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解体的運命となった東芝 今後の収益を何に見出すか

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 東芝が重篤な危機に陥ることがあるなどと、一体誰が予想し得ただろうか。1875年(明治8年)7月に創業され、資本金2000億円、連結売上高5兆7,000億円、従業員数約18万8,000人(単体では3万6,601人)の巨大重電企業である。

――カラクリ技術の歴史をもつ名門企業――
 歴史をたどれば、大英博物館に収められたカラクリ人形など精巧なカラクリ技術で様々な人形、玩具などを作ったカラクリ儀右衛門(田中久重)を創業者の1人とする伝説の会社でもある。戦後になってからも冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、炊飯器など家電製品の国産化1号も多数手がけており、日本人のライフスタイルを発展させてきた白物家電のパイオニア的存在だった。その後、重電機器やエレベーター、原子力発電、パソコン、半導体関連などにも手をのばし、日本を代表する巨大企業になっていった。

――原発が事の発端――
 東芝危機のウワサが出始めたのは2-3年前からだ。東日本大震災で福島の原発が事故を起こし、原発に対する不安感が国民に広がっていた頃に、東芝原発部門にも経営的問題があると言われていたのである。ところが、原発だけでなく主要部門のインフラ関連工事、半導体、パソコンなどの分野でも利益水増しがあると言われ、2015年に不正会計が発覚した。この不正会計をめぐり経営陣による強い圧力があったことも判明し、田中久雄氏ら歴代3社長と役員ら計8人が引責辞任に追い込まれた。その結果、東芝の経営は大混乱に陥り、15年5月に予定していた決算発表が9月までズレ込む事態となった。

――新体制になっても動乱続く――
 2015年11月には、東芝が買収したウェスチングハウス(WH)が買収の後に個別に計1,156億円の減損を行っていたと公表。そのWHの減損処理が東芝の連結決算にも影響し、翌16年4月にWHののれん減損が2,600億円に上ると発表した。原子力以外でも減損があり、16年3月期は7,087億円の営業赤字となってしまった。このため医療機器子会社を売却し損失を埋めようとしたが、それでも最終赤字は4,600億円となった(いずれも連結ベース)。

 問題はさらに続いた。WHの関連企業や子会社の工事費コストが急増したせいか、WH内部でも損失が増大し、それらが東芝本体に再び影響してきたのだ。もはや原子力部門の損失は同部門だけでは処理できなくなっている。原発部門の損失はアメリカを中心に7,100億円を超えることが分かったのだ。結局、東芝の優良部門を次々と売却せざるを得ない状況に追い込まれていくのである。

――次々と資産売却――
 その結果、東芝は2015年7月に東芝エレベーターが外資系の昇降機大手の持株を1,180億円で売却したのを皮切りに、同年9月には測量機大手のトプコン株を全株売却(491億円)、同年12月に大分工場のウエハー製造ラインをソニーに190億円で売却、その後、同年12月に東芝家電製造インドネシア社の株を全株売却(30億円)、さらに2016年に入ると東芝ライフスタイルの株80%を中国企業に売却(537億円)、東芝メディカル(医療関係)の全株式をキヤノンに6,655億円で売却などと続き、所有の土地や建物も次々と売却した。さらに東芝を支えていた2大事業部門にも手をつけざるを得なくなっている。

――二大収益部門もまだ立ち直れず――
 2大収益事業とは原子力事業と半導体部門だ。原子力部門では、事業を統括していた志賀重範会長が退任。原子力事業を社長直轄とし、さらに精査を続けるとともに海外の原子力は設計と機器供給に特化し、国内は保守作業や廃炉作業を継続するとしている。海外の新設工事からは撤退する模様だ。原子力分野はほぼ解体の運命になったともいえる。

 一方、稼ぎ頭の半導体部門は数千億円の利益を出す分野だが、原子力部門の赤字が7,000億円を超え、東芝全体の最終利益も赤字の見通しとなった。場合によって資本を食いつぶし債務超過となる懸念も出てきたため、当面は分社化し20%程度の株を売却する方針だった。しかし、それでは間に合わないかもしれないので「株売却は過半数にこだわらない」とし、全株式売却もあり得ることを示唆し始めている。

 さらにリストラも厳しい。綱川社長は月額報酬を90%減額する意向といい、人員整理も数万人単位に及びそうだ。

―今は出血防止に必死。将来は?――
 今は出血をいかに防ぐかに全力を尽くしているが、問題は稼ぎ頭の分野や将来の有望分野を売却した後、今後の東芝は何を柱に再建していくのかという問題だ。綱川社長は「社員たちの心が折れないように全員で頑張っていく」と決意を述べているが、再建戦略を描けるかどうかだ。

 残った事業の中では社会インフラやエレベーター、鉄道、車部品、空調などのほかフラッシュメモリー以外の半導体事業IOT(あらゆるものがネットにつながる)などでイノベーションを目指し、収益をあげられるかどうか。

 かつては家電、重電業界の雄として電機メーカーのトップに立っていたが、今後はライバルだった日立の売上の半分位の規模になる可能性が強い。

 本稿で私は数年前から何度も“大動乱時代”が来ると書いてきたが、経団連会長を輩出し財界のリード役だった名門・東芝があっという間に転落する様を見るにつけ、現代という時代の恐さと経営者の責任の重大さを改めて感じる。
TSR情報 2017年2月21日】

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