の色が変わり、全員が必死になって団体戦を戦い金メダルを取った。全員が一つになって跳んでいる様子がTVを通じても感じ取ることができる戦いぶりだった。

 女子の卓球にも鬼気迫るものがあった。個人戦では事実上のエースとみられた石川選手がまさかの初戦敗退で暗雲が立ち込めた。しかし団体戦になると福原”愛ちゃん”が引っ張る形で見事に銅メダルをつかんだ。個人戦では15歳の伊藤美誠選手も含めライバル同士ながら団体戦となれば3人が力を合わせなければメダルは取れない。

 福原選手は「自分はナンバー2タイプなのに主将を任されて戸惑た」と言いつつ、長女役として2人にいつも気配りをしてきた。それでも団体戦の準決勝で敗れ気落ちしていたら、石川選手らが「最後まで頑張り3位決定戦で勝ち銅メダルを取ろう」と逆に励ましチームの心が一つになったという。

 3位決定戦も第一試合では福原選手が接戦の末に敗れたが、二番手の石川選手、三番手の福原・伊藤組のダブルス、四番手の伊藤選手がシングルでシンガポールを下し3対1で銅メダルを手にしたのだ。まさに”3人娘”がいったんはくじけそうになったが、互いに声を掛け合いあきらめなかった末の勝利だったのである。福原27歳、石川23歳、伊藤15歳の3人姉妹ともいえた。戦いの最中の福原は闘志むき出しの顔があり、昔の”泣き虫”愛ちゃんとはひと味もふた味も違った大人の姿を見た思いだった。

 柔道も見事だった。男子が全階級でメダルを獲得する快挙をやってのけたのだ。柔道は、日本の武道であり、監督がシドニーオリンピックの金メダリスト井上康生氏であったことも大きかったようだ。多くの選手が「井上さんのためにも負けられない」と一丸となっていたからだ。折しも柔道はいまやフランスが最も盛んで世界一ともいわれているが、フランスで柔道が人気となったのは、親たちが柔道の”礼節”を子供達に学ばせたいと考えたことから柔道人口が本家の日本をしのぐようになったといわれている。

 日本もメダルの数だけでなく、柔道の精神をもっと身に着ける必要があるのではないか。
 最近のスポーツ選手は口グセのように「楽しんできたい」と述べて世界の競技に向かう人が増えている。しかし、今回のオリンピックで好成績をあげたり、人々を感動させ、涙させたのは、やはり心を一つにし、日本の伝統であるチームワークで戦った種目だったような気がする。

 「楽しんできたい」と言うことによって、固くなる自分をリラックスさせようとしているのかもしれないが、スポーツは死に物狂いの練習の末、チームワークや和の精神を見せて正々堂々と戦ってくれた団体や選手たちのことがいつまでも記憶に残るのではなかろうか。
【電気新聞 2016年8月26日】

※なお、本コラムは陸上男子400メートルリレーの結果が出る前に入稿しております。

昨日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~日銀は大衆心理を学べ!?~

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スタッフです。
昨日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:ひどい!こんなにあるマイナス金利の弊害


【景気は気から】
今日は導入から半年「マイナス金利」を検証したい。日銀や政府は経済理論からどうやったら景気がよくなるのかということを考えているが、それと同時に「景気は気から」。企業や大衆の心理をよくみないと間違いが生じるように思う。どうもここのところ日銀は理論だけで動いていて、間違いが多いように感じられる。


【マイナス金利をおさらい】
この「マイナス金利」を改めておさらいすると、これまで一般の銀行は余ったおカネを日銀に預け、若干ではあるが金利がついていた。しかしながら「マイナス金利」導入後は、日銀におカネを預けることによって金利はマイナスとなり、逆に預けた銀行側が日銀におカネを払わなくてはならないという異常事態となっている。

日銀はこの政策によって、銀行は日銀に預けずそれを企業等に貸出したり、個人ももっとおカネを借りて大きな買い物をするようになり消費が活発化するようになると読んでいた。しかしながら、はっきり言うとその通りにはなっていない。確かに銀行の貸出し金利は下がったが、消費は向上していない。


