今は中東より朝鮮半島を―安倍外交センスに疑問も―
安倍首相は連休中の4月29日から5月3日までアラブ首長国連邦(UAE)、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの中東各国を訪問している。連休中の首相の訪問外交は、いまや恒例となり外交に強い安倍首相のイメージを形成するための大きな“売り”となっている。
しかし、隣の朝鮮半島で大きな地殻変動が起きつつあり、唯一残っているとされる戦後の冷戦構造に風穴が開こうとしているこの時期に、なぜ朝鮮半島を差し置いて中東訪問なのか。その外交センスに疑問を持つ日本人が多いのではないか。
先日行なわれた韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の首脳会談で「板門店宣言」を合意した。内容は「朝鮮半島の完全な非核化」を共通の目標にするほか、休戦協定から65年の今年中に「終戦」を宣言し、休戦協定から平和協定への転換を目指すことを確認した。
■朝鮮半島は歴史的転換へ
朝鮮の両首脳は南北朝鮮の分断の象徴となっていた軍事境界線の38度戦の前で握手し、その後手を携えて二人で共に北側・南側に足を踏み入れた。金委員長は「200メートルという短い距離を越えて来たが、境界線は人が越えにくい高さでもないのに、あまりにも簡単に越えられた。この歴史的な席に11年もかかったことを考えるとどうしてこんなに長くかかったのか、大変だったのか、という思いがした。」と感慨深げにつぶやいていたのが印象的だった。
しかしこの会談と面会で南北和解が全てうまく終わったかといえば、決してそうではない。和解の精神と原則を確認したものの、今後の具体的内容の詰めは、むしろ厄介で交渉も難しいと予想されるからだ。
■南北の和解の具体化はうまくゆくか
例えば北の非核化をどう確認し、証明してゆくのか、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の非核化は約束したが、日本にとって脅威の近・中距離の核ミサイルをどうするのか、在韓米軍に依存すると予想されるミサイルの処分はどうするのか、北がミサイルを撤去、処分した後の北の体制保証をどう実現するのか、非核化の証明をどのように行なうのか――などの問題をどんな手続きで具体化してゆくのか。さらに、米朝、北朝鮮と韓国の交流をどう進めてゆくのか、監視と保証を北・南、アメリカ、中国だけでやるのか、ロシア、日本も入って行なうのか、日本の拉致被害者の送還をどう取り扱うのか、今後の軍事バランスをどうするのか、援助などをどう決めてゆくのか――等々、詰めるべき問題はヤマほどある。これらを考えると今回の会談が、本当に新しい歴史の出発点になり得るのか、あるいは途中で崩壊し、結局パフォーマンスだけで終わってしまうのか、まだ誰も成功の確信を持ってはいないのだ。トランプ米大統領は「歴史的な前進だ」と評価しつつも、具体的な成果をみるまでは“圧力”をかけ続けると言明しているのである。
■日本はアメリカの後を追い続けるだけでいいのか
問題は日本だ。対北朝鮮問題ではずっとアメリカの後を追い続け、“圧力”を口にしてきた。そのアメリカは文在寅韓国大統領の強力なイニシアチブで北の金正恩委員長を引っ張り出し、トランプ大統領はその努力に応ずる形で金委員長との会談を約束した。その間、日本はほぼカヤの外に置かれ、南北首脳会談が終わってから文大統領やトランプ大統領と話し合ったというのが実情だろう。
朝鮮半島情勢の行方は日本にとって極めて重大な問題だ。だが、その重要な進展の中で、これまで話し合いの中に入れず間接的な情報しか取れてこなかったのではないか。
■いつもカヤの外だった日本
米朝首脳会談まであと二ヶ月足らずだ。日本は中東訪問も大事だが、今後の日本の運命に直接関わる朝鮮半島情勢について韓国、北朝鮮、アメリカはもちろんのこと中国、ロシア、台湾、東南アジア諸国などと死に物狂いで話し合いを続け、日本の立ち位置をしっかりと定めておくべきだろう。
かつての日中国交回復、今回の北朝鮮でも日本は大事な時にカヤの外に置かれてきた。しかし日本は真ん中にいて情報を取り、日本の立場を関係国に主張しておくべきだろう。幸い北朝鮮は日本との話し合いにも前向きと聞く。外交を売りとする安倍内閣なら、この1ヶ月足らずの間に日本の立ち位置、主張を決められるように全力を尽くすべきだろう。
■首脳たちの個性も分析を
細かな虫の目で観察し、大所高所から見る鳥の目、そして朝鮮半島と日本の歴史を顧みて正しい判断をして欲しいものだ。また、首脳会談は首脳の個性キャラクターが大きく反映するといわれる。日本はもう一度関係国の首脳たちの物の考え方、性格、人柄なども早急に知っておくべきではなかろうか。
【参考資料】
これまでの南北会談の内容