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行政は口をはさみすぎる

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 最近、行政が企業や個人の活動に口をはさみすぎるのではないか。

 典型的な例は官製春闘だ。給与や一時金は、各企業が業績をみながら従業員のやる気を引き出すために考えて出す極めて重要な個別企業戦略である。ところが、ここ2、3年、政権側は業界や、リーディング企業に対しても具体的数字をあげて要請している。

 春闘やボーナス交渉は経営者と組合がそれぞれの個別事情から何度も交渉して決めるものだ。特に中小、零細企業などそれこそ事情は千差万別で、その数は日本の全企業の98%前後を占めている。大手に提示する数字など中小から見たらとんでもなく高く、中小の従業員はますます格差を感ずじよう。

 これらだけではなく、総務省は3年にわたり“ふるさと納税”の返礼は納税額の3割以下に抑えるよう通達を出している。返礼品の過当競争に歯止めをかけるためだという。
 ふるさと納税は都市部に出てきて生活している人々が、出身地を応援して寄付する制度で2008年度に創設された。寄付すると確定申告により2000円を超えた分の住民税と所得税が年収に応じて控除(減税)される。このため“通常の寄付金控除に加えて住民税(所得税)税額の2割を上限に特例控除が講じられ、寄付額から2000円を差し引いた額が全て減税される”という。

 いまや寄付に対する市町村などの返礼品は当たり前となり、温泉感謝券、名産品など寄付者に贈る返礼額も過当競争で高額化していた。すると総務省は4月1日付で、返礼品の仕入れ価格は寄付額の3割以下に抑え、換金性の高い商品券などはやめるよう通達したのだ。

 しかしふるさと納税をする人の動機は返礼品欲しさだけではなかろう。地方の過疎化に心を痛めて都会へ出てきた人も多く、むしろ少しでも故郷の役に立ちたいという思いが強いのではないか。故郷の果物や干物、漬物などの味は東京で買える高額品より、よほど懐かしさがあり御裾分けから田舎話に花も咲こう。

 ふるさと納税のアイディアはなかなかのものだと思う。大都市に若者が出て行き、そのまま故郷を離れっ放しになるから地方が衰弱してゆくのだ。

 ふるさと納税という言葉には、衰退する故郷に、金銭的に支援するだけでなく心のつながりを維持したいとする心情もあろう。

 スタートした08年度には約72億円だった寄付総額は16年度には2600億円ほどになるという。ともあれ、官庁があれこれ口やまかしく上限まで設ける指導をしているようでは日本の寄付文化は成長すまい。何事もおカミが口をはさむのは慎みもっと民の常識を信じたらどうか。
【財界 2017年5月23日号】

画像:総務省 ふるさと納税ポータルサイト

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