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外国人が狙うビジネスホテル

ビジネスホテルが好調だという。事実、東京の稼働率(全客室のうち利用されている部屋の割合)は83.9%。大阪でも78%に達している(14年4〜6月)。リゾートホテルが48%、旅館が35%というからその好調さがわかる。

 ビジネスホテル好調の背景にあるのは、ずばり外国人利用客の急増だ。かつては外国人の利用するホテルといえば、高級ホテルが多かった。ビジネスマンが圧倒的で、帝国、オークラ、ニューオータニのご三家を筆頭にここ10数年はコンラッドリッツ・カールトンなど外資系ホテルが続々とオープンし、リッチな外国人ビジネスマンを確保してきた。

 ところが、ここへ来て訪日外国人の客層が大きく変化してきたのだ。ビザ規制の緩和や数次ビザの発行などでアジアの観光客が急増してきたからだ。なかなか越えられなかった年間外国人観光客800万人のカベは、ここ1、2年であっという間に越え、2020年には2000万人をはるかに超えそうだ。ようやく日本にも〝観光大国〟の姿が見え始めたといえる。

 いまやアジアの中間層は8.8億人、2020年には20億人を超すとみられる。中間層になると家電製品や自動車、センスの良い洋服などを着るようになり、何よりも外国に憧れる。アジアで行きたい外国といえば、まず日本だったが、所得制限や日本の受け入れ体制が日本人観光客中心にしかできておらず、道路・駅表示なども不親切だった。

 ところが2、3年前から中国人観光客の入国規制を緩和したら、ドッと来日客がふえ1人当たり買い物額もアメリカ人などの2〜3倍に及んでびっくりしたのだ。これまではアジアからの入国者は、ビザが切れるとそのまま日本に不法滞在してしまうと心配し、規制がきびしかった。しかし日本が失われた20年で停滞しているうちにアジアの中間層がどんどん増えて、観光や買い物、ビジネスリピーターとなるように変化していたのである。これまで日本の規制がきびしかったので、アジアの中間層の観光先はタイや香港、台湾、韓国、マレーシア、インドネシアシンガポールが多く日本は7〜8位にとどまっていた。

 日本では1960年代から海外旅行ブームが始まりグアム、サイパン、韓国、台湾などの近場が人気で70年代以降になってハワイ、ヨーロッパ、アメリカと拡大し、今や人の行かないアフリカ、中南米中央アジアなどが人気となっている。アジアの人々も成長段階にあわせてかわってくるのである。その変化をとらえられず懸念ばかりして受け入れ体制が遅れると観光大国のチャンスは逃げてしまう。

 いまや札幌の東横インは中国人専用のビジネスホテルとなり、大阪の道頓堀ホテルは30カ国以上の外貨両替、無料国際電話、多言語室内サービスがあり9割が外国人宿泊者だ。またドーミーイン、アパグループは外国人仕様に客室を変えたり「和」をテーマにしている。1万円前後のホテルでアジアの一般中間層が日本を旅する時代になっているのだ。

【財界 2015年4月21日号 第397回】

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