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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

デパート混迷 伊勢丹社長突然辞任

 

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1967年3月に大学を卒業し、私は最初の赴任地・秋田県に向かった。当時の秋田はコメ所として知られ、八郎潟の拓に手をつけており東北ではコメの産地として比較的豊かな県だった。県庁所在地の秋田市には、「木内」「本金」という二つのデパートがあり秋田市のランドマーク的存在だった。

60年代の地方の中核都市には、大体地元資本のデパートがあり、デパートで買い物をするということは、東京でいえば三越高島屋伊勢丹へ行くといった感じで特別な気分になったものだ。デパートは百貨店とも呼ばれ、それこそ靴から化粧品、洋服、電気製品、スポーツ用品、食料品、文具などあらゆるものを取り揃えていた。何でもあるので“百貨”店と呼ばれていたのだろう。

■“百貨”店から“50貨”店へ
だがデパート、百貨店は80年代頃から特別な存在ではなくなってきた。特に東京などの大都市では、化粧品、洋服、スポーツ用品などの専門店、外資系のブランドショップが次々と繁華街に専門店を出し、消費者はそちらへ足を運ぶようになった。その結果、デパートは高級品や特別な品を買う店ではなくなっていったのである。

同時に、売場から電気製品やスポーツ用品、文具などは消えて“百貨”を売る店から50貨、60貨の店になっていった。衣料品ではユニクロが全国に店を出し、化粧品は目抜き通りに外資系が軒を並べ始めた。スポーツ用品ではミズノやナイキ、眼鏡などもお洒落な品ぞろえの専門店があちこちに出始めた。さらに、ここ10年では通信販売で簡単に高級品や地方の特産品が手に入るようになってきたため、かつては消費の憧れの場所が普通の店になってきてしまったのだ。

■デパ地下、安売り、福袋の限界
いまやデパートの最大の売り場は“デパ地下”と呼ばれる食料品売場と、年に何回か行われる大安売り、正月の福袋などに狭まってきてしまった。この結果、デパートの売上げはどこも減少し始め、経営が行き詰まったり、支店を次々と閉鎖するところが増えている。地方では量販店と通信販売に押され、かつての街のランドマークだったデパートが消えてしまった都市も少なくない。

そんなデパート戦争の中でひときわ存在感を示していたのが東京・新宿の伊勢丹だった。若者向けの衣料品、ファッション製品を取り揃え一人気を吐いていたのだ。特に業界をあっと驚かせたのは2008年の伊勢丹と老舗中の老舗で、百貨店・デパートの代名詞ともなっていた三越との経営統合だった。世界最大の売上高を誇っていた新宿本店を持つ伊勢丹と富裕層の客を抱える老舗三越の経営統合は百貨店の新たな方向を示すものとして注目された。

■大西社長は一時寵児に・・・
特に12年に三越伊勢丹ホールディングス社長に就任した伊勢丹出身の大西洋社長は、自前の商品開発にこだわり、小型店の積極出店や中国人観光客の急増にも目をつけ、中国カード(銀聯カード)の利用をいち早く可能にしたり、旅行や飲食、婚礼など事業拡大にも積極的に取り組んできた。中でも利益率の高い独自商品を15%まで拡大するなどして売上高を伸ばし13年度は過去最高となる346億円の連結営業利益を上げた。この頃はデパート業界の代表といえば大西社長といった感さえあり、テレビや新聞、雑誌の寵児となったほどだ。

しかし中国爆買いブームが去ると三越伊勢丹グループもその波に巻き込まれ、営業利益は高島屋グループやJ.フロントリテイリングより大きく落ち込み、その責任を取る形で今年3月末に突然大西社長が辞任した。

今年になって不採算店の閉店や売場面積の縮小、業態転換を図ってきたが、伊勢丹は千葉と東京の二店舗に対し、三越は千葉店、多摩センター店を閉店、松山店、広島店を縮小したり、業態転換を図る方針とされる。リストラは三越の不採算店が中心となり、三越側からの反発が強まっていたともいわれ、一時はデパート業界を引っ張っていた大西氏の花形的振る舞いは4年半で幕を閉じた。大西氏は役員としても残らない。

■ビジネスモデルを見出せない百貨店業界
デパート経営はバブル崩壊後の90年代から苦しくなっており、合併連衡を続けてきたが、結局、本質的なデパート改革論をどこも出せずビジネスモデルを見失っているのが実情のようだ。2016年の百貨店売上高は6兆円を割ってしまい、ピーク時の6割まで減少している。デパートに慣れ親しんできた70代前後の消費者がデパートを見放すようになると前途は深刻だ。その深刻さはすでに地方の中核都市で20-30年前から徐々に表面化していたのである。
【Japan In-depth 2017年4月20日】

画像:Wikimedia commons