2020年の東京オリンピックをめがけて、都内、特に日本橋、銀座、丸の内(大手町)の三つの街の競争が激しくなってきた。これまで日本一のにぎわいと憧れの街は“銀座”と相場が決まっていた。しかし、いまやかつての江戸の中心街・日本橋が再び日本一を奪回しようと新たな都市開発ラッシュを進めているほか、20年前まではオフィス街とみられていた丸の内(大手町)も、最近急速にサラリーマン、OLが夜を楽しむ街に変わってきているのだ。この“日・銀・丸”の三つ巴の戦いぶりを探ってみた。
銀座は日本一どころか、ニューヨーク五番街と並ぶ“世界の銀座”として揺るぎない繁華街、おしゃれな街、夜の街として君臨してきた。昼間は買物客、親子連れなどが目立つが夜になると一転してネオンの街と変わり、接待の中心地、大人が楽しむ上品な酒と料理の街などとしてにぎわってきた。街の区画がはっきりし、通り名も知られているので、誰もが行きやすい場所でもあるからだ。
銀座は、4丁目角の三越、和光、鳩居堂などから四方八方に松屋、松坂屋などの老舗デパートが軒を連ね、80年代以降はルイ・ヴィトン、シャネルなど外資系の世界高級ブランド店もほとんど揃った。その一方で100年を越す老舗、世界中に知られるレストラン、新興のマツモトキヨシ、ユニクロといった店も並ぶ不思議な地域となった。
銀座松屋の古屋勝彦名誉会長によれば「銀座には“銀座フィルター”という言葉がある」という。銀座には老舗も中堅企業も新興の店も誰もが進出できる開放性があり、それが銀座を面白くし、にぎわいをもたらしている。しかし、数年から20~30年単位でみると、“銀座らしさ”を維持できない企業、店はいつのまにかフィルターにかけられ消えてゆくというのだ。その銀座フィルターとは、洗練されており、下品ではなく、お高く威張らず、もてなし上手であり、何よりも本物で上質な良い品物を取り揃えている――ことなどだと指摘する。
――銀座進出は企業家の夢――
どんな企業、店も「一度は銀座に出たい。できれば4丁目の近くに・・・」と思うそうだ。ただ、その思いがかなって銀座に出たものの、結局は経営が行き詰まって銀座から退出する企業も数知れない。
最近では堤清二氏が率いていた西武デパートが銀座のマリオンから撤退したし、同じ西武系のホテル西洋も閉鎖となった。夜の銀座を彩るバー、クラブに至っては毎日数十軒の店が閉鎖、開店を繰り返しているらしい。
――外資系ブランド店も縮小へ――
その王者・銀座の老舗2代目、3代目たちは最近、危機感を持ち始めているという。これまでは黙っていても“日本一は銀座”と余裕を持ち、実際に新たな有名店が続々と銀座に店を出し、それがまた話題となって人々が銀座に集まっていた。
ところが、“失われた20年”で企業の接待がめっきり減り、外資系のブランド店も銀座から撤退し、上海、北京などへと移っていく傾向が目立ち始めているからだ。いまや、世界で“日本の時代”が峠を越し、人口減少や高齢化が進行、日本の大企業・中堅企業がどんどん海外進出するようになってきた潮流と銀座の衰弱化も、無縁ではないということらしい。
――追う日本橋はコレド室町1~3で――
銀座が気をもんでいるのは、そんな動きだけではない。実は、銀座に隣接する日本橋、丸の内・大手町がひたひたと新たに装いを変えて追いかけてきているからだ。
日本橋はもともと、明治維新までは東海道の出発点で江戸の中心地だった。時代小説に出てくる小網町、門前仲町、小伝馬町、室町などは、今も老舗の小料理屋が軒を連ねているし、何といっても創業100年、150年を超える老舗が多い。「日本橋こそ東京の中心」という誇りと自負をもち、「銀座は新興の街」と思っている企業や店は少なくないのだ。