個人消費も低水準が続く】
先日発表になったGDPは2四半期連続の減少、個人消費も低水準が続いている。1世帯(2人以上)当たりの消費支出も5ヵ月連続で減少(※)しており、日銀の思惑通りに進んでいない。ここ数日円安が進みだしたが、これはアメリカの利上げ観測を受けドルが買われているだけであり、日銀が思い描いたような円安にはなっていない。

マイナス金利を発表した頃(1月29日に発表)は1ドル118円台だったが、現在は102円前後と16円も円高になっている。日本トップの輸出企業では、1円の円高で営業利益が「400億円」も減少するといわれておる、16円の円高の場合は「6400億円」もの損失が出たことになる。 このことからもこの円安論理はうまくいっていないといえる。


【超長期の社債発行ブーム】
企業も損失を出すばかりではいけない為、新たな動きとして借り換えを行ない始めた。償還までの期間が10年以上にわたる超長期の社債の発行が相次いでいる。これまでは、長期の事業資金を要する電力や鉄道といった企業が社債を発行していたが、マイナス金利導入後は不動産や製薬など幅広い業種にわたる会社の社債の発行が拡大している。今年上半期(1~6月)の社債発行額は前年同期比で7%の増加となっている。

例えば、JR東海では20年物の普通社債100億円を新たに発行したことで、利払い金額が以前のものと比較すると15億円も減少している。これまで社債は事業資金として活用するための債務であった。しかしながら、今回の動きは金利の低い社債を発行し、これまで借りていた高い金利の債務を低い金利の債務に借り換えしているだけで、新たな設備投資に充当しているのではない。この現象からも日銀の想定とは違うといえる。


【賃貸物件急増による影響も】
さらに最近、投機を目的とした賃貸物件への不動産投資も増加している。低金利でお金を借り、賃貸物件に投資。東京五輪開催の影響による物件価格の上昇を待ち、売り抜けようという動きが徐々に増加してきている。今朝の日経新聞には「貸家に投資マネーが流出している」という記事も出ており、このことからも本当の意味での企業投資の増加につながっていない。

これは、相続税の非課税枠の減税を利用した投機マネーで賃貸物件に富裕層が投資しはじめたことによるものだ。おカネがうごくというのはいいことなのかもしれないが、投機できる人だけが儲かり、格差が拡大する。さらに、バブルのような動きが出てくる可能性もある。さらに、投資が増加することにより空室率の増加という問題も発生する。実際に、賃貸物件の増加により家賃が下落傾向にあるという側面も出始めている。


【保険料への波及】
その他にも弊害があり、国債の利回り低下により企業の退職金や年金の運用もさらに厳しくなってくる。かんぽ生命では14%も保険料引き上げされた商品があったり、日本生命の一時払いの終身保険を50歳の男性が500万円の保険金を受け取れる契約では、以前に比べ31万円も保険料が高くなった。

昨日付(8月29日)の東京新聞には「瀬戸際の黒田緩和」という記事が出ており、「日銀は追い込まれているのではないか、9月に金融緩和の総括をすると言っているが本当に総括をするのか」と書かれている。さらに本日付(8月30日)の日経新聞では「黒田総裁がひとり総括」と報じられ、「日銀内部の中でも本当にこれでよいのか副作用が大きいのではないか。」という問題が出てきているが、黒田総裁はさらに緩和を続けマイナス金利をさらに引き下げる可能性も示唆している。

日銀は9月に金融政策決定会合を実施する予定で、これから先をどう見通しているのかということに注目される。日銀内ではもう限界だという意見もある中、黒田総裁はさらに深堀しようとしているようなので、この二つの意見が今後どのような動きをみせるかということにも注目が集まる。今後、更なるマイナス金利を進めた場合、銀行収益への影響が懸念される。そういう意味からも本当の総括をきちんとしたほうがよいと思われる。

【心理学の重要性】
今後、マイナス金利の導入は経済理論から考えるのではなく、国民や企業がどういう心理状況に陥るのかというところも含めた政策をやって欲しい。日銀は心理学を少し学んだ方がよいのではないかということも言いたい。

