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6日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~カジノ問題から観光立国の本来の意味を考える~

スタッフです。
6日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

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 テーマ:カジノで観光立国は大丈夫か?

本日はカジノ法案(IR法案)を取り上げたい。衆議院本会議で法案を可決して、 参議院に送られる方針ですが、急いで決めた感が強い・・・

【ルール無用の国会審議!?】
本国会は 強行採決が多く、TPP、年金制度の改革法案に続く3回目。通常委員会審議は30時間位要するものだが、本法案はたったの6時間で、数の力で押し切ったような強行採決となった。審議時間が余ったといって、般若心経を唱えたり、長崎の郷土愛を延々と述べる議員もいた。本来なら法案の中味を議論してから採決するものだが、今回は通過してからルールを考えるとのことで順番が逆になっており、今回のIR法案は採決のやり方がおかしいように思う。

マスコミ各社が社説等で心配や反対を表明しているが、どこ吹く風である。大島衆院議長もやり方がおかしいと内心不満を持っているとの記述が新聞にあったが、自民党内部にも相当不満があるという話も出てきている。

【美濃部都政で東京は公営ギャンブル廃止】
ここで思い出されるのは、1967年に美濃部都政は公営ギャンブル廃止を掲げ、1972年に後楽園競輪場、1973年に大井オートレース場を閉鎖した。1970年に起きた大井オートレース場でのプロ野球選手を巻き込んだ八百長事件は、閉鎖に拍車をかけたともいえる。その後は、石原都政時代にカジノ導入が検討され、風向きが変わっていったという流れもある。ここでは、観光立国を目指し一つの目玉にしたいという思惑もあるようだ。そこでカジノは観光に利するかどうかを考えてみたい。

【世界的にカジノは斜陽産業】
世界的に見ると近年カジノは儲かっていない。世界のカジノ業界は、日本で導入論が本格化した2013年頃から徐々に停滞してきている。カジノがある世界の都市は、マカオ、シンガポール、ラスベガス、台湾、韓国、ハノイホーチミンなどだ。ラスベガスはカジノ単体だけでの経営は厳しく、ショーなど複合的なIR(統合型リゾート)で顧客を呼び込んでいる。カジノの売上を見ると2010年台の始めにマカオがラスベガスを抜いている。売り上げが最も多かったのは2013年がピークで、その後現在まで減少傾向が続いている。

この現象の主要要因は中国経済の成長の停滞と共に、中国で進行している反腐敗運動による富裕層の出足の減少である。この現象で、中国がこのマーケットを握っていたことがよくわかる。マカオの特別行政区政府では「カジノ依存はやめるべきだ」という意見も出ており、脱却方法を模索しているが前途多難な状況である。

【トランプ氏はカジノで3度も破産】
不調なのはマカオだけでなく、2010年からカジノが解禁されたシンガポールは日本のカジノのお手本とされてきたが、 旅行者の大幅な減少に伴い売上も減少。シンガポールカジノ運営会社2社の2015年度の売上高は、 前年同時期比で14%も減少している。

さらに、外国人専用カジノが16カ所ある韓国のカジノ業界も、「中国人客減少で存亡の危機に直面」と報道・指摘されており、同様に厳しい状況である。ここからもわかるようにアジアのカジノは中国が支えていたということが改めてよくわかる。

そして、アメリカでもカジノは厳しい状態。トランプ次期大統領は1980年代後半までにカジノを3つ経営していたが、トランプ氏のカジノは90年代および2014年に合計で3回破産申請している。そういう意味からもカジノは飽和状態で、もはや成長産業ではないという烙印を押されているのである。

ギャンブル依存症は5%にも達す】
ビジネスとしての成長性が無いという側面以外にも、ギャンブル依存症の懸念が高い。有名なのは大王製紙 井川意高(いかわ もとたか)元会長の事件。マカオとシンガポールのカジノで100億円以上も負けたと話題になった。

私はラスベガスのカジノを訪れたことがあるが、カジノは24時間オープンなのでご飯も食べずにやり続ける人も多く、大損するときは1日で数千万円、億単位という人もいる。ラスベガスはホテル代は非常に安いが、ホテルでくつろぐという人は少ないように思う。

今年もギャンブルに関するニュースとして、バドミントン選手による「闇カジノ事件」などに象徴されるよう「ギャンブル依存症」が広がっているということもいえる。日本において、ギャンブル依存症及び疑いのある人は536万人(成人人口の5%)に達するという推計が2014年に厚生労働省より発表されている。

【問題が山積みだが・・・】
カジノの問題は犯罪組織の介入、治安、マネーロンダリングなど。マネーロンダリングでは違法に取得したおカネをカジノで 普通のおカネに変えるという懸念もある。普通はこれらの問題を十分考慮した上で法案を通過させるべきなのだが、今回のカジノ法案に関してはこれらの議論が全くなされていない。

日本はこれまでカジノを運営したことはないため、運営を外資系カジノ企業に任せる可能性もある。外資系も競って進出を希望しており、カジノ建設に数千億円規模の投資を表明している会社もあり、ラスベガスのサンズは百億ドル(1兆円)を出す用意があると表明している。外資系企業による運営となった場合にうまくいくかもしれないが、その場合の日本の旨みは何か。場所を貸すだけで、建設時にゼネコン等にはおカネは落ちるかもしれないが、税収が逃げて行ってしまうということも考えられる。そう考えるとカジノはあまり意味がないのではないだろうかともいえる。

【観光立国の主軸はいかに】
私自身は、カジノに賛成ではない。日本にはすでにパチンコ等の遊技がある。実際にラスベガスでカジノをやっているが、あまり面白いと思わなかった。日本人は熱しやすいところもあるので、当初は殺到するがその後一気に冷え込むことも考えられる。経営の問題もある上に、国が管理するとなるとおカネの問題も出てくる。

日本の刑法では賭博を禁止している。日本の競馬や競輪は、公営ギャンブルとして営まれており、寄付する仕組みもできている。カジノを日本でやる場合は特区を作ってその中で行なうという議論になっており、大阪、東京、横浜が立候補している。かつて一番話題になった沖縄は、風光明媚な景色など多くの観光資源があり、カジノが来ることによってむしろその資源がだめになってしまう可能性があることからむしろやらないと表明している。観光立国と言っているが、カジノも含めた観光立国なのか、カジノを含めない観光立国なのか日本が試されている。ルールをきちんと作らないと大変なことになるような気がする。

画像:Wikimedia commons(ラスベガスのルクソールホテル)

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