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【再び動きだしたバチカン外交】~21世紀の課題にどう対応するのか~

バチカン外交が注目され出した。世界に約12億人の信徒を持つ世界最大級の宗教・キリスト教カトリックの総本山、人口わずか約800人、面積は日本の皇居より狭い44平方キロメートル足らずのバチカン法王庁だ。

バチカンローマ法王は、国際情勢が激変すると黒子役を務め対立する国々の懸け橋になったり、貧困撲滅や平和のために世界を駆け巡り祈りを捧げたり、各国からも一目をおかれている。

最近ではアメリカとキューバの電撃的橋渡し役を果たし、1959年キューバ革命以来の国交回復へのレールを敷いた。また昨年6月にはイスラエルのペレス大統領、パレスチナ自治政府アッバス議長をバチカンに迎えて中東和平を祈願、その一方でイスラム過激派の残忍な迫害には糾弾した。

フランシスコ現法王は、2013年に先代のドイツ出身ベネディクト16世から引き継いだ。アルゼンチン出身で、初の中南米出身の法王として戦争被害者や難民に救いの手を差し出す”貧者の教会”路線を打ち出して人気が高い。

先代法王は保守色が強いとされ8年間も在位したが、スキャンダルも出て存在感を感じさせなかった。しかしフランシスコ法王は、プロテスタントの多いアメリカでも支持率が80%に近く、オバマ大統領をはるかに上回っている。

現法王の行動は冷戦時代に世界を飛び回り”空飛ぶ法王”と言われたポーランド出身のパウロ2世を思いおこさせる。フィリピンを訪れてアキノ革命のきっかけを作り、中南米や韓国(金大中時代)でも次々と民主化政権づくりを支援した。極め付きは自分の故郷・東欧の民主化政策への後押しで、冷戦終結に大きな役割を果たした。父・ブッシュ米大統領とゴルバチョフソ連書記長の冷戦終幕の米ソ首脳和平会議も両者がローマ法王を訪れて行われている。

21世紀に入ってから激動の時代が続いている。湾岸戦争イラク戦争、アフガン戦争、アフリカの民族戦争、アラブの春とその揺り戻し、ロシアのウクライナ侵攻、イスラム国によるイラク・シリアを巡るアメリカ連合とのテロ戦争――等々、戦争の火種は依然尽きない。

フランシスコ法王は、第一次大戦開戦から100年にあたる昨年9月「第二次大戦が失敗に終わった今日、犯罪や虐殺、破壊による散発的な第三次世界大戦が起きている。」と指摘し、現代の戦争はかつてのような国同士の形をとらずテロ、サイバー攻撃、民族、宗教など全く新しい形の戦争を引き起こしていることを憂いた。

バチカンは世界で最も小さい“国”ながら、全世界に政治や経済、社会、戦争などあらゆる情報を収集する“大使館”と人を派遣して現代と将来の動向を分析している。それらを基に100年に1回の割合で“公会議”を開催し、100年の計と対策を練っているとされる。

記録によれば、紀元325年の第1回から22回開かれており、20世紀の公会議は1960年代に開かれ、①戦争と貧困に反対し、平和の確立を実現、②労働者の奉仕に感謝する、③国民の信教の自由、権利を確保――などを決めている。

パウロ2世はこれらを実現するための26年の在位中に104回、129ヵ国の海外訪問を行ない、その移動距離は地球30周分に及んだとされ、聴衆の数は1764万人に上ったという。

20世紀に作られた社会主義自由主義的資本主義、強国支配による国境などに次々と綻びが見え、グローバル化、IT化、新しい二極化、自然破壊と変動、偏狭なナショナリズムなどが各地で台頭している21世紀の課題にバチカン外交は新たな挑戦を試みようとしているのだろうか。
Japan In-depth  2015年2月28日掲載】