国の政策と共に進めなくてはならない状況下で、黒田総裁は本当に厳しい舵取りを迫られているともいえる。

(※)放送時点では4ヵ月連続でしたが、放送中に総務省より発表された家計調査によると5ヵ月連続減少となっているため、5ヵ月と記載しております。

昨日『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:京都大学教授・火山学者 鎌田浩毅様 音源掲載。

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)の音源が掲載されました。ゲストは京都大学大学院 人間・環境学研究科 教授の鎌田浩毅様をお迎えいたしました。

火山に興味を持った理由や、学生に授業を楽しんでもらうための秘策、過去を学ぶと見えてくると云う驚愕の地震予知などについてお伺いいたしました。

次週も鎌田様をゲストにお迎えし、震災後時間を経て風化してしまう我々の防災意識についての考え方や、過去から分かる地震予知、また富士山噴火の可能性についてお伺いする予定です。

次週ぜひお聞き下さい。

【イベント案内】この週末は時流のニュースやウズベクダンスを学ぼう!

スタッフです。今週末嶌が会長を務めるウズベキスタン協会ではこの週末2つのイベントを予定しております。

まず、明日27日は14時から浜松町にあります日本フードサービス協会会議室にて14時から16時まで嶌信彦の出前講座を開催いたします。

この出前講座は、嶌が時流の政治・経済・社会問題等の話題を分析・解説するものです。多くの方のお越しをお待ちしております。 先日ウズベクに行った話もします。



続いて、翌日の日曜日は11時から市ヶ谷のJICA地球広場にてウズベクダンスの動きの意味や地方の特色などの解説をウズベクダンスグループ「Guliston/グリスタン(お花畑の意)」を率いるAnya(アーニャ)さんをお招きし、教えて頂くイベントを開催します。詳細は以下Facebookよりご覧ください。

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 一昨年のウズベキスタン協会の新年会でのウズベクダンスの模様

昨日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~東京五輪の課題解決のヒントを過去の五輪から紐解く~

スタッフです。
昨日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:リオ五輪の反省と、東京五輪への宿題

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【チームワークに胸が熱く】
リオデジャネイロオリンピックが終った。連日熱戦が繰り広げられていたが、つい見てしまった。今回、メダルの数よりもチームワークのよいチームとリーダーがしっかりしているチームに胸が熱くなった。

例えば、男子体操団体は予選で4位となりメダルの可能性は低いのかと思われかけたが、内村選手が中心となって金メダルを獲得した。それから、柔道は個人の戦いだが、井上康生監督を中心とした団体戦という感じで、男子全員がメダルを獲得するという快挙を成し遂げた。

井上監督は前回のオリンピックで金メダルがゼロであったことから立て直しに取り組み、今時の若者にあった練習は何か、指導体制は何かということを考慮しながらいろいろと改革してきた。選手に不祥事があった時、選手を責める前に自分の指導が悪かったと井上監督自ら頭を丸め、選手の側にたった。さらに銅メダルに終わった選手の事もほめ、金だけがよいという風潮から救っていた。このように井上監督を中心にまとまっていたことがよかったように思う。


【卓球のラリーやキャプテンシーに感動】
団体となり一つの組織として力を発揮したチームが多かった。卓球もその一つで、男子・女子とも圧巻のラリーを見ているだけで胸を打つものがあった。特に、女子の福原愛選手の幼少期の「泣き虫愛ちゃん」のシーンは有名だが、今回は一切涙を見せず、キャプテンシーを発揮し、皆を励ましていた。「自分は元々副班長タイプで、リーダータイプではない」と言い、銅メダルを取った途端に涙を流し、メダルの色に関係なくみんなに感動を与えた。あの最後のシーンではもらい泣きしてしまった。


【東京のオリンピック開催のヒントはロスに】
こうしてリオオリンピックは終わったが、いよいよ4年後は東京に舞台が移る。リオでいろいろあった課題が東京に持ち越されることにもなる。東京都は小池都知事になり、経費面等、透明性を高めようという動きになってきた。これをどのように実現していくのか、なかなか大変だと思う。森元首相東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会のトップにおり、JOCもある中で小池氏がどう斬りこんでいくかがカギだと思う。その時に考えるヒントとしては、1984年開催のロスオリンピックがある。