有名どころでは日本橋三越本店、髙島屋、榮太郎飴、山本海苔店、ふとんの西川、和菓子の鶴屋吉信、芋けんぴで有名な日本橋芋屋金次郎など、数え上げたらキリがないほどだ。その日本橋の再開発の中心になっているのが三井不動産で、旧白木屋、東急百貨店跡にコレド室町を開発したのを皮切りに、今年3月にコレド室町2、室町3などを次々とオープンさせた。
コンセプトは「残しながら、蘇らせながら、創っていく」で、老舗店と最新型商業施設の融合をめざし、街全体を「面」で作りあげようとしている。日本橋の上に高速道路が通り、日本橋川が見えなくなってから日本橋の凋落が始まったと考える人が多く、何とか早く高速道路の地下化ができないかと運動している。コレド室町にはエリア初のシネマコンプレックスがあり18.7m×7.9mの大型スクリーンが話題となっている。また、超高級ホテル「マンダリン」も建設され、外国人客の呼び込みにも熱心。コレド効果は順調で、今年9月に発表した4~6月期の三井不動産の連結決算は経常利益267億円で、前年同期比31%増となった。
これまでの日本橋へ来るお客さんは40代以上が中心だったが、今後は30~40代をコア目標とし、コレド3館の年間来訪者目標を1,700万人としている。江戸時代の中心を意識し、日本中の名店を集めつつ、“和”を意識した街づくりを目指して特色を出そうと反撃を試みているのが日本橋だ。
――丸の内もオフィス街から脱皮――
一方、銀座、日本橋が脅威に思っているのは、丸の内・大手町である。丸の内・大手町といえば、日本の大企業が本社を置くオフィス街として世界に名だたる地域だ。そこへ、丸の内の大家さんといわれる三菱地所が、通称三菱村といわれる丸の内の再開発に乗り出し、オフィス街と併存する商業施設を開発しだしたのである。
かつては「ロンドンのようなオフィス街」を出現させ日本企業の中心となっていたが、ビルの老朽化が目立ってきた。さらに、第二副都心の新宿や渋谷にも新興企業が次々と出るようになってきたため、丸の内北側、大手町の老朽化したビルを玉突き式に時間をかけて高層ビル、商業施設に建て替えているのだ。この過程で丸ビル、新丸ビルにレストラン、商業施設が次々とオープン、さらに東京駅の大改装、東京駅前の新キッテビルなども続々とオープン、大手町・丸の内のサラリーマン、OLを東京駅周辺の商業施設、レストランなどに集客している。かつては銀座や新橋、有楽町、日本橋などに流れていたサラリーマン、OLが大手町、丸の内で夜の食事、酒を楽しむようになってきたわけである。
さらに、世界19カ国に超高級ホテルを展開するアマン・リゾーツが開業するほか高級旅館「星のや 東京」が地下1,500mから温泉掘削に成功、2016年に和風ホテルを開業するし、東京駅のステーションホテルも再開発で人気を集めている。丸の内、大手町と東京駅八重洲口側の再開発が進み、連携してくると東京駅周辺も一大商業施設、レストラン、歓楽街になってこよう。
――銀座も巻き返しへ――
ところで、銀座にも新たな動きが出ている。「まったくなかった新しい銀座」をコンセプトに、オリックスグループが銀座1丁目を中心に「キラリトギンザ」(地上12階・地下3階)を開業する商業施設を発表しているほか、大丸・松坂屋グループのJフロントが銀座7丁目の松坂屋跡地を大改装し、新たな商業施設を展開する方針を打ち出しているのだ。ここには高級ブランド店、飲食店など約300店と大規模オフィスが入る。
オリンピック前に“日・銀・丸”地域争いはまさにヒートアップし、東京の新しい顔がどこになるか、面白くなってきたのである。
【TSR情報 2014年10月2日】