他人の力を借りることは恥ではないし、時にはきわめて重要な立ち直りのきっかけになる。しかし、最終的には「自分の力で復活する」という覚悟と意志がなければ失敗しよう、3月に入り日本経済は好調で、回復に力強く進んでいるようにみえる。たしかに株価は一時の8000円台割れから1万2000円台まで回復、為替は1㌦=70円台から90円台まで戻ったし、ユーロも1ユーロ=125円をはさむ展開だ。これによって企業の内部留保は厚くなり、輸出も増大しつつある。人々の気持ちも株価上昇などで多少は明るくなり、街のにぎわいも一時に比べぐっと明るくなった。また政府やメディアのキャンペーンもあって、高収益企業はボーナスや賃上げにも応ずる気配が出てきた。
ただ注意すべきことは、まだ日本の自立回復ではないということだ。第一はアメリカの景気回復が自動車、住宅、失業率などで安定的に上向きになり、株価などがリーマンショック以前に戻って史上最高値を更新してきたこと。第二はイタリア政局の先行き不安はあるものの、EUもユーロ危機の救済スキームがほぼ固まり、以前のような不安定な乱高下がなくなってきたことだろう。このおかげで日本の株はツレ高し、ユーロとドルも円安に向かって日本企業を安心させているのだ。いわば他人のおかげで日本の〝気〟が変わってきたのが本音だろう。
むろん、安倍政権の金融緩和に賭ける意気込みが本気で、日銀の黒田新総裁ら3人のトップも「インフレ2%実現、デフレ脱却を死に物狂いでやる」といった従来の日銀らしからぬ発言も市場をはやしていることは間違いない。
しかし、日本を取り巻く状況や個別の企業、地域などをみると決して楽観はできない。日本の輸出や産業の先導役であった家電のシャープ、ソニー、パナソニックの赤字、リストラは依然ぼう大だし、鉄鋼や地方、とりわけ震災復興の遅れは著しい。つまり、日本の景気は、〝気〟はよくなっているが、まだ実態は〝虚〟であり、これを〝実〟のあるものにしていかないと本物にはならない。
だが、私は何度も本欄などで書いてきたように〝日本には底力がある〟と信ずる。日本は戦後以降を見ても敗戦のがれきのやまから日本人の勤勉さ、創意工夫、惜しまぬ努力、アフターサービスや納期の厳守、企業の一丸となった協力などで、その後の円高、石油危機、バブルの影響などをくぐり抜けてきた。戦後70年のたゆまぬ努力で多少のストックができて、今はかつての飢餓精神は薄れているものの、日本の経済はまだまだ今後の新興国のインフラ造り、成長の見本となり、技術供与できるものはいっぱいあるはずだ。
日本は過去の歴史を思いおこし、その経験を新興国の都市、インフラづくりに供与してゆく財産を豊富にもっている。今後はテレビや自動車といった単品輸出だけにこだわらず、商品にまつわる環境、文化、働き方なども含めた日本のDNAで世界に向かってゆけば、きっと本物の底力を発揮する時が来よう。【財界 2013年4月9日号 第348回】