【アメリカが自信を取り戻す契機に】
この当時のアメリカはまだ70年代の不況を引きずっていたものの、ようやく景気がよくなり始めた。私はこの当時アメリカに駐在していた。オリンピックはアメリカでは日本ほど盛り上がらないのだが、この時はソ連がボイコットし、アメリカはメダルラッシュとなった。そして、ついにアメリカでもオリンピックがメジャーとなっていった。「強いアメリカ」を訴えてきたレーガン大統領(当時)にピッタリのオリンピックだったという感じがした。そして、これがアメリカが自信を取り戻すきっかけともなった。

ショーもアメリカらしいショーで、空から宇宙飛行士のカッコをした人たちが下りてくる非常に派手な演出をした。これらのことでロスオリンピックは非常に話題となったが、この時からオリンピックの商業化が進んだと言われている。


【ロスでいい商業化を実現】
ひと言で、商業化と言っても「いい商業化」と「悪い商業化」の二つの側面がある。ロスの場合は「いい商業化」とみてよいと思う。それは、ロスオリンピックにおいて税金が全く使われていないことだ。先ほど番組内で森本さんが東京オリンピックの開催経費が「7300億円の予算だったのが、すでに2兆円超している」と紹介されていましたが、ロスでは公金が一切使われていない。

この時、ロスでは史上初の民営五輪を運営。実業家のピーター・ユベロス(Peter Victor Ueberroth)が組織委員長を務め、放映権の一括入札を実施し放映権の一発入札制を採用し、ABCが破格の540億円で落札した。これは1社に絞って協賛金の引き上げを狙ったもので、問題があるかもしれないが民営だけの運営でコストを削減したということは評価できる。

さらに1932年のロス五輪のスタジアムをそのまま使ったり、学生寮を利用した選手村などを作り、支出を削減した。その結果、当時の金額で490億円もの黒字となった。そういう意味では、いい商業化だったといえる。

東京でも全てを民間に任せるかどうかということは別として、上記から考えても旧国立競技場などはそのまま使えたかもしれない。今回、新国立競技場に聖火台が設置できないなどさまざまな問題があるが、税金投入ゼロを掲げるというのも一つの手のように思う。


【命がけのマラソン・・・】
女子マラソンはロスオリンピックから始まった競技。記憶に新しい方もいると思うがスイスのアンデルセン選手が猛暑で熱中症となり、競技場をよろけながらも歩いてゴールした。競技場のトラック1周をゴールするまで5分以上要し、ルールで人の助けを借りると失格になるため大会委員も見守るだけで、一人でフラフラと歩く姿が全世界に中継された。なんとかスタンドからの大声援を受け見事にゴールしたが、非常に危険な状態であった。

安倍首相は「アスリートに最高のコンディションで臨んでもらう」とブラジルでの引継ぎの際表明したが、気温だけみても当時ロスの8月の平均気温は21.0度、一方、昨年8月の東京の平均気温は26.7度と5度も高い 。熱中症が出てもおかしくない。

 

【小池都知事のリーダーシップに期待】
2007年8月に大阪で世界陸上が行なわれた際、男子マラソンは8月25日午前7時にスタートした。7時の時点の気温は27.8度で、ゴールした9時頃の気温は何と30.7度であった。結局、85選手のうち28選手がリタイアとなった。コースの途中にシャワーを用意するなどしていたが、この結果となっている。

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2020年の東京オリンピックの男子マラソンは8月9日に開催される予定だが、参考まで今年の8月9日の気温を見ると午前7時で27.7度、そして午前9時には33.5度となっている。1日通しての平均気温は31.9度だったので、時間にかかわらず暑いといえる。日本体育協会ガイドラインでは、 「31度以上は、激しい運動は中止」「28度以上でも、激しい運動は30分で休憩を取る」となっており、この基準にあてはめるとマラソンは出来ない。先に紹介した安倍首相の「アスリートに最高のコンティション」というのであれば、本気で考え直す必要がある。

上記から考えると、マラソンを東京ではなく北海道で実施するといったように場所を変更するか、オリンピック自体の開催時期をずらす必要があるように思う。財政面以外にも問題は山積しているので小池さんのリーダーシップに期待したい。

※オリンピックの画像はTBSラジオ「【リオ五輪】ブラジル現地報告」 より
 最後の画像は、日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」 より